野島孝一の試写室ぶうらぶら シネフィル版 第5回:シネフィル新連載
「青空娘」「あの日の声を探して」「雪の轍」
「サンドラの週末」「ラン・オールナイト」
増村保造監督「青空娘」(1957年)
「若尾文子映画祭 青春」という催しが、6月27日から8月14日まで、角川シネマ新宿で行われ、60本が上映される。
そのうち、増村保造監督との出会いになった「青空娘」(1957年)を大クリーンで見ることができた。
私が高校に入ったころに上映された作品で、若尾文子という素晴らしい女優が誕生した、と評判が高かった。今見ても古さを感じさせない映画だ。
デジタル修復されたカラーは、テクニカラーっぽい濃い色で、鮮やかだし、音声もクリアだ。
田舎で育てられ高校を卒業した娘が、東京に引き取られるが、そこは継母と異母きょうだいが住んでいて、娘は女中にされてしまう。
どう見てもシンデレラの焼き直しだが、若尾文子演じる娘が明るく、たくましく前向きに生きているのがいい。
娘にほれ込む川崎敬三、学校の先生・菅原謙二、継母になる沢村貞子、女中のミヤコ蝶々など懐かしい顔ぶれが並ぶ。
省線の六三型電車、森永のネオン。懐かしい。
「あの日の声を探して」ミシェル・アザナヴィシウス監督
「あの日の声を探して」は「アーティスト」のミシェル・アザナヴィシウス監督が、フレッド・ジンネマン監督の「山河遥かなり」(48)にインスパイアされた作品。
1999年、チェチェンはロシアの侵攻を受けた。9歳の男の子、ハジ(アブドゥル・カリム・ママツイエフ)の両親は殺され、姉は行方が分からなくなった。
ハジは赤ん坊の弟を抱いて家を出ていく。ロシアでは若者のコーリヤ(マキシム・エメリヤノフ)が友人と街を歩くうちに警察につかまる。大麻が見つかり、彼は強引に軍隊に入れられてしまう。ロシアのイングーシ共和国にはチェチェン難民キャンプが作られる。
EU人権委員会のフランス人、キャロル(ベレニス・ベジョ)はチェチェン問題がEUで軽視されているのに怒りながら仕事をしている。赤ん坊を親切そうな家に置き去りにして、放浪するハジをキャロルは偶然出会い、キャロルはハジを一時預かることにした。
口のきけない少年ハジが、おずおずとキャロルに近づき、なついていくところは、もう涙腺が緩んでどうにもならない。
この子の表情が情けなそうで、かわいそうでならない。
一方、ロシアの若者コーリアは、軍隊でむちゃくちゃなしごきに遭い、無感情に人を撃つ精鋭に育っていく。
この監督は「アーティスト」では、モノクロの無声映画という奇手で魅せてくれたが、今回は非常にリアルな映像で、チェチェン紛争について描写している。
ただ、ハジのエピソードとコーリアのエピソードは、直接にはつながらない。
別の映画にする手もあったと思われる。
ギャガ配給。4月24日から全国順次公開中。
「雪の轍」トルコ映画 ヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督
「雪の轍」は、第67回カンヌ国際映画祭でパルムドール大賞、国際映画批評家連盟賞を受賞。
この映画の強烈さは、脳裡から離れないだろう。
トルコ映画。監督はヌリ・ビルゲ・ジェイラン。
場所はカッパドキア。
奇岩が立ち並ぶ異様な風景は、世界遺産に登録されている。
ここでホテルのオーナーをしている元俳優のアイドゥン(ハルク・ビルギネル)。
若い妻のニハル(メリサ・ソゼン)と、一緒に暮らす妹のネジラ(デメット・アクバァ)ともうまくいっていない。貸家の店子で家賃を払えない一家があり、訴訟問題に発展する。
一口に言えば、人間の誇りにかかわる話といったらよいか。
とにかく3時間16分にわたる人間描写と、会話の物静かなうちに込められた深い斬り結びに圧倒される。雪のカッパドキアの厳しい寒さが伝わる。いかにも映画らしい映画を見せてもらったという感慨があった。
ビターズエンド配給。6月27日から角川シネマ有楽町他で、全国順次公開中。
雪の轍公式サイト
「サンドラの週末」ベルギー映画 監督ダルデンヌ兄弟
「サンドラの週末」は、マリオン・コティヤール主演のベルギー映画。
監督のダルデンヌ兄弟は、「ある子供」などで高く評価されてきた。
コティヤールはこの映画で第87回アカデミー賞主演女優賞にノミネート。
サンドラ(コティヤール)は休職していたが、職場復帰を果たした。
ところがクビを宣告されてしまう。
二人の子供を抱え、夫の給料だけでは家賃も払えない。
経営者が突き付けた条件とは、サンドラの同僚の16人の過半数がボーナスをあきらめて、サンドラの復職に賛成すれば復職を認めるというものだった。
サンドラは週末を利用して復職に投票してくれるよう同僚を訪ね歩く。
私に言わせれば、これはないだろう。ベルギーには労働基準法はないのか。
同僚の復職か、ボーナスかを選べ、などと社員に投票させるふざけた経営者は、罪に問われるのではないか。
ということで、絵空事じみていてノレなかった。
コティヤールの熱演はもちろん認めるが。
ビターズエンド配給。5月23日からBunkamuraル・シネマほかで、全国順次公開中。
「ラン・オールナイト」
「ラン・オールナイト」はリーアム・ニーソン主演。
最近、アクション映画の出演が多いニーソン。
今回も体を張っての出番だ。
殺し屋として生きるジョー(リーアム・ニーソン)は、息子のマイク(ジョエル・キナマン)とも疎遠になっていた。マイクはジョーを嫌い、家族にも会わせない。
ところが、偶然マイクは殺人現場を目撃してしまい、殺人犯に狙われる。
殺されかけたマイクを救うため、犯人を射殺したのはジョーだった。
殺されたのは、ニューヨークを牛耳るマフィアのボス(エド・ハリス)の息子。
ボスは復讐のため、ジョーとマイクを殺すと宣言。
ジョーとマイクは、マフィアの殺し屋と警察の両方から追われる。
ジョーは酒に身を崩した老残の殺し屋。
しかしリーアム・ニーソンは、どうみてもそんな男には見えないから、全然実感が湧かない。
カー・アクションなどは、まずまずの出来。
スペイン出身で「フライト・ゲーム」を監督した、ジャウム・コレット=セラ作品。
ワーナー・ブラザース配給。5月16日公開から、全国順次公開中。
野島孝一の試写室ぶうらぶら 、オリジナル版は、アニープラネットWEBサイト
に掲載されています。
野島孝一@シネフィル編集部
アニープラネットWEBサイト
http://www.annieplanet.co.jp/