20世紀初頭、ワシリー・カンディンスキーやピート・モンドリアンといった同時代のアーティストに先駆け、抽象絵画を創案した画家として、近年、再評価が高まっているスウェーデンの女性画家ヒルマ・アフ・クリント(1862-1944)。
2013年にストックホルム近代美術館からスタートしたヨーロッパ巡回の回顧展でその全貌が明らかになり、100万人以上の動員を記録、また2018年にニューヨークのグッゲンハイム美術館で開催された回顧展においては、同館史上最大となる60万人超の動員を記録し、全世界から注目を集めています。
ニューヨークに続き、世界各地で大規模な展覧会が開催され、遂に日本で、アジア初の展覧会となる「ヒルマ・アフ・クリント展」が東京国立近代美術館において6月15日まで開催されています。
本展では、アフ・クリントのキャリアにおける最良の達成と言える、高さ3m超・10点組の絵画〈10の最大物〉(1907年)をはじめ、すべて初来日となる作品 約140点が出品されています。
代表的作品群「神殿のための絵画」を中心に構成し、画家が残したスケッチやノートなどの資料、同時代の秘教思想・自然科学・社会思想・女性運動といった多様な制作の源の紹介を交え、ヒルマ・アフ・クリントの画業の全容をご堪能いただけます。
無限の創造力にあふれるヒルマ・アフ・クリントの世界を是非、ご覧ください。

ヒルマ・アフ・クリント、ハムガータン(ストックホルム)のスタジオにて 1902年頃
ヒルマ・アフ・クリント財団 By courtesy of The Hilma af Klint Foundation
1章 アカデミーでの教育から、職業画家へ
ヒルマ・アフ・クリントは1862年10月26日、ストックホルム(スウェーデン)の裕福な家庭に生まれ、1882年、王立芸術アカデミーに入学、正統的な美術教育を受けました。この時期に制作されたと思われる植物図鑑のように緻密な写生などからは、彼女が習得した技術の高さを見て取ることができます。
1887年、アカデミーを優れた成績で卒業し、主に肖像画や風景画を手がける職業画家として順調にスタートします。また児童書や医学書の挿画に関わったり、後にはスウェーデン女性芸術家協会(1910年発足)の幹事という実務的な仕事を担ったりと、多方面で活躍を見せました。

ヒルマ・アフ・クリント 《ポピー》 制作年不詳 水彩、インク・紙 58×35.5cm ヒルマ・アフ・クリント財団 By courtesy of The Hilma af Klint Foundation
2章 精神世界の探求
ヒルマ・アフ・クリントがスピリチュアリズム(心霊主義:人は肉体と霊魂からなり肉体は消滅しても霊魂は存在し続け、現世へ働きかけてくるという思想)に関心を持ち始めたのは1879年頃、彼女が17歳の時とされています。
アカデミーでの美術教育(1882–1887年)と並行しながら、スピリチュアリズムはアフ・クリントの思想や表現を形成し、決定づける要因となっていきます。
特にヘレナ・ブラヴァツキー(1831–1891)が提唱し、世界的に受容された神智学(しんちがく)にアフ・クリントは影響を受け、瞑想や交霊の集いに頻繁に参加し、知識を深め、1896年、特に親しい4人の女性と「5人(De Fem)」というグループを結成し、以降、1908年頃まで活動しました。
3章「神殿のための絵画」
1904年、アフ・クリントは「5人」の交霊の集いにおいて、高次の霊的存在より、物質世界からの解放や霊的能力を高めることによって人間の進化を目指す、神智学的教えについての絵を描くようにと告げられます。この啓示によって開始されたのが、全193点からなる「神殿のための絵画」です。

展示風景
本展のハイライトとなる、代表的作品群「神殿のための絵画」のなかでも異例の巨大なサイズで描かれた〈10の最大物〉(1907年)。
アフ・クリントは、啓示に従って、人生の 4つの段階(幼年期、青年期、成人期、老年期)を描いた「楽園のように美しい10枚の絵画」を制作しました。
乾きの早いテンペラ技法でわずか2か月のうちに巨大なサイズの10点を描き出したのです。

ヒルマ・アフ・クリント 《10の最大物、グループIV、No. 3、青年期》 1907年
テンペラ・紙(キャンバスに貼付) 321×240cm ヒルマ・アフ・クリント財団
By courtesy of The Hilma af Klint Foundation
「神殿のための絵画」は途中4年の中断期間を挟みつつ、1906年から1915年まで約10年をかけて制作されました。
サイズ、クオリティ、体系性、すべての面からアフ・クリントの画業の中核をなす作品群で、〈原初の混沌〉〈 エロス〉〈10の最大物〉〈進化〉〈白鳥〉といった複数のシリーズやグループから構成されています。
本作は鮮やかな橙色に巻貝などの生物を連想させる幾何学模様がのびやかに描かれています。「青年期」にふさわしい新鮮な瑞々しさが感じられます。

