(カバー画像) 三瀬夏之介《日本の絵》2017年 墨、胡粉、金箔/雲肌麻紙 サイズ可変(最大サイズ235.0×800.0cm) 作家蔵 Photo: Ken KATO

                                       

箱根の豊かな森に抱かれたポーラ美術館では、13年ぶりとなる日本画の展覧会「シン・ジャパニーズ・ペインティング 革新の日本画―横山大観、杉山寧から現代の作家まで」が開催されています。

本展では、横山大観、杉山寧、髙山辰雄をはじめとする同館の日本画コレクションの名品を含め、近代における日本画の誕生から現代にいたる展開が現代作家たちの多数の新作とともにダイナミックに紹介されています。

「日本画」は日本の伝統的な絵画と西洋画の接触により、新しい表現形式として確立され、さらに「新しい日本絵画の創造」を目指した現代日本画の担い手たちの活躍によって、新たな段階へと進みました。
線を用いない表現手法である「朦朧体」の発明や、それまでなかった合成顔料の使用による鮮やかな色彩の獲得、額装や軸装、屏風といったさまざまな形式の変化に注目して、明治期から現代までの日本画の革新の歴史を辿ります。

近代の「日本画」を牽引した明治期の高橋由一や浅井忠、大正・昭和期の岸田劉生、岡田三郎助、レオナール・フジタ(藤田嗣治)ら洋画家たちの作品も合わせて展示することによって近代の日本画の特質を浮き彫りにするとともに、その独特で多様な表現をご覧いただきます。そして現在の「日本画」とこれからの日本の絵画を追究する多様な作家たちの実践の数々に注目し、その真髄に迫ります。

作家を迎えたトークセッションや、公開制作、ダンスパフォーマンスなどを通じて、まさに今を生きる作家たちが追究する革新的で多彩な表現に触れることで、現代の日本画の新たな展開を間近に感じることができる貴重な機会となっています。
雄大な箱根の美しい自然の風景に癒されながら、珠玉のアートをご鑑賞ください。
それでは、展覧会構成に従ってシネフィルでもいくつかの作品を紹介させて頂きます。

プロローグ:日本画の誕生

明治政府のお雇い外国人美術史家アーネスト・フェノロサ(1853-1908)が、日本国内で目にした絵画を総じて“Japanese Painting”と呼び、この英語が「日本画」と翻訳されたことから、「日本画」という概念が定着しました。

第1章:明治・大正期の日本画

明治・大正期の日本画では、日本の雄大な美しい自然が描かれていました。
岡倉天心を師と仰ぐ横山大観や菱川春草らは、師の「空気を描け」という言葉に端を発して線を用いない表現手法である「朦朧体」という革新的な技法を編み出しました。

画像: 横山大観《山に因む十題のうち 霊峰四趣 秋》1940年 紙本彩色/額装 74.6×110.4cm ポーラ美術館

横山大観《山に因む十題のうち 霊峰四趣 秋》1940年 紙本彩色/額装 74.6×110.4cm
ポーラ美術館

第2章:日本画の革新

「朦朧体」の発明をはじめ、明治後半から大正期までの日本画の革新を支えた出来事のひとつに、新しい岩絵具や丈夫な和紙の開発が挙げられます。従来の天然顔料よりも彩度や発色の豊かな合成顔料を求め、それまで存在しなかった鮮やかな色彩表現を行うことが出来ました。

東山魁夷や杉山寧を指導した松岡映丘は、新たな素材を積極的に使い、鮮やかな色彩表現を獲得しました。

画像1: 展覧会風景 Photo: Ken KATO

展覧会風景 Photo: Ken KATO

第3章:戦後日本画のマティエール

日展を舞台に昭和の日本画を華やかに彩り、多くの人々から親しみと尊敬の念を込めて「日展三山」と称された杉山寧、東山魁夷、髙山辰雄。彼らの絵画に共通する特徴は、油彩画を思わせるマティエールと岩絵具本来の美しさを活かした色彩、そして洗練された画面構成であるといえます。本章では、彼らの芸術と現代日本画を比較しながら、これからの日本の絵画の可能性に迫ります。

画像: 杉山寧《薫》1975年 紙本彩色/額装 78.6×103.3cm ポーラ美術館

杉山寧《薫》1975年 紙本彩色/額装 78.6×103.3cm ポーラ美術館

杉山寧は、写実性と構成力を最大限に用いて作品を制作し、悠久的な美しさ、独特の静寂や清澄性を持つ作品を生み出しました。

第4章:日本の絵画の未来―日本画を超えて

近代以降の「日本画」の歴史を踏まえ、様々な選択肢の中から自身に適した材料や技法、表現形式を選び、時代によって揺れ動く「日本」という枠組みとの距離を測りながら、自身の思想や新たな主題を具体的な形あるものにする現代の表現者たちに注目します。

