大阪を拠点に、香港、中国、バルカン半島などで映画を製作し、どこにも属さず彷徨う“シネマドリフター(映画流れ者)”を自称する映画監督リム・カーワイ。その原点となる幻のデビュー作『アフター・オール・ディーズ・イヤーズ』が、デジタル・リマスター版として15年の時を経てスクリーンに甦る。

画像: リム・カーワイ監督幻のデビュー作、15年の時を経て甦る
──『アフター・ オール・ ディーズ・ イヤーズ』デジタル・リマスター版 劇場初公開が決定

自己存在への恐怖、日常からの逃避を圧倒的な構造美で描き出した、鮮烈なるデビュー作

2009年、北京電影学院で映画を学んだリム・カーワイ監督が北京郊外で初めてメガホンをとった本作は、自己存在の消失への恐怖、そして日常からの逃避をテーマに、虚構と現実が交錯する二部構成で描かれる。

中国、日本、アメリカ、香港、ボリビアといった多国籍なキャスト・スタッフによって自主制作されたこの映画は、現実と夢の境界を曖昧にしながら、観客を白昼夢のような体験へと誘う。まさに“シネマドリフター”の出発点と呼ぶにふさわしい作品だ。

2010年に香港国際映画祭をはじめ世界各国の映画祭で上映され、黒沢清監督は「アジアのパワーと混沌がヨーロピアンな深い思索をもって構築され、最後にはまるでハリウッド映画のような興奮で観客を釘付けにする──世界映画の理想的なカタチがここにある」と激賞している。

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国境を越えたインディペンデント映画の奇跡

『アフター・オール・ディーズ・イヤーズ』は、2000年代の自由で混沌とした中国インディペンデント映画シーンの熱気を凝縮した、国境を越える創造の記録でもある。

ア・ジェを演じた大塚匡将は『恋人路上』(ツァン・ツイシャン監督/2008)で台湾南方影展最優秀長編映画賞を受賞し、中国でも高い評価を得た日本人俳優。

ゴウジー(狗子)は北京アンダーグランドの演劇作家・小説家で、『カム・アンド・ゴー』で久々にリム・カーワイ映画にカムバックした。

ヒロインのホー・ウェンチャオ(何文超)は、中央演劇学院監督コースの卒業制作が釜山映画祭短編コンペに選出された後、ヴィヴィアン・チュウ監督『水印街』(2013)で主演を務め、2024年には初の商業監督作『黄雀在后!』が中国で大ヒットを記録している。

撮影監督メイキン・フォン・ビンフェイ(馮炳輝)は香港出身の映像作家で、『香港公路電影』が山形国際ドキュメンタリー映画祭に出品。編集と照明を担当したのは、『タイムレスメロディ』『ホテルアイリス』の監督として知られる奥原浩志だ。

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“シネマドリフター”の現在
──休業宣言から新たな地平へ

近年のリム・カーワイ監督は『カム・アンド・ゴー』(2020/東京国際映画祭コンペティション部門出品)、バルカン半島三部作『どこでもない、ここしかない』(2018)『いつか、どこかで』(2019)『すべて、至るところにある』(2023)、そしてドキュメンタリー『ディス・マジック・モーメント』(2023)など、国際的な活動を続けてきた。

2024年の突然の休業宣言を経てなお、「台湾文化センター 台湾映画上映会」キュレーターや『週刊文春CINEMA』での連載「香港からの手紙」などを通じて、国際的な視野で文化をつなぐ役割を果たしている。

さらに2025年には、台湾の企画マーケット「金馬創投会議」にて新作企画『遠雷的午後』がノミネートされ、トム・リン(『九月に降る風』『夕霧花園』)がプロデューサーとして名を連ねることも話題となった。

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コメント&予告編公開

本作のデジタル・リマスター版公開にあたり、リム・カーワイ監督をはじめ、黒沢清監督、筒井武文監督、映画批評家・樋口泰人氏から絶賛コメントが寄せられた。

あわせて、モノクロームの静謐な映像と幻想が交錯する予告編、そして新たなメインビジュアルも完成。2000年代の中国インディペンデント映画の熱と、現代のリム・カーワイ監督の創造がひとつに結ばれる──『アフター・オール・ディーズ・イヤーズ』は、今こそ再発見されるべき“原点”といえるだろう。

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リム・カーワイ監督コメント

長編デビューから気づけば15年が経ち、この間に11本の長編映画を制作してきました。作品ごとにテーマやスタイルはそれぞれ異なりますが、無国籍/多国籍で根無し草のような原点は、やはりこの『アフター・オール・ディーズ・イヤーズ』にあると思います。

これまで劇場公開の機会がなかなか得られませんでしたが、今回こうして初めて劇場で上映できることを本当に嬉しく思います。これを機に、当時ビデオで撮影した本作の色と音を改めて調整し、デジタル・リマスター版として仕上げました。この映画が、まだ出会ったことのない多くの方々に届くことを楽しみにしています。どうぞよろしくお願いいたします。