ヒルマ・アフ・クリント 《10の最大物、グループIV、No. 7、成人期》 1907年
テンペラ・紙(キャンバスに貼付) 315×235cm ヒルマ・アフ・クリント財団
By courtesy of The Hilma af Klint Foundation
本作は「成人期」のタイトルにふさわしく、躍動感や生命力あふれる作品。
円や四角形といった幾何学図形、花びらや蔓といった植物由来の装飾的モチーフ、細胞、天体を思わせる形態など、実に多様な要素から構成されたこれらの作品群は、そのすべてが、眼に見えない実在の知覚、探求へと向けられています。

ヒルマ・アフ・クリント 《10の最大物、グループIV、No. 2、幼年期》 1907年
テンペラ・紙(キャンバスに貼付) 315×234cm ヒルマ・アフ・クリント財団
By courtesy of The Hilma af Klint Foundation

ヒルマ・アフ・クリント 《祭壇画、グループX、No. 1》 1915年
油彩、箔・キャンバス 237.5×179.5cm ヒルマ・アフ・クリント財団
By courtesy of The Hilma af Klint Foundation
〈祭壇画〉は、「神殿のための絵画」の最後のグループで3点組の大作。神智学思想の影響がみられる作品で、肉体から霊魂への昇華がテーマになっています。
4章「神殿のための絵画」以降:人智学への旅
「神殿のための絵画」を1915年に完結させた後、アフ・クリントの制作は、いくつかの展開を見せます。1917 年の〈原子シリーズ〉や1920年の〈穀物についての作品〉などは、自然科学と精神世界双方への関心や、眼に見えない存在の知覚可能性という点において「神殿のための絵画」に連なるものですが、表現としては、より幾何学性や図式性が増しているのが特徴です。
人智学(じんちがく)の創始者ルドルフ・シュタイナー(1861–1925)に、思想面だけでなく作品制作でも強い影響を受けたアフ・クリントは、幾何学的、図式的な作品から、水彩のにじみによる偶然性を活かし、色自体が主題を生み出すような作品へとその表現を変化させていきました。
5章 体系の完成へ向けて
1920年代に始まる水彩を中心とした制作は、人智学や宗教、神話に関わるような具体的モチーフを回帰させながら、晩年まで続きます。
制作の一方で、1920年代半ば以降、アフ・クリントは自身の思想や表現について記した過去のノートの編集や改訂の作業を始めます。
特に注目すべきは「神殿のための絵画」を収めるための建築物の構想です。この建築物が実現することはありませんでしたが、こういった自らの思想の絶えざる編集と改訂の作業は、絵画制作を含むアフ・クリントの仕事全体が、いかに厳密な体系性を目指しているのかを証明するものとなるでしょう。

ヒルマ・アフ・クリント 《無題》 1934年
水彩・紙 50×35 cm ヒルマ・アフ・クリント財団
By courtesy of The Hilma af Klint Foundation
精神的・科学的探究が、20世紀初頭の芸術運動、とりわけ抽象的、象徴的な表現に与えた影響は絶大なものでした。精神的世界と科学的世界、双方への関心を絵画として具現化した「神殿のための絵画」の存在こそ、アフ・クリントが今日、モダン・アートにおける最重要作家の一人として位置づけられる所以です。
2018年から2019年に、ニューヨークのグッゲンハイム美術館で開催されたヒルマ・アフ・クリントの大規模な回顧展では、同館史上最多来館者数を記録しただけでなく、多くのメディアから賞賛の声が寄せられました。
2018–19年はスウェーデンの画家ヒルマ・アフ・クリントのものだった。
〈10の最大物〉は間違いなく展覧会のハイライトだ。
彼女の作品は1907年に創造されたにもかかわらず、
まるで昨日描かれたかのように鮮やかで瑞々しい。 ―The New York Times
彼女の作品には美術史を書き換えさせる力がある。 ̶artnet.com
是非、日本初公開、圧巻の〈10の最大物〉の多様な抽象的形象、画面からあふれでてくるようなパステルカラーの色彩、そして圧倒的なスケールをはじめとするヒルマ・アフ・クリントの世界をご体感ください。
展覧会概要
展覧会名 ヒルマ・アフ・クリント展
会場 東京国立近代美術館 1F 企画展ギャラリー
会期 2025年3月4日(火)-6月15日(日)
休館日 月曜日(ただし3月31日、5月5日は開館)、5月7日
開館時間 10:00-17:00(金曜・土曜は10:00-20:00)※入館は閉館の30分前まで
お問い合わせ 050-5541-8600(ハローダイヤル)
展覧会公式サイト https://art.nikkei.com/hilmaafklint/
チケット料など詳細は展覧会公式サイトに触れてください!
シネフィルチケットプレゼント
下記の必要事項、をご記入の上、「ヒルマ・アフ・クリント展」@東京国立近代美術館 シネフィルチケットプレゼント係宛てに、メールでご応募ください。
抽選の上5組10名様に、無料観覧券をお送り致します。この観覧券は、非売品です。
転売業者などに転売されませんようによろしくお願い致します。
☆応募先メールアドレス miramiru.next@gmail.com
★応募締め切りは2025年3月24日 月曜日 24:00
記載内容
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