東京・南青山の根津美術館において、企画展「やきもの名品紀行―中国・日本・朝鮮半島―」が2026年10月12日(月・祝)まで開催されている。
 *「展示室内の画像は、美術館の許可を得て撮影したものです。」

土を練り、形をつくり、火によって焼き固める。人類の生活とともに長い歴史を歩んできたやきものは、食器や調理具、貯蔵具など日常のさまざまな場面で用いられる一方、時代が下るにつれて実用を超えた美が見出され、やがて鑑賞の対象ともなっていった。

根津美術館は、こうした陶磁器を約2,300件所蔵している。本展では、その豊富なコレクションから名品を選び、中国、日本、朝鮮半島という三つの地域をめぐりながら、東アジアのやきものの歴史と多彩な表現を紹介する。

画像: 展示風景:中国・朝鮮半島と日本の主要窯址分布図のパネル photp©︎moichisaito

展示風景:中国・朝鮮半島と日本の主要窯址分布図のパネル
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展示は、展示室1の中国から始まり、展示室2の日本、そして展示室5の朝鮮半島へと続く。タイトルにある「紀行」の通り、三つの展示室を歩くこと自体が、海を越え、時代を越えてやきものを訪ねる旅となる構成だ。

三つの地域の陶磁器は、それぞれ孤立して発展したわけではない。中国で生み出されたさまざまな技術や様式は朝鮮半島や日本へ伝わり、各地の素材や生活、文化、美意識と結びつきながら、新たな表現へと展開していった。本展では個々の名品を鑑賞するとともに、作品を地域横断的に見比べることで、東アジアにおける陶磁文化の交流の歴史をたどることができる。

中国――技術革新が生んだ多彩な陶磁

最初の展示室1で紹介されるのは、中国のやきものである。一万年以上に及ぶ中国陶磁の歴史では、釉薬や窯、焼成技術の発達とともに、青磁、白磁、三彩、青花、五彩など多様なやきものが生み出されてきた。そこで培われた技術と様式は、中国国内にとどまらず、朝鮮半島や日本をはじめ、広く海外の陶磁文化にも影響を及ぼしていく。

北宋時代、11世紀の《青磁牡丹文水注・承盤》は、中国・浙江省に所在した越窯系の青磁である。水注とそれを受ける盤を組み合わせた器で、盤の中に湯を張り、水注の中の酒を保温するために用いられた。

画像: 展示風景:《青磁牡丹文水注・承盤》 水柱(右)・承盤(左) 中国・北宋時代 11世紀 根津美術館蔵 photo©︎moichisaito

展示風景:《青磁牡丹文水注・承盤》 水柱(右)・承盤(左) 中国・北宋時代 11世紀 根津美術館蔵
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淡く青みを帯びた釉調と整った器形。実用のための器でありながら、そこには高度な焼成技術によって生み出された宋代陶磁の洗練された造形を見ることができる。釉そのものの色と質感を美として成立させる青磁は、その後、朝鮮半島や日本にも大きな影響を与えることになる。

一方、明時代になると景徳鎮を中心に磁器生産がさらに発展し、色彩豊かな装飾も大きな魅力となっていく。重要文化財《五彩宝相華文瓶》は、16世紀、景徳鎮民窯の作品。赤と緑の絵具で器面を彩り、さらに金彩で牡丹文を加えた、いわゆる金襴手の長頸瓶である。堂々とした下膨れの器形をもち、鮮やかな色彩と金彩によって華麗な装飾世界がつくり出されている。

画像: 展示風景:重要文化財《五彩宝相華文瓶》 景徳鎮窯 中国・明時代 16世紀 根津美術館蔵 photo©︎moichisaito

展示風景:重要文化財《五彩宝相華文瓶》 景徳鎮窯 中国・明時代 16世紀 根津美術館蔵 
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静かな釉調を見せる北宋の青磁と、色彩と文様によって器面を華やかに飾る明代の五彩。同じ中国陶磁の中にも、時代と技術によって大きく異なる美が生み出されてきたことがわかる。

