アイフォン1台とマックブック1台のみで制作されたと話題の映画『無こその存在 あるいは鮎子の人生』。シネフィルでは、GEN TAKAHASHI監督の独占インタビューをさせていただいた。

この度は、インタビューの機会を作っていただき、ありがとうございます。映画監督としての基本的なことから、新作『無こその存在 あるいは鮎子の人生』についてお聞きしたいと思います。お世話になります。頂きました書面に付記するかたちでお応えしますのでよろしくお願い致します。

1映画監督になられたきっかけは何でしょうか? 若い頃から監督志望だったのでしょうか?

18歳までは漫画家志望で弘兼憲史先生、柴門ふみ先生のアシスタントをして講談社ちばてつや賞期待賞も頂きましたが漫画の腕が上達しなかったので、19歳の時、いったん漫画を離れて特に決意もなく東映東京撮影所内にある東京美工という美術装飾会社のバイト募集に応募して入りました。私の祖父は東映動画(現・東映アニメーション)の創立メンバーのひとりで日本初の長編カラーアニメーション映画『白蛇伝』の監督・藪下泰司ですが、僕はそれまで映画とはまったく縁がなく、東映撮影所に入った際も祖父の影響やコネというものは何もなかったですね。でも、撮影所の初日の仕事が松田優作監督・主演の『ア・ホーマンス』で、あの優作を生で見ながら映画の現場を体験したことで完全に漫画を捨てて映画界に転身しようと思いました。それから現場の経験を積んで27歳で劇場映画監督デビューしました。

2映画監督になられるにあたり、好きだった映画、影響を受けた映画はありまうでしょうか?

 僕は東京新宿生まれですが早稲田で1人暮らしを始めました。その裏手に名画座として有名な早稲田松竹があったので、そこで生まれて初めてゴダール、トリュフォー、アンゲロプロスやアレン・レネだとか、それまで観たこともない分野の映画を知って、都内の名画座で映画のクラッシックを観まくりました。テレビディレクターのバイトで食いながら3年間で700本くらいは観たでしょうね。配信などない時代だからすべて映画館で観ました。この映画体験が大きかったでしょうね。そこでスコセッシ、コッポラ、カサヴェテス、ヒッチコック、キューブリック、小津、黒澤、溝口、勅使河原宏、寺山修司やATG映画もよく観ましたね。そういう意味で僕が影響を受けた映画というのは特定の1本というのではなく、1950年から70年代の洋画邦画に感化されたところはあるでしょうね。要するにスピルバーグ的な劇映画ではない、アート志向の作品が好きですね。

3新作についてお聞きします。どういった経緯でこの作品を撮られることになったのでしょうか? 着想の元になったものは何でしょうか?

 僕の場合、どの作品でも映画の着想というのはありません。8mmでアマチュア映画を撮っていた時代からそういうやり方で、映画にしようと自意識で企画を考えるということはないですね。原作や俳優が決められて監督のオファーを受ける商業映画は別として、自分の仲間で創る映画では、アイデアやイメージが降ってくるのを撮るだけです。降ってこなければ映画は撮らないから、本作のイメージが降ってくるまで3年間は新作を撮っていません。本作に出演した俳優の多くは、それ以前に企画倒れになった映画のリハーサルに参加していたので、足掛け2年後に「内容が変わってこれが降ってきたけどやる?」ということで本作になりました。

 作品のイメージとしては、カサヴェテスの『フェイシズ』が降ってきましたね。ほとんど俳優が話している顔で構成された、あの実験的な映画術なら、限定的な俳優とロケ場所でも撮影は可能だと思いました。実際、本作では違う場所に見せながら多くのシーンを同じロケ地を使いまわして撮っています。それに、いわゆる有名俳優はひとりも出ていない映画ですから、各俳優の顔がこれでもかというくらいアップの切り返しの連続で構成することでキャラクターと場面の印象は強くなります。そういう狙いですね。

4I Phone1台、Macbook1台で制作されたことが話題となっていますが、このスタイルはどういったお考えで発案されたのでしょうか?