画像2: 展覧会風景 Photo: Ken KATO

展覧会風景 Photo: Ken KATO

画像: 谷保玲奈《蒐荷》2020年 顔料/雲肌麻紙(パネルに貼付) 236.0×388.0cm 高橋龍太郎コレクション @Reina Taniho

谷保玲奈《蒐荷》2020年 顔料/雲肌麻紙(パネルに貼付) 236.0×388.0cm 高橋龍太郎コレクション @Reina Taniho

谷保玲奈は、ドミニカ共和国、ボリビアで幼少期過ごし、多摩美術大学大学院を卒業。
第25回五島記念文化賞美術新人賞(2014)、第8回東山魁夷記念日経日本画大賞(2021)、神奈川文化賞未来賞(2021)ほか受賞多数。華やかな色彩に圧倒されます。伝統的な日本画の画材を用いながらも、まさに新しい日本画。

画像: 《たゆたう庭》(制作風景)2013年 エルンスト・バルラッハ・ハウス(ハンブルグ) photo: Andreas Weiss

《たゆたう庭》(制作風景)2013年 エルンスト・バルラッハ・ハウス(ハンブルグ) photo: Andreas Weiss

山本基は、若くしてこの世を去った家族との思い出を忘れないために、長年「塩」を用いたインスタレーションを制作しています。展示後は作品を鑑賞者とともに壊し、その塩を海に還すプロジェクトを行っています。

画像: 杉本博司《月下紅白梅図》2014年 プラチナ・パラディウム・プリント 各156.0×172.2cm 作家蔵 ©Hiroshi Sugimoto / Courtesy of Gallery Koyanagi

杉本博司《月下紅白梅図》2014年 プラチナ・パラディウム・プリント 各156.0×172.2cm
作家蔵 ©Hiroshi Sugimoto / Courtesy of Gallery Koyanagi

画像: 山本太郎《紅白紅白梅図屏風》2014年 紙本金地着色 各156.0×172.2cm 個人蔵 ©Taro YAMAMOTO / Courtesy of imura art gallery

山本太郎《紅白紅白梅図屏風》2014年 紙本金地着色 各156.0×172.2cm
個人蔵 ©Taro YAMAMOTO / Courtesy of imura art gallery

杉本博司と山本太郎の作品は、ともに尾形光琳の傑作《紅白梅図屏風》を引用しています。山本の《紅白紅白梅図屏風》ではポップカルチャーの象徴ともいえるコーラがその中央を占拠し、杉本の《月下紅白梅図》ではプラチナ・パラディウム・プリントによって画面全体が黒色で覆い尽くされました。

展覧会の冒頭を飾る三瀬夏之介の日本列島を逆さにつるした巨大なインスタレーションは圧巻で、まさに革新的。また、中川エリカ建築設計事務による会場デザインは、歩みを進めるごとに作品が現れ、従来の「日本画」展のイメージを覆すものとなっていて斬新です。
花鳥風月、日本の四季折々の伝統美を描いた「日本画」から、革新的な「シン・ジャパニーズ・ペインティング」へ、近代から現代に至る日本画の展開を是非、ご堪能ください。

展覧会概要

「シン・ジャパニーズ・ペインティング 革新の日本画―横山大観、杉山寧から現代の作家まで」
会期:2023年7月15日(土)―12月3日(日)
会場:ポーラ美術館 展示室1、2、3、アトリウム ギャラリー
主催:公益財団法人ポーラ美術振興財団 ポーラ美術館
会場構成:中川エリカ建築設計事務所
おもな出品作家:横山大観、川端龍子、レオナール・フジタ(藤田嗣治)、杉山寧、東山魁夷、加山又造、マコトフジムラ、三瀬夏之介、谷保玲奈、吉澤舞子、野口哲哉、深堀隆介、山本基、天野喜孝、杉本博司ほか
展覧会HP:

開館時間:午前9時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
休館日:会期中無休 ※悪天候による臨時休館あり
所在地:神奈川県足柄下郡箱根町仙石原小塚山 1285
TEL:0460-84-2111
入館料:大人¥1,800/シニア割引(65歳以上)¥1,600/大学・高校生¥1,300/中学生以下無料/
障害者手帳をお持ちのご本人及び付添者(1名まで)¥1,000
※すべて税込 団体割引あり
公式サイト:

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