舞台、映像と活躍されていらっしゃる中野マサアキさん。
今回、拙作『雨ニモマケズ』にご出演いただいているほか、主演・プロデュース作品『北浦兄弟』では「タリン・ブラックナイト映画祭」批評家部門で最優秀賞を受賞。
俳優になるきっかけから作品のことまで色々とお訊きしてまいりました。

画像: 対談企画「いま気になる映画人」VOL.11
中野マサアキさん(俳優)×飯塚冬酒(映画プロデューサー・監督)

キラキラした世界に憧れて上京し俳優に

飯塚「まずは・・・俳優になるきっかけを教えてください」

中野「僕、長野県松本市で育ったんですけど、高校生の時に、『白線流し』というドラマを地元で撮影していて、とても身近に感じながら、同年代の役者さんがとても眩しく見えたんです」

飯塚「キラキラと」

中野「そうです、キラキラとしていて、漠然と役者になりたいなあと」

飯塚「それからは?」

中野「高校の三者面談で『役者になりたい』っていったら先生にも親にも相手にされなくて。でもどうしても役者になりたかったから、まずはとにかく東京にでてみようと思ったんですね。それで、美術学校に進学するという名目で東京に出てきました」

飯塚「美術?」

中野「そうです。油絵と彫刻。小さな頃から絵を描くことが大好きだったので、親も説得しやすく(笑)。美術学校はすぐに中退しちゃいましたけどね(笑)」

飯塚「親不孝(笑)」

中野「そうですよね。それで片っ端から事務所に連絡して、受かった事務所がモデル事務所だったんです(笑)。役者の事務所ではなく(笑)」

飯塚「それからは?」

中野「一年間のレッスンの後、事務所の正式所属になる。という形だったんです。レッスンの中にお芝居もあり、その先生が、殺陣などをされている先生で、気に入っていただいたのか一年のモデル事務所のレッスンの後、お声をかけて頂き先生の劇団に所属することになって。それが、時代劇の劇団でした(笑)」

飯塚「『白線流し』からまた違った世界に・・・」

中野「(笑)」

飯塚「そこからは?」

中野「その劇団が空中分解・・・その後、生活のためにバーテンダーをしているお店で知り合った方が劇団を作るっていうので参加したんですが・・・」

飯塚「ですが?」

中野「2回くらい公演したら活動休止に(笑)・・・その後、30歳くらいの時に男6人で劇団を結成して活動をしながら、同時に劇団PU-PU-JUICEという劇団で小劇場を中心に芝居をしていました。『外組』はコロナ時期に退団して、いまはPU-PU-JUICEだけに所属しています」

画像: キラキラした世界に憧れて上京し俳優に

舞台は全体の空気を重視すること

中野「ずっと映像への憧れがありました。決して舞台が嫌ということではないんですが、舞台を続けて芝居や演技の力をつけて、いつか映像の仕事と巡り逢うチャンスが来ることを信じていました」

飯塚「チャンスはやってきましたか?」

中野「事務所も沢山わたり歩きましたけど・・・そうそうチャンスはなかったですね。舞台を観て下さった関係者の方にお声がけいただいて、映像に、なんてことも昔は思っていましたが・・・今は地道に映像作品に出演できるようオーディションも積極的に(笑)」

飯塚「舞台と映像は違いますか?」

中野「そうですね、映像の方がより多くの方に観ていただけるチャンスは拡がりますし。
演技論でいうと・・・舞台より映像のほうが細やかというか・・・決して舞台が大味ということではないんですけれど。あとは映像は一瞬が勝負のような気がします。切り取られる瞬間の勝負なのでそこへの集中力や瞬発力、というものが必要だなと感じます」

飯塚「なるほど。演技の仕方は違いますか」

中野「相手との間や芝居の部分ではあまり変わりはないと思いますが、映像の場合は個の部分、指先や視線などに非常に気を使います。舞台は全体の空気を重視すること・・・ですかね」

変幻自在の役づくり

飯塚「どんな映画が好きですか?」

中野「スカッとする映画が好きですね」

飯塚「邦画?洋画?」

中野「邦画・洋画を問わずよく観ます。『ゴジラ』とか『マッドマックス』とか。エンターテイメントに特化している映画が好きです。いつもお芝居のことばかり考えているので、映画もそのような意識で観てしまうことも多いんですね。そのためか・・・プライベートで映画を観るときは何も考えずに思い切り楽しめる映画を観るようにしています」

飯塚「僕は中野さんのお芝居を観るたびに思うんですけど、中野マサアキでいながら全く違う人格・キャラクターがそこに居る。役づくりで見栄えから大きく変えたり、もしくはどんな役を演じてもその役者が他で演じたキャラクターと同じ、という人も多いと思うんですね。でも中野さんは、中野さんで在りながら全く違う人になっている。これが面白いんですよね」

中野「それは過大評価ですよ(笑)。僕の中では、自分がどういった俳優なのか、まだ定まっていない状態なのかな、って思っています。なので、いただいた役や監督の狙っているものに沿うことを一番に考える、ということで模索しながら役者をして続けているんです」

