『二十四の瞳』(木下恵介 54)

 8年前、東銀座の東劇でロードショー公開された『二十四の瞳』デジタルリマスター版を観た時の感想です。

画像: http://co-smart.net/?p=5199

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 『二十四の瞳』(54)を公開当時に観ていた方も、作られて53年が経って違う面が見えたのではないではないかと思いました。
初めて『二十四の瞳』を観た人の多くは、木下恵介監督や高峰秀子さんを知っていることで起きる先入観から自由になって、新鮮な印象を持ったのではないかと思います。
 僕は『二十四の瞳』のラストで戦後再び、高峰さん演じる大石先生が教職に就いて、雨の中を自転車で岬の分校へ向かう場面になると泣いてしまう。
 木下監督が同時期に撮った作品には、家族の絆が薄れて、それぞれがエゴイズムに走る姿を描いた『日本の悲劇』(53)、全寮制の女学校で起きた民主化運動に巻き込まれて自殺に追い込まれていく女学生の悲劇を描いた『 女の園 』(54) がある。
 この2作品がリアリズムに徹して現実を厳しいタッチで描いたのに対して、『 二十四の瞳 』は忘れてはならない人間としての原点、自分達がそうでありたいと思う姿が観る人の心を惹きつけ温かくしてくれます。

画像: http://blog.goo.ne.jp/tetthan/e/feb667a69be9da1514890381eb8609c1

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 戦後、戦争が二度と起きて欲しくないという強い願いで制定された日本国憲法をなし崩し的に改憲する動きが盛んになり、同時に戦争中に起きたことを都合の良いように解釈して、戦争が起こした悲劇を忘れさせようとする考えが多くなってきています。
 『二十四の瞳』が持つ澄み切った清水のような美しい平和への願いは、20世紀前半に起きた悲劇を知る人が少なくなっていく中、当時の生きていてた人々の思いを僕に届けてくれます。
 厳しい時代の渦中にあっても見失わずに信じた真摯なヒューマニズム 、『 二十四の瞳 』を観てもし気恥ずかしさや照れがあるとしたら、今の社会から目を逸らしている恥ずかしさかもしれないです。

 木下監督が活躍した戦後すぐの時代は、何を表現するのか見えやすい時代だったという意見もあるかもしれないので、戦争中に撮った『陸軍』(44)に触れておきたいです。
 ラストシーンで母親が出征する息子の隊列を追って延々と走り続ける場面。先が見えなかった戦争中に、軍部の意図したはずの「勇ましい出征」ではなく、「 母の想い」を撮ることで、現実の社会と向き合い人間性の大切を描ききった作品です。
 『二十四の瞳』を含む木下監督の作品は、僕にとって人間を見つめているかどうかを問われる存在としてますます大切な映画になってきています。

原作 壷井栄 出演者 高峰秀子 月岡夢路 天本英世 笠智衆 田村高広 など

『二十四の瞳』デジタルリマスター 予告篇 directed by 橋口亮輔

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原作 火野葦平  出演者 笠智衆 田中絹代 東野英治郎 上原謙 杉村春子 など

陸軍(予告)

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御木茂則(映画キャメラマン)
1969年生まれ 日本映画学校卒業
映画の撮影の仕事を20年以上続けています。仕事を続けながら沢山の映画を観てきました。数えたことはないですが、多分4000本以上の映画を観ているはずです。どの映画も愛おしい作品ばかりであり、私が仕事を続けていくうえで大切なことを教えてきてくれました。この連載は愛すべき映画への感謝の思いで始めます。
「再会したい映画」というタイトルはベタですが、また映画館のスクリーンでこの映画に再会したい!という願いをこめています。読んだ方が紹介した映画に興味を持ってもらえたら嬉しいです。よろしくお願いします。
撮影担当作品
『部屋/THE ROOM』(園子温 1993年)
『バッハの肖像 LFJより』(筒井武文 2010年)
『フレーフレー山田 忘れないための映像記録』(監督/撮影・2011年)
『希望の国』(園子温 2012年)
『ヒキコ 降臨』(吉川久岳 2014年)
『三人吉三』(串田和美 大形美佑葵 2015年)
撮影補
『奈緒子』(古厩智之 2008年)
『生きてるものはいないのか』(石井岳龍 2012年)
照明担当作品(撮影 芦澤明子)
『孤独な惑星』(筒井武文 2011年)
『夜が終わる場所』(宮崎大祐 2011年)
『受難』(吉田良子 2013年)
『滝を見にいく』(沖田修一 2014年)

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