日本――受容から生まれた多様な美

展示室2では、日本のやきものへと旅が続く。日本の陶磁器は、中国や朝鮮半島からさまざまな技術を受け入れながら発展してきた。とりわけ近世になると、肥前における磁器生産や京都を中心とする京焼など、それぞれの土地に根ざした多様なやきものが展開する。

画像: 展示風景:重要文化財《銹絵染付金彩絵替土器皿》 京都 尾形乾山作 日本・江戸時代 18世紀 根津美術館蔵 photo©︎moichisaito

展示風景:重要文化財《銹絵染付金彩絵替土器皿》 京都 尾形乾山作 日本・江戸時代 18世紀 根津美術館蔵 
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その代表的な作品の一つが、尾形乾山による重要文化財《銹絵染付金彩絵替土器皿》である。琳派を代表する画家・尾形光琳の弟である乾山(1663~1742)は、陶芸に絵画や書、意匠を結びつけ、京焼に独自の世界を築いた。この作品では、手捏ねで成形した土器皿に鉄、呉須、金を用い、四季折々の自然を琳派的な意匠によって描いている。

一枚一枚の絵が異なる「絵替わり」の器であり、皿という日常的な器形の中に絵画的な世界が展開する。土の質感、器の形、描かれた自然のモチーフが一体となり、実用と鑑賞の境界を軽やかに行き来するところにも乾山の陶芸の特徴が表れている。

画像: 展示風景:《色絵三果文稜花皿》 肥前 日本・江戸時代 17~18世紀 根津美術館蔵(山本正之氏寄贈) photo©︎moichisaito

展示風景:《色絵三果文稜花皿》 肥前 日本・江戸時代 17~18世紀 根津美術館蔵(山本正之氏寄贈) 
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同じ日本のやきものでも、肥前でつくられた《色絵三果文稜花皿》は異なる表情を見せる。17~18世紀の作品で、乳白色の素地に桃、柘榴、仏手柑という吉祥の「三果」が色絵で描かれている。柿右衛門様式に代表される肥前磁器は、余白を大きく残しながら、鮮やかな色彩を効果的に配する構成を特徴の一つとした。17世紀以降、日本の磁器は海外にも盛んに輸出され、ヨーロッパの陶磁器にも影響を与えていく。

中国や朝鮮半島から伝えられた技術が日本で独自の表現へと変化し、さらに海を越えて別の文化圏へと渡っていく。やきものが一方向ではなく、複数の地域を結びながら展開してきたことを示す一例である。

朝鮮半島――青磁から粉青、白磁へ

階を上がった展示室5では、朝鮮半島の陶磁器が紹介される。

朝鮮半島でも中国の陶磁技術を受容しながら、独自のやきもの文化が形成された。高麗時代を代表する青磁から、朝鮮時代の粉青、そして白磁へ。その展開には、中国陶磁とはまた異なる器形や釉調、装飾への感覚が表れている。

15世紀の《粉青象嵌牡丹文厨子》は、朝鮮半島のやきものを特徴づける象嵌技法を用いた作品である。象嵌とは、器面を彫り、そこへ白土などを埋め込むことで文様を表す技法で、高麗青磁以来、朝鮮半島の陶磁器に多用されてきた。本作では牡丹文が象嵌されているが、特に珍しいのはその形と用途である。

画像: 展示風景:《粉青象嵌牡丹文厨子》 朝鮮半島・朝鮮時代 15世紀 根津美術館蔵 photo©︎moichisaito

展示風景:《粉青象嵌牡丹文厨子》 朝鮮半島・朝鮮時代 15世紀 根津美術館蔵 
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厨子は本来、仏像や経典などを納めるためのもの。陶器でつくられた厨子は例が少なく、この作品は信仰のための造形と陶磁技術とが結びついた貴重な例となっている。