飯塚「そのうちに中野マサアキさんのはまり役に出会うかもしれませんね」

中野「そうですね。ばちっとはまる役を演じることも嬉しいのですが、逆に他の役ができにくくなっていくこともあるのかなと。役者さんのイメージが固まり過ぎてしまってそこから抜け出せず悩んでいる俳優さんもいるかと思いますし・・・難しいところですよね」

画像: 映画『北浦兄弟』より

映画『北浦兄弟』より

『北浦兄弟』のこと

飯塚「中野さんは4月から劇場公開される『北浦兄弟』の主演・プロデュースもされていらっしゃいますよね」

中野「4月12日からユーロスペースにて劇場公開になります」

飯塚「僕もプロデュース協力で関わっているんですけど・・・不思議な映画ですよね」

中野「そうですね。試写会観ていただいた方からは・・・兄弟が主人公で僕が兄貴役なんですけど、兄貴が死ぬほどむかついた、っていうご感想いただいたり(笑)。嬉しかったですね、知り合いにそんな風に思われるのって」

飯塚「だらしない中年男性の役でしたよね」

中野「ちょっと太ったりだらしない服着たり。まあ普段からもそんな感じですけど(笑)」

飯塚「役づくりにはどんなアプローチをするのですか」

中野「自分の中にその役を取り込んでいこうということから始めます。例えば『北浦兄弟』の兄貴役の場合は、引きこもりなので、だらしない服を着て過ごしたり、ご飯を雑に食べてみたり、何日かお風呂に入らなかったり・・・普段の生活から自分の中に役を入れていくという感じですかね」

飯塚「役者さんで役に近づくために色々な方法を取る方がいらっしゃいますけど、中野さんの場合は自分の中に役を入れていくんですね。なるほど・・・だから色々な作品を拝見して、中野マサアキさんでありながら全く別のキャラクターになっているんですね」

中野「その方法が僕にとって一番やりやすいのかもしれないです」

飯塚「しかし・・・『北浦兄弟』に登場する人物に共感できにくいお話ですよね」

中野「そうなんです」

飯塚「僕は主人公の兄弟はもとより、脇役にも全く共感できない、でも最後まで観ちゃう。辻野ワールド溢れるすごい作品だと思います」

中野「兄弟2人はそうですね。僕的には脇役には共感できるキャラクターもいると思いますが(笑)、辻野ワールドが満載で、そう言って頂けるのはありがたいです。 普通は、主人公を応援したり共感したり、などがあって進んでいくものだと思うんですが・・・」

飯塚「登場人物に共感できない上に物語もブラックな感じで進んでいく。でも見終わった後にちょっとすがすがしい気持ちになる(笑)。不思議な映画に仕上がっている。これは中野さんのキャラクターつくりの上手さだったり、大塚ヒロタさんとのバランス、辻野正樹監督の作家性というところなのかなと思います。
ちなみに『北浦兄弟』は中野さんがプロデューサーとしても入っていらっしゃいますよね」

中野「そうなんです」

飯塚「役者さんとプロデューサー、大変だったのでは?」

中野「大変でしたけど、撮影期間中、役の事ばかり考えているのではなく。プロデューサーの立場や目線に戻ることで息抜きになったり、僕にとってはすごくいい経験になったと思います」

画像: 映画『雨ニモマケズ』より

映画『雨ニモマケズ』より

絶賛公開中の『雨ニモマケズ』

飯塚「ちなみに『雨ニモマケズ』はいかがです?雑な質問ですみません(笑)」

中野「企画のお話をいただいた時に前半長回しで撮影していく、とお聞きして。そんな映画になるんだろうっていう楽しみはありました。そこに興味がありました」

飯塚「長回し(笑)。こんな無茶な企画によく乗っていただけましたよね」

中野「面白そうじゃないですか」

飯塚「役はいかがでした?」

中野「僕は舞台監督役だったんですけど、舞台をつくる裏方という側面と20人の役者さんたちと調和を取る、ということを真っ先に考え全体の中での立ち振る舞いが自然とできるように現場に臨みました」

飯塚「僕は、中野さんと安野澄さん演じる主人公の南との距離感が、ものすごく想像以上によかったです」

中野「それは、多分、安野さんから受けたところが大きいかもしれませんね。僕から、というよりも安野さんからいただいたものに自然に対応したからあの距離感が生まれたのかな、と思っています」

飯塚「おかげさまで『雨ニモマケズ』も大好評で新宿K’s cinemaさまの延長上映や地方各地での上映も続々と決定しています。ありがとうございます」

中野「この勢いで『北浦兄弟』もがんばっていきたいです」

画像: 絶賛公開中の『雨ニモマケズ』

雨ニモマケズ|監督:飯塚冬酒|90分|2024年|5.1ch|日本|
横浜シネマ・ジャック&ベティにて絶賛公開中
(予定)大阪シネ・ヌーヴォ、元町映画館、宇都宮ヒカリ座など
(終了)新宿K's cinema、ユーロスペース、アップリンク京都、大須シネマ
https://g-film.net/ame/

北浦兄弟|監督:辻野正樹|94分|2024年|5.1ch|アメリカンビスタ|日本|
4/12(土)~渋谷ユーロスペース他
https://g-film.net/kitaura/

カメラ:塩出太志 / ヘアメイク:成美

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