リム・カーワイ(林家威)

1973年7月28日生まれ、マレーシア出身。大阪大学基礎工学部電気工学科卒業後、通信業界を経て北京電影学院監督コース卒業。卒業後、北京にて『アフター・オール・ディーズ・イヤーズ』(10)を自主制作し、長編デビュー。監督作品に『マジック&ロス』(10)、『新世界の夜明け』(11)、『Fly Me To Minami恋するミナミ』(13)、中国全土で一般公開された商業映画『愛在深秋』(16)、バルカン半島三部作『どこでもない、ここしかない』(18)、『いつか、どこかで』(19)、『すべて、至るところにある』(23)など。大阪三部作の3作目となる『COME & GO カム・アンド・ゴー』(20)は、東京国際映画祭でも上映され大きな話題になった。実在の映画監督渡辺紘文を主人公に、全国のミニシアターを行脚するロードムービー『あなたの微笑み』(22)は、日本に続き香港でも劇場公開し話題となった。日本全国のミニシアター22館をインタビューした映画『ディス・マジック・モーメント』(2023年11月25日公開)など、近年はドキュメンタリー映画も手掛けている。

画像: ©JUMPEITAINAKA

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黒沢清/映画監督
※2011年当時に寄せられたコメント

アジアのパワーと混沌が、ヨーロピアンな深い思索をもって構築され、最後にはまるでハリウッド映画のような興奮で観客の心を釘付けにする・・・世界映画の理想的なカタチがここにある。つまりこの作者はエドワード・ヤンがやったさらにその先を提示しようとしているのだ。彼の名前はリム・カーワイ、是非とも覚えておかねばなるまい。

筒井武文/映画監督

第1作にして、この完成度。リム・カーワイの『アフター・オール・ディーズ・イヤーズ』には、心底驚かされた。10年ぶりに帰郷した青年を家族をはじめ、街の誰もが覚えていない。狂っているのは、自分か、世界か。その場の関係性をワンショットで描き切る。それどころではない。世界の陰謀が明かされそうになると、それを超える不条理が見事なモノクロ画面に定着され、今度は内容を映画形式が凌駕していくことになる。15年前に撮られた傑作を遅れてきた観客として発見すること。しからば、リム・カーワイ世界の進展という追体験の愉しみが待っている。

樋口泰人/boid主宰・映画批評家

まるで太古の昔より根を張りそこにあったのだとでも言うかのような振る舞いを見せる登場人物や街の風景に貼りついた、しかし明日はどうなるかまったくわからないといったどこか無責任で限りなく危うい浮遊感。それはおよそ0.12ミリという35ミリフィルムの薄さのもつ頼りない存在感とも言い換えられるだろう。リム・カーワイは初の長編であるデジタル作品で、その半透明の怪しい揺らめきを見事に映し出したのだ。そこでは現在が当たり前のように融解して過去や未来になだれ込み、「今ここ」という現在を形作るいくつもの地層を暴き出すだろう。フィルムの連なりとも言える、見るものすべてをそんな「映画」へと誘うミステリートレインは絶賛走行中である。荒野を走るその長い長い列車を見たら、誰もが「映画」の世界へと連れ去られるに違いない。

『アフター・オール・ディーズ・イヤーズ』デジタル・リマスター版予告編

画像: 映画『アフター・オール・ディーズ・イヤーズ』予告編 www.youtube.com

映画『アフター・オール・ディーズ・イヤーズ』予告編

www.youtube.com

STORY

10年ぶりに故郷に帰ってきたア・ジェ。
しかし、家族でさえ彼の存在を知る者はいない─
唯一ア・ジェを覚えているのは、レストランの店主ラオ・ファンだけだ。
ラオ・ファンに連れられ、秘密の鍵を握る男に会いに行くが、ア・ジェは殺人の濡れ衣をきせられ処刑されてしまう…。
死んだはずのア・ジェが、再び街に戻ってきた。空虚な日常を生きるラオ・ファンは、過ぎし日々に思いを寄せる。町に起こる奇怪な事件をきっかけに、彼らは新しい人生を手に入れられるのか─
第一部で自己の存在についての恐怖と疑いを、第二部で退屈な日常生活からの逃避を、空想と幻想を通して描かれていく。
二つの異なった視点で世界を覗いたとき、観客は自然と白昼夢に引き込まれていく─

出演:大塚匡将、ゴウジー(狗子)、ホー・ウェンチャオ(何文超)
監督・脚本:リム・カーワイ
撮影:メイキン・フォン・ビンフェイ(馮炳輝)
録音:山下彩
編集:奥原浩志、Phillip Lin
美術:Amanda Weiss
音楽:Albert Yu
配給:Cinema Drifters
宣伝:大福
英題:After All These Years
2025/2010|マレーシア・中国・日本|モノクロ+カラー|DCP|ステレオ|98分
©cinemadrifters

2025年11月29日(土)よりイメージフォーラム他全国順次公開

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