NHK大河ドラマ「光る君へ」が人気を博し、紫式部の描く平安貴族の日常を舞台とした優雅で煌びやかな『源氏物語』の世界が今も私たちを魅了しています。
王朝文化が花開いた平安時代には、漢詩や和歌、物語や日記などの文学作品が誕生し、『源氏物語』をはじめとする平安文学は日本美術のなかでも重要なテーマとしてあり続け、時を超え、数多くの作品に影響を与えています。
世田谷の老舗美術館が移転し、2022年10月、丸の内の新たな美の殿堂となった静嘉堂文庫美術館では、『平安文学、いとをかし―国宝「源氏物語関屋澪標図屏風」と王朝美のあゆみ』が2025年1月13日まで開催されています。
本展では、《風神雷神》で知られる俵屋宗達(たわらやそうたつ)の国宝《源氏物語関屋澪標図屏風(げんじものがたりせきやみおつくしずびょうぶ)》、国宝《倭漢朗詠抄 太田切(わかんろうえいしょう おおたぎれ)》をはじめ、国宝 3 件、重要文化財5件を含む平安文学を題材とした絵画や書の名品と、静嘉堂文庫が所蔵する古典籍が紹介され、みなさまを平安時代の「いとをかし」な世界へと誘います。
国宝3件・重要文化財5件 平安文学を主題にした名品
『源氏物語』第十四帖「澪標(みおつくし)」と第十六帖「関屋(せきや)」を題材とし、各隻に「関屋」と「澪標」の場面が描かれています。
国宝《風神雷神図》、国宝《蓮池水禽図》とともに、俵屋宗達の国宝に指定される3作品のうちの1つです。(※この2点は本展には出展されていません)
光源氏と女性との逢瀬を描いたものですが、光源氏の姿は描かれず、牛車でその存在が示されているようです。直線と関屋の山や澪標の太鼓橋などの曲線を見事に使い分けた大胆な画面構成、華やかな金地に緑と白を主調とした巧みな色づかい、古絵巻の図様からの引用など、宗達画の魅力あふれる作品です。
宗達は、江戸時代初期の画家で、本阿弥光悦とともに琳派絵画の祖といわれています。
本作は京都の醍醐寺に伝わったもので、1895年頃に三菱2代目で静嘉堂文庫美術館の礎を築いた岩﨑彌之助(1851〜1908)が醍醐寺に寄進した返礼として岩﨑家に贈られたものです。
本作は、藤原公任(ふじわらのきんとう)撰『和漢朗詠集(わかんろうえいしゅう)』 を書写した作品で、掛川藩主太田家に伝来したことから 「太田切(おおたぎれ)」と称されています。
北宋からもたらされた 唐紙(からかみ)に、金銀泥で鳥や草木といったやまと絵の可憐な下絵を描いた料紙を用いています。書は、優美で雅やかな漢字と自由奔放で個性的な仮名の組み合わせに本作独自の特徴があります。
華やかな料紙に書かれた流麗な文字は、平安貴族たちを魅了しました。
修理後初公開となる重要文化財「住吉物語絵巻(すみよしものがたりえまき)」(鎌倉時代 14世紀)も平安時代の物語を題材とした絵巻物です。
継母に虐げられる姫と、その姫を一途に思う少将の恋が描かれています。その絵画は静嘉堂本と東京国立博物館本の二種類があり、本作は後者に次いで古いもので、詞書は『住吉物語』のまとまった分量の本文として現存最古となっています。
「この世をば 我が世とぞ思ふ 望月の 欠けたることも 無しと思へば」という有名な和歌を詠んだ藤原道長。その藤原氏の栄華を描いた『栄花物語』の一場面、「駒競行幸絵巻(こまくらべぎょうこうえまき)」も同じく修理後初公開となりました。
『源氏物語』にちなんだ美術特集 新発見の土佐光起土筆「紫式部図(むらさきしきぶず)」
土佐光起は、細密描写を得意としたやまと絵の名手です。
文机(ふづくえ)に肘をつき、手に筆をとる紫式部の姿 は、石山寺で琵琶湖に映る月を見て『源氏物語』を書き始めたという伝承にもとづくものです。非常に良い状態で発見され、 本展にて初公開されています 。
住吉具慶(すみよしぐけい)(1631-1705)は、江戸時代前期の絵師で、基本的にはやまと絵の伝統に従いつつ、古典的な画題を描きました。
ですが、単に古典の引用にとどまらず、新たなやまと絵を模索し、情趣豊かな表現になっています。
截金(きりかね)ガラス作家・山本茜(あかね)の『源氏物語』シリーズを特別展示
截金(きりかね)は、仏像や仏画の装飾—荘厳(しょうごん)に用いられる 伝統技法です。 極薄の金銀箔を数枚重ね合わせて厚みを持たせたものを様々な形に切り、筆先に取って糊で貼りながら文様を描いていきます 。
学生時代から 截金に魅せられた山本は、「截金を装飾ではなく、表現の主体にするために空間に浮遊させたい」と考え、更にガラスの技法の研究を重ねた後に、透明なガラスの中に截金を封じ込めた「截金ガラス」という技法を独自に編み出しました。
その作品は大英博物館に収蔵されるなど、国内外で高い評価を受けています。
山本は ライフワークとして『源氏物語』五十四帖を截金ガラスの作品にすることに取り組 み、現在二十二帖分の作品が完成しています 。本展では、 源氏物語シリーズから、「空蟬(うつせみ)」と「橋姫(はしひめ)」の2点が特別展示されています。
遥か平安時代の文学は今なお、時空を超え、美術のイメージの源泉となり続けているのです。平安文学の興味深い世界、優雅で雅やかな『源氏物語』の世界へ思いを馳せ、古典のロマンに心癒されるひとときをお過ごしください。
展覧会概要
◼会期 202 4年11月16日(土)〜 2025 年 1月13日(月・祝)
※会期中一部展示替えあり
◼会場 静嘉堂@丸の内(明治生命館1階)
〒100 -0005 東京都千代田区丸の内 2 1 1 明治生命館1階
◼休館日 毎週月曜日 、年末年始(2024年12月 28日~ 2025年1月1日)※12月2日は開館
◼トークフリーデー:1 2月2日(月)
◼開館時間 午前10 時~午後5時
毎週土曜日は午後6時まで、第3水曜日は午後8時まで
※入館は閉館の30分前まで
◼入館料 一般 1,500 円 大高生 1,000 円 中学生以下無料
◼ 問い合わせ T EL 0 50 5541 8600 (ハローダイヤル)
◼ ホームページ https://www.seikado.or.jp