できるなら日中の、陽が出ている時間に、ぜひお天気もチェックして出かけて頂きたい展覧会である。いや普通なら美術館・博物館は展示品の保護のため外光・太陽光が入らない設計になっている(顔料の色素や、紙や布などの繊維は、紫外線で劣化したり褪色を起こす素材が多い)。天候の影響はなく、むしろ雨宿りにどうぞ、と言ってもいいくらいだ。

ルネ・ラリック テーブル・センターピース「三羽の孔雀」1920年 北澤美術館藏
旧朝香宮邸 設計: 権藤要吉(宮内省内匠寮) 玄関・大広間 内装設計:アンリ・ラパン

だがこの美術館は元は邸宅で、住居としての本来の設計がほぼ維持されている。美術館にするための改造は最低限で、改修工事が行われたのもバリアフリー化以外では建造当時の状態に戻すためだったりで、日中には太陽の光が室内に入る。

そして自然光で魅力がさらに増すのが、この展覧会の特色だ。

ルネ・ラリック 花瓶「ベルクール」1927年 北澤美術館藏

ルネ・ラリック デキャンタ「六つの顔」1914年 北澤美術館蔵

ルネ・ラリック シール・ペルデュ花瓶「ユーカリ」 1923年 北澤美術館蔵

ルネ・ラリック 花瓶「つむじ風」1926年 北澤美術館藏

ルネ・ラリック 香水瓶「牧神のくちづけ」モリナール社 1928年(左)「ダナエ」ルーヴル百貨店 1913年(右) 北澤美術館蔵

ルネ・ラリック 花瓶「大きな球形、キヅタ」1912年 北澤美術館蔵

ルネ・ラリック 円形インク壺「蛇」1920年 北澤美術館蔵

ルネ・ラリック テーブル・センターピース「火の鳥」1922年 個人蔵 朝香宮夫妻が同形品を所有していた
(自然光の効果を活かすため窓を背景に撮影しているので 裏側のため署名が鏡文字)

ルネ・ラリック アルコール式パフューム・バーナー「きんぽうげ」1928年 北澤美術館蔵

ルネ・ラリック 花瓶「雄鶏とぶどう」 1928年 北澤美術館蔵

ルネ・ラリック シール・ペルデュ花瓶「雀のフリーズ」1930年 北澤美術館蔵

ルネ・ラリック 花瓶「牧神」カット装飾 1931年 北澤美術館蔵

ルネ・ラリック 装飾品「開いたアネモネ」1931年 北澤美術館蔵

重要文化財の建物で本来の住宅のままの自然光が入る環境で見る、ガラスの魅惑

装飾美術 (arts décoratifs、縮めると art-déco)がこの美術館の専門分野、生活を美しく快適に彩るための品々が主人公である。

元が住宅なので、そもそも美術館などで観賞するために作られたわけではない生活用具や室内装飾品を、本来の目的に近い環境で見られるのはもちろんだが、この展覧会の場合、それだけでは済まない。

ルネ・ラリック 花瓶「牧神」(左)「四人のシレーヌ」(右)共にカット装飾 1931年 北澤美術館蔵
アンリ・ラパン設計 旧朝香宮邸 殿下居間

なによりも、今回のテーマがガラス製品であること。つまり光を透過し、光によって輝くモノたちが主役だ。ガラスは光次第で最大に魅力を引き出されることもあれば、いい光が当たっていなければ、まあ…ガラスは、ただのガラスだ。

無色透明のガラスであれば、それ自体には色もなにもない(むしろ透明度が高い方が「いいガラス」になる)。

ルネ・ラリック マディラ酒用グラス・セット「ひな菊」 1935-36年 北澤美術館蔵
旧朝香宮邸 設計: 権藤要吉(宮内省内匠寮) 小食堂

光が透過し、光が反射して生み出されるガラスの表情の魔力。古代ペルシャや古代ローマのガラスがシルクロードに沿って東に伝播して古代の日本人も魅了し(古墳時代の副葬品でもガラスは多用され、正倉院のペルシャ製の「白瑠璃碗」は教科書でもおなじみ)、中世のヨーロッパではステンドグラスとなって「神」や「天国」を想起させたようなガラスの神秘は、適した光がなければ、見えないものなのだ。

ルネ・ラリック テーブルウェア(燭台、グラス・セット、フィンガーボウル「トウキョウ」他) 北澤美術館蔵