茶道史上に極めて重要な位置を占めながらも、これまで注目されることが少なかった石州と石州流の茶の湯を顕彰する展覧会「特別展 武家の正統 片桐石州の茶」が根津美術館において2025年3月30日まで開催されています。
「※特別な許可を得て撮影しています。館内は撮影禁止です。」

江戸時代の大名茶人、片桐石州(1605-73)は、千利休の実子・千道安から茶の湯を学んだ桑山宗仙(1560-1632、左近)の晩年の弟子です。利休流の侘び茶を基盤にしながら、大名らしい格式高い茶会を開き、武家茶道を確立しました。展覧会は四章構成になっています。

第一章「茶人・片桐石州」

石州は、戦国武将・片桐且元の弟・貞隆の子として摂津国茨木で生まれ、寛永元年(1624)に石見守に叙任され、寛永4年(1627)に父の跡を継いで大和国小泉藩(現・奈良県大和郡山市)の二代藩主として約1万3000石の所領を有する大名でした。幕府の役職を務める一方で、茶の湯を極め、茶道・石州流の祖として知られています。

画像: 展示風景:洞月筆、真巌宗乗賛《片桐石州像》(江戸時代 明和4年・1767)芳春院蔵 ※前期展示(~3/9)後期は別の肖像画が展示される photo©︎moichisaito

展示風景:洞月筆、真巌宗乗賛《片桐石州像》(江戸時代 明和4年・1767)芳春院蔵 
※前期展示(~3/9)後期は別の肖像画が展示される
photo©︎moichisaito

画像: 展示風景:片桐石州作《茶杓 銘 時鳥 共筒》(日本・江戸時代 17世紀)根津美術館蔵 photo©︎moichisaito

展示風景:片桐石州作《茶杓 銘 時鳥 共筒》(日本・江戸時代 17世紀)根津美術館蔵
photo©︎moichisaito

第二章「石州をめぐる人々」

石州は29歳の時、幕府から京都の知恩院再建のために作事奉行に任命されました。再建工事が完了するまでの8年間、彼は京都に滞在し、職務の合間に京都の文化人との交流を深め、自身の素養を高めました。その後も京都に屋敷を構え、交流は続きました。大徳寺芳春院での綬号や高林庵の建立、憧れの茶人・小堀遠州とのやり取り、千家の茶人との深い関わりなどが、残された書状や茶道具から伺えます。

画像: 展示風景:小堀遠州筆《書状 片石州宛》(日本・江戸時代 17世紀)大和文華館蔵 photo©︎moichisaito

展示風景:小堀遠州筆《書状 片石州宛》(日本・江戸時代 17世紀)大和文華館蔵
photo©︎moichisaito

画像: 展示風景:重要美術品《闘鶏図真形釜》(日本・室町~桃山時代 16世)紀芳春院蔵 photo©︎moichisaito

展示風景:重要美術品《闘鶏図真形釜》(日本・室町~桃山時代 16世)紀芳春院蔵
photo©︎moichisaito

三章「石州の茶の湯」

大名として江戸と国許、さらに京都の三箇所を頻繁に往来していた石州は、各地で茶会を開いていました。そこには、江戸幕府の幕閣や旗本、僧侶、町人など多様な人々が招かれました。そして、小堀遠州の死後、彼らの支援を受けて、茶匠としての地位を確立しました。

石州がもっとも愛用した茶入がこの《尻膨茶入 銘 夜舟》・《肩衝茶入 銘 奈良》・《肩衝茶入 銘 八重垣》の瀬戸茶入れです。連会でも用いられ、この三つで使用回数の約七割を占めています。見どころは武家茶人好みの牙蓋や仕覆などの付属品です。

画像: 展示風景:《尻膨茶入 銘 夜舟》(桃山~江戸時代・16~17世紀)根津美術館蔵 photo©︎moichisaito

展示風景:《尻膨茶入 銘 夜舟》(桃山~江戸時代・16~17世紀)根津美術館蔵
photo©︎moichisaito

画像: 展示風景:《尻膨茶入 銘 夜舟》の付属品の揃い photo©︎moichisaito

展示風景:《尻膨茶入 銘 夜舟》の付属品の揃い
photo©︎moichisaito

画像: 展示風景:《肩衝茶入 銘 奈良》(江戸時代・17世紀)個人蔵 photo©︎moichisaito

展示風景:《肩衝茶入 銘 奈良》(江戸時代・17世紀)個人蔵
photo©︎moichisaito

画像: 展示風景:《肩衝茶入 銘 奈良》の仕覆 photo©︎moichisaito

展示風景:《肩衝茶入 銘 奈良》の仕覆
photo©︎moichisaito

画像: 展示風景:《肩衝茶入 銘 八重垣》(江戸時代・17世紀)愛知美術館蔵(木村定三コレクション) photo©︎moichisaito

展示風景:《肩衝茶入 銘 八重垣》(江戸時代・17世紀)愛知美術館蔵(木村定三コレクション)
photo©︎moichisaito

画像: 展示風景:《肩衝茶入 銘 八重垣》の仕覆 photo©︎moichisaito

展示風景:《肩衝茶入 銘 八重垣》の仕覆
photo©︎moichisaito

画像: 展示風景:片桐石州作《茶杓 銘ゆがみ 共筒》(日本・江戸時代 17世紀)個人蔵 photo©︎moichisaito

展示風景:片桐石州作《茶杓 銘ゆがみ 共筒》(日本・江戸時代 17世紀)個人蔵
photo©︎moichisaito

石州作 の《瓢炭斗》は、瓢箪の器です。瓢箪は虫喰いを避けるため漆を塗ることが多いのですが、伝来者のひとりである松平周防守が添えた付属品の蓋裏に、そのままに手入れして使うようにと書付がある珍しいものです。

