ドイツの巨匠ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーの死後、ドイツ映画は国際的な注目を失って言った中で、2000年代初頭の「ベルリン派」の登場は世界で注目された。
彼らの制作された映画は、フランスでは「ヌーヴェル・ヴァーグ・アレマーニュ(ドイツの新しい波)」と呼ばれ、長回しや自然光を多用、日常的な場面を淡々と撮る映像スタイルが特徴。
多くの批評家にも賞賛されたその中心人物に、クリスティアン・ペッツォルト、アンゲラ・シャーネレクと並び今回の特集上映のトーマス・アルトランがいた。

アルスラン 真に世界的な映画作家
1996年ベルリンのある映画館で『兄弟』に出会って以来、ずっとアルスランに注目し続けてきた。99年のベルリン映画祭で『売人』が称賛され、移民二世でありニューシネマ美学のシネアストとしてアルスランの時代が来ると思われた。ところが彼はその追い風に乗ることはなかった。2001年の『晴れた日』は大げさな社会的・映画美学的身振りのないささやかな小品だった。アルスランは紋切型の予想を裏切ってゆく作家なのだとその時に得心した。続く『彼方より』は移民二世が遥かな故郷に向かうと思わせてアイデンティティを探す感傷的まなざしとは無縁だ。ドイツかトルコかの二項対立はすでに乗り越えられていた。だから続く『休暇』で典型的なドイツの家族映画をニュー・ジャーマン・シネマの代表的女優アンゲラ・ヴィンクラー主演で撮ったのは、彼なりに<ドイツ映画>を普遍的レベルにもたらすためのステップだったのではないか。それがもっとも成功したのが『イン・ザ・シャドウズ』だ。ファスビンダーの『愛は死より冷酷』をどこかで彷彿とさせるギャング映画はニューシネマ美学の到達点を示すとともに、同時代ベルリンを普遍的な犯罪都市に変貌させている。もはやアルスランにとってドイツやベルリンはアイデンティティの参照点ではない。だからこそ真に世界的な映画作家となりえたのだと思う。
                          渋谷哲也(ドイツ映画研究者)
http://www.athenee.net/culturalcenter/photo/arslan/arslan_chirashi.pdf

上映される8作品

『兄弟』
Geschwister 1996年(82分)

監督・脚本・編集:トーマス・アルスラン 撮影:ミヒャエル・ヴィースヴェク 出演:タメール・イギット、サヴァシュ・ユルデリ、セルピル・トゥルハン、 ヒルデガルト・クーレンベルク

http://kobe-eiga.net/program/2012/04/トーマス・アルスラン監督特集/

『売人』
Dealer 1999年(74分)

監督・脚本:トーマス・アルスラン
撮影:ミヒャエル・ヴィースヴェク 編集:ベッティーナ・ブリッ
クヴェーデ
出演:タメール・イギット、イディル・ユネル、ビロル・ユーネル、バキ・ダヴラク

画像2: http://kobe-eiga.net/program/2012/04/トーマス・アルスラン監督特集/

http://kobe-eiga.net/program/2012/04/トーマス・アルスラン監督特集/

『休暇』
Ferien 2007 年(91分)

監督・脚本:トーマス・アルスラン
撮影:ミヒャエル・ヴィースヴェック
出演:アンゲラ・ヴィンクラー、カロリーネ・アイヒホルン、ウーヴェ・ボーム

(映像は参考のための海外版予告です)

画像: Ferien (DE 2006/2007) - Deutscher Trailer youtu.be

Ferien (DE 2006/2007) - Deutscher Trailer

youtu.be

『晴れた日』
Der Schöne Tag 2001年(74分)

監督・脚本:トーマス・アルスラン
撮影:ミヒャエル・ヴィースヴェック
編集:ベッティーナ・ブリックヴェーデ
出演:セルピル・トゥルハン、ビルゲ・ビングル、フローリアン・シュテッター、ハンス・ツィッシュラー

画像3: http://kobe-eiga.net/program/2012/04/トーマス・アルスラン監督特集/

http://kobe-eiga.net/program/2012/04/トーマス・アルスラン監督特集/

『彼方より』
Aus der Ferne 2006年(89分)

監督・脚本:トーマス・アルスラン
製作・監督・脚本・撮影:トーマス・アルスラン
録音:アンドレアス・ミュッケ=ニージトカ
編集:ベッティーナ・ブリックヴェーデ
製作会社:ピックポケット・フィルムプロドゥ クツィオン ZDF:3sat

画像4: http://kobe-eiga.net/program/2012/04/トーマス・アルスラン監督特集/

http://kobe-eiga.net/program/2012/04/トーマス・アルスラン監督特集/

『周縁で』
Am Rand 1991年(24分)

監督:トーマス・アルスラン

『イン・ザ・シャドウズ』
Im Schatten 2010(82分)

脚本・監督/トーマス・アルスラン
撮影/ラインホルト・フォアシュナイダー
編集/ベッティーナ・ブリックヴェーデ
音楽/ガイア・イェンゼン
出演/ミシェル・マティシェヴィチ、カロリーネ・アイヒホルン、ウーヴェ・ボーム

(映像は参考のための海外版予告です)

画像: IM SCHATTEN- Trailer youtu.be

IM SCHATTEN- Trailer

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『黄金』
GOLD 2013年(101分)

脚本・監督/トーマス・アルスラン
撮影:パトリック・オールス
編集:ベッティーナ・ボーラー
音楽:ディラン・カールソン
出演:ニーナ・ホス、マルコ・マンディク、ラルス・ルドルフ

(映像は参考のための海外版予告です)

画像: Gold - Trailer (Thomas Arslan mit Nina Hoss, Lars Rudolph) youtu.be

Gold - Trailer (Thomas Arslan mit Nina Hoss, Lars Rudolph)

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トーマス・アルスラン Thomas Arslan

1962 年、ブラウンシュヴァイク(ドイツ)生ま れ。小学校時代の 4 年間をアンカラ(トルコ)で 過ごした後、ドイツに戻る。86 年にベルリンの 映画テレビアカデミーに入学し、92 年より映画 監督・脚本家として活動。アカデミーの同窓生 クリスティアン・ペッツォルトらと作風が類似 していたため「ベルリン派」と称された。
代表 作はトルコ系移民 2 世の若者を取り上げた 3 部作『兄弟』『売人』『晴れた日』。
ドキュメンタリー『彼方より』でトルコにカメ ラを向けた後、2006 年の『休暇』からトルコから離れたテーマで映画を作り続けた。
2013 年には西部劇『黄金』を制作、ベルリン国際映画祭をはじめ、世界中の映画祭で上映される。

トーマス・アルスラン監督特集
Thomas Arslan Retrospektive 2016
2016年5月10日(火)-5月14日(土)(5日間)
会場:アテネ・フランセ文化センター

詳細は下記まで

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