 すでに特典映像で公表していますが、本作はiPhone1台、Macbook1機で撮影、編集、音響効果まで仕上げましたけど、スタッフは誰1人存在していません。映画のオープニングでは複数のスタッフの名前がクレジットされますけど音楽の村上純を除いて、撮影・編集・録音などの技術スタッフや助監督などもいないので、撮影はiPhoneを持った僕と役者たち、あとは僕の友人の市議会議員が運転手をしてたりで。セリフも90%はアフレコなので、これも僕と役者だけでやっています。それで僕は本作を「ワンオペ映画」と紹介しています。

 でも昔から撮影、編集を自分でやる監督はハリウッドや日本では塚本晋也監督などメジャー映画界にも多くいますから珍しいことではありません。ただ本作は、文字通り本当に僕1人で撮影から音響の仕上げまで全部をやりましたから、その点では珍しいかもしれません。このスタイルは、僕が2020年に脳梗塞を発症して右半身が不自由になって、同時にコロナ時代になったので商業映画は業界全体が動かなくなったし、自主映画でもスタッフが集まらなくなったので、じゃあiPhoneで撮ればいいじゃんということで始めた方法ですね。僕らの世代(1960年代生まれ)では8mmや16mmで、自分で撮影、編集してきた監督はむしろ普通にいますから、機械がフィルムからiPhoneに代替しただけということで何も苦労はありませんよ。

5主人公の鮎子は自身の貧困からテロを志願します。このキャラクターにはどんな思いを込められたのでしょうか?

 ネタバレになるから控えますけど、簡単にいうなら「世界は広いよ」ということを鮎子に助言してあげたいなあという感覚ですかね。最初にお話ししたように、鮎子というのは僕が考え抜いて創造した登場人物じゃなくて、降ってきたイメージですから、僕は思いを込めていません。年齢的にも孫を見守っている感じというか。

ただ、世界は広いという単純な事実を忘れてSNSだけで世界を把握した気分になっている人が多くなっているように思います。老若男女ともですけど。

6この映画をどういった観客に見ていただきたいと思われますか?

 スター俳優フルコースみたいな商業映画じゃないやつを観たいなと思う映画好きの人が観たらわりとおもしろいと思いますよ。

7今後のご予定、あるいは将来の作品の構想などをお聞かせください。

 そういいながら次回作から2028年にかけては、3本ほどは若手スターが主演する商業映画を撮ることになっています(笑)。一番近い新作は6月に撮影予定だとプロデューサーから聞いて準備が始まっています。それでも毎度、作品の構想は降ってくる企画だけをやっているので、僕自身にもどんな物語の映画が仕上がるのか未知ですし、そもそも論として映画屋は興行の世界ですから、同業者にアイデアを盗まれないためにも将来の作品については言いません。

以上です。よろしくお願いします。

無こその存在 あるいは鮎子の人生 
(2025年/日本/ヴィスタサイズ/カラー/サウンドステレオ作品)

鮎子、魚の名前のテロリスト計画。財務省職員2000人の皆殺し。
格差社会のドン底に生きるテロリスト志願の貧困女子・鮎子が日本の闇を討つ!

主演 佐久間あゆみ、ディエゴ・マルティーナ、芹沢尚哉、天蝶二、近藤善揮ほか
監督・脚本 GEN TAKAHASHI

©︎2025-2026 GEN TAKAHASHI/映画の創造

2026年5月30日(土)より新宿K’s cinemaにてロードショー 

www.ks-cinema.com

画像1: 『無こその存在 あるいは鮎子の人生』GEN TAKAHASHI監督インタビュー
画像2: 『無こその存在 あるいは鮎子の人生』GEN TAKAHASHI監督インタビュー

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