宮田三清さんと初めてお会いしたのは、2005年、25歳のときでした。

 私は某映画専門学校を出た後、雑多な映像の現場で美術や照明の助手として右往左往していて、ときにフツーのバイトもしたりしながら貯めた小金に借金を加えて、24歳になるまでに自主制作映画を3本こしらえました。散々周囲の友人知人家族に迷惑を掛け大騒ぎして撮影した割には大した満足感を得られることもなく、気がついたら劇団青年団の演出部に「留学」していたのが25歳の春です。
 その頃、自作の上映を通じて交遊のあった同世代の監督Kさんから誘われ、東映アニメーションに企画書を持ち込みました。それが採択され監督したのが『ざくろ屋敷』で、その作品の制作としてお世話になったのが宮田三清社長率いる制作会社アトムエックス、及びポストプロダクション会社のアクティブシネクラブでした。宮田さんのネアカで豪快なキャラクターは当時から既に強烈で、劣等感に煮詰まっていた自分はその表情仕草から溢れ出る押しの強い自信にたじろいだのを覚えています。

 3年後の2008年、私は『東京人間喜劇』という長編映画の企画を進めていました。自主映画です。
 手元の微々たる貯金をはたき、銀行のキャッシュローンからは限度額一杯まで引き出し(それでも50万円程度だけど)、劇団青年団から下りた助成金を足しても、まだまだ資金が足りない。そんなときに、「餞別だすよ」とポンと資金援助をしてくれたのが、宮田さんでした。『東京人間喜劇』はその資金と、アクティブシネクラブさんのサポートがなければ、完成すら危うかったと思います。
 その後も『歓待』、『ほとりの朔子』、現在製作中の『さようなら』と、その全ての作品にアクティブシネクラブは製作委員会の一翼として参加してくれました。
 無名でまったく実績もない若造の映画を、「君の脚本はよく分からないんだよね」と笑顔で言いながらサポートをしてくれる、それが宮田三清さんでした。

 その宮田さんが、先日急逝されました。年末から体調を崩されていたとは聞いていたのですが、回復し出社されているという話も一方で聞いていて、訃報に接したときは耳を疑いました。

 思えば、宮田さんはいつだって映画のことを、何よりインディペンデント映画のことを考えてくれていたように思います。大手の流通に必ずしも乗れない映画たちがどうやったらもっと作られ見てもらえるか、そんなことを憂いて、映画監督応援サイト“a-han.jp”を立ち上げたり、最近では”100万人プロジェクト”と銘打って業界関係者を集めた勉強会を開いたりしていました。
 その熱意は驚くほどで、傍目から見て少々空回りしているように思えるときもありましたが、この焼け野原のような日本映画界でその努力を笑える人などいるでしょうか?
 昨年10月、新作の撮影現場の長野県までバイクで駆けつけ、大きな声で現場を鼓舞してくれた宮田さんはもういません。人が死ぬ、というのはいつだってどうしようもなくそういうことなのですが、不思議です。狐につままれたようです。そして、今は仕上げの段階に入ったその新作を見て頂く機会が永遠に訪れないことが、残念でなりません。「脚本だとどこが面白いのかよく分かんないのに、できあがると不思議と悪くないんだよね」と優しく笑ってくれた宮田さんの目にこの作品がどう映るか、お聞きしたかったです。

 私は、宮田さんとはプライベートでは一度もお会いしたことはありません。仕事の付き合いで言っても、旧知の方や社員の方に比べれば何も知らないも同然です。
 なので、長くなりましたがこの文章は追悼とか大袈裟なものではなく、『ざくろ屋敷』『東京人間喜劇』『歓待』『いなべ』『ほとりの朔子』、新作の『さようなら』に関わったスタッフ・キャストに向けて、また観客としてそれぞれを楽しんでくれたかも知れない方々に向けて、これらの映画が完成しスクリーンに届けられるに至るには、宮田三清さんという強烈な個性の庇護者がいたという事実をお知らせしたく書きました。

 宮田さん、ありがとうございました。

深田晃司

深田晃司

1980年生まれ。大学在学中に映画美学校に入学。
長短編3本の自主制作を経て、2006年『ざくろ屋敷』を発表。
パリKINOTAYO映画祭にて新人賞受賞。2008年長編『東京人間喜劇』を発表。同作はローマ国際映画祭、パリシネマ国際映画祭に選出、シネドライヴ2010大賞受賞。
2010年『歓待』にて東京国際映画祭「ある視点」部門作品賞、プチョン国際ファンタスティック映画祭最優秀アジア映画賞受賞。
2013年『ほとりの朔子』にてナント三大陸映画祭グランプリと若い審査員賞、タリンブラックナイト映画祭にて最優秀監督賞を受賞。
2005年より現代口語演劇を掲げる劇団青年団の演出部に所属しながら、映画制作を継続している。

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