画像: 展示風景:片桐石州作 《瓢炭斗》(江戸時代・17世紀)岐阜プラスチック工業株式会社蔵 photo©︎moichisaito

展示風景:片桐石州作 《瓢炭斗》(江戸時代・17世紀)岐阜プラスチック工業株式会社蔵
photo©︎moichisaito

寛文5年(1665)11月8日、61歳の石州は江戸城黒書院で4代将軍・徳川家綱に献茶しました。この際、道具は将軍家の名物茶道具「柳営御物」から選ぶことを許され、床の間には無準師範の墨蹟「帰雲」が掛けられました。無準師範(1178~1249)は中国南宋の禅僧で、その墨蹟は堂額または掛物として書かれたとされています。この献茶により、石州は武家茶道の地位を確立しました。

画像: 展示風景:重要文化財《無準師範墨跡 帰雲》(中国・南宋時代 13世紀)MOA美術館蔵 photo©︎moichisaito

展示風景:重要文化財《無準師範墨跡 帰雲》(中国・南宋時代 13世紀)MOA美術館蔵
photo©︎moichisaito

《松笠釜》は、石州が西村弥三右衛門につくらせ、24会の茶会のうち22会に登場したと記録される釜です。この珍しい造形の茶釜は、茶記には「ちちり」(松笠のこと)と記されているそうです。

画像: 展示風景:西村弥三右衛門作《松笠釜》(江戸時代・17世紀)個人蔵 photo©︎moichisaito

展示風景:西村弥三右衛門作《松笠釜》(江戸時代・17世紀)個人蔵
photo©︎moichisaito

四章「石州の茶の広がり」

石州の茶の湯は、将軍や大名の権威のもとで発展し、江戸城や各藩で多くの茶道職を担いました。石州流は一子相伝ではなく、免許皆伝によって継承され、全国に分派しながら幕末まで広まりました。石州流は、徳川政権下での武家茶道の正統とされます。また、幕末の大老・井伊直弼は石州茶人の代表的な人物で、日米修好通商条約に関わったことで知られていますが、茶の湯に深く傾倒し、「一期一会」という言葉に茶の本質を見出し、広めた茶人でもありました。

また晩年の弟子の一人である平戸藩主・松浦鎮真は、石州自作や旧蔵の道具を譲り受け、石州流の宗匠を抱えて流儀を広め、さらに鎮真流を新たに開きました。

画像: 展示風景:《唐物文琳茶入 銘 宇治》(中国・南宋~元時代 13世紀)東京国立博物館蔵 photo©︎moichisaito

展示風景:《唐物文琳茶入 銘 宇治》(中国・南宋~元時代 13世紀)東京国立博物館蔵
photo©︎moichisaito

石州自作の茶杓は、大名らしい品格が漂います。本作はその代表作として知られ、石州流の茶を習った雲州松江藩七代藩主・松平不昧の蔵帳『雲州蔵帳』にも掲載されています。

画像: 展示風景:片桐石州作《茶杓 銘 五月雨 共筒》(日本・江戸時代 17世紀)野村美術館蔵 photo©︎moichisaito

展示風景:片桐石州作《茶杓 銘 五月雨 共筒》(日本・江戸時代 17世紀)野村美術館蔵
photo©︎moichisaito

画像: 展示風景:《青磁筒花入》(明時代・16~17世紀)彦根城博物館 ※前期展示(~3/9) photo©︎moichisaito

展示風景:《青磁筒花入》(明時代・16~17世紀)彦根城博物館 ※前期展示(~3/9)
photo©︎moichisaito

《東都茶入大相撲》という幕末の茶人番付表には、中央と両側の袖に「石州派」の重鎮の名が刻まれるています。

画像: 展示風景: 《東都茶人大相撲》(江戸時代、嘉永4年・1851)個人蔵 photo©︎moichisaito

展示風景: 《東都茶人大相撲》(江戸時代、嘉永4年・1851)個人蔵
photo©︎moichisaito

画像: 展示風景:石州茶会の主要な客の同席関係を示した図 photo©︎moichisaito

展示風景:石州茶会の主要な客の同席関係を示した図
photo©︎moichisaito

武家茶道の礎を築き、後世の茶人に影響を与えた石州ですが、これまで詳しく取り上げられる事はなく、その功績も広く知られているとは言えませんでした。本展覧会は、石州の生涯と石州流の世界感を堪能できるものとなっています。ぜひ足を運んで見ましょう。

概要

会期:開催中~2025年3月30日 ※一部展示替えあり(前期:2月22日〜3月9日、後期:3月11日~3月30)
会場:根津美術館
住所:東京都港区南青山6-5-1
電話番号:03-3400-2536 
開館時間:10:00~17:00 ※入館は閉館の30分前まで
休館日:月
料金:オンライン日時指定予約 一般 1500円 / 学生 1200円、当日券 一般 1600円 / 学生 1300円 ※障がい者手帳等持参者および同伴者は200円引き、中学生以下無料

This article is a sponsored article by
''.

No Notification