画像: 展示風景:《白磁象嵌草花文瓶》 朝鮮半島・朝鮮時代 15〜16世紀 根津美術館蔵(秋山順一氏寄贈) photo©︎moichisaito

展示風景:《白磁象嵌草花文瓶》 朝鮮半島・朝鮮時代 15〜16世紀 根津美術館蔵(秋山順一氏寄贈)
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続く朝鮮時代には、儒教を重んじる社会の中で白磁が重視され、次第に朝鮮陶磁の中心となっていった。その展開を伝える作品の一つが、15~16世紀の《白磁象嵌草花文瓶》である。白磁の器面には、草花が大胆に簡略化された文様として表されている。端正な白磁でありながら、文様には素朴で伸びやかな趣があり、整然とした装飾とは異なる味わいを生み出している。また、象嵌という高麗時代以来の技法が白磁にも用いられている点にも注目したい。粉青と白磁を明確に切り離して捉えるのではなく、それまで培われてきた装飾技法を受け継ぎながら、新たな白磁の表現へと移っていく過程をうかがわせる作品である。

やきものを通して見る東アジア

中国、日本、朝鮮半島。それぞれの展示室を巡っていくと、東アジアの陶磁文化が単純な「技術の伝播」だけでは捉えられないこともわかる。中国で生み出された技術や様式は海を越え、朝鮮半島や日本へと伝わった。しかし受け入れた側はそれをそのまま模倣したのではなく、それぞれの土地の素材や用途、文化に合わせて変化させ、新しい美を生み出してきた。

青磁の釉色、粉青の象嵌、白磁の余白、京焼の絵画性、肥前磁器の色絵――。それぞれの作品の背後には、技術を受け継ぎながら異なる表現へと発展させてきた人々の営みがある。さらに、つくられた場所を離れることで、器に別の価値が与えられる場合もある。そのことを示すのが、展示室6で同時開催されている「名物茶陶」である。茶の湯では、古くから由緒のある優れた道具を「名物」と呼んできた。ここでは本展に合わせて、茶人たちによって見出され、評価されてきたやきものが紹介されている。

重要文化財《青井戸茶碗 銘 柴田》は、朝鮮時代16世紀の茶碗である。戦国武将・柴田勝家が主君の織田信長から拝領したと伝えられる作品で、青井戸を代表する名碗として知られる

画像: 展示風景:重要文化財《青井戸茶碗 銘 柴田》 朝鮮・朝鮮時代 16世紀 根津美術館蔵 photo©︎moichisaito

展示風景:重要文化財《青井戸茶碗 銘 柴田》 朝鮮・朝鮮時代 16世紀 根津美術館蔵 
photo©︎moichisaito 

朝鮮半島でつくられた器が海を渡って日本へもたらされ、茶の湯という文化の中で鑑賞され、「名物」として新たな価値を獲得していく。そこには、やきものの価値が、生産された土地や本来の用途だけによって決まるものではないことも示されている。

土と火から生まれた器は、人々の暮らしの中で使われ、時には信仰や権威と結びつき、交易によって海を越え、さらに鑑賞や茶の湯の対象ともなってきた。約2,300件に及ぶ根津美術館の陶磁器コレクションから選ばれた名品を通して、本展は中国、日本、朝鮮半島それぞれの陶磁文化の特徴を紹介するとともに、その背後にある東アジアの長い交流の歴史を浮かび上がらせる。

一つひとつの作品を見ることと、地域を越えて作品を見比べること。三つの展示室を巡る「紀行」を通して、東アジアのやきものが育んできた多彩な美に触れることのできる展覧会である。

開催概要

企画展「やきもの名品紀行―中国・日本・朝鮮半島―」

会期:開催中~2026年10月12日(月・祝)
会場:根津美術館 展示室1・2・5
開館時間:10:00~17:00(入館は閉館30分前まで)
休館日:毎週月曜日
    ※9月21日(月・祝)、10月12日(月・祝)は開館、9月24日(木)は休館。
入館料:オンライン日時指定予約 一般1,400円、学生(大学生以上)600円、高校生以下無料

公式サイト:https://www.nezu-muse.or.jp/

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