退廃的な映像美で80年代に熱狂的なファンを生んだ伝説の映画監督ダニエル・シュミットが、坂東玉三郎を主人公に日本で撮影した『書かれた顔 4Kレストア版』が、2023年3月11日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開する運びとなりました。
歌舞伎界で当代一の人気を誇る女形、坂東玉三郎。
映画は「鷺娘」「積恋雪関扉」といった歌舞伎の舞台映像や、芸者に扮した彼を2人の男が奪い合う挿話「黄昏芸者情話」を通して、玉三郎の濃厚な美の世界へと観る者を誘います。そこへ俳優の杉村春子や日本舞踊の武原はんの談話、現代舞踏家の大野一雄の舞踏が挿入され、ドキュメンタリーでもフィクションでもない、夢の中をさまようような作品になっています。
1995年にロカルノ国際映画祭で上映された本作は、27年の時を経て、4Kレストア版が2022年同映画祭にて世界初上映されました。日本では同年10月に開催された「現代アートハウス入門ドキュメンタリーの誘惑」で4Kレストア版が初上映され、歴史的アートフィルムの色褪せない魅力は大きな話題となりました。
伝説の映画監督ダニエル・シュミット
が日本で制作した、伝説の異色作が4Kレストア版でスクリーンに蘇ります。
これは世紀末の黄昏が生み出した、酔狂な遊びか、夢なのか─
伝説の映画監督ダニエル・シュミットが日本で描き出した、夢幻の美。
未知の映画作家が次々と日本へ紹介され、ミニシアター・ブームが巻き起こった1980年代。蓮實重彦ら日本の映画人によって“発見”されたダニエル・シュミット(1941-2006年)は、退廃的な映像美で世界中に熱狂的なファンを生んだ。子供のような心を持ち、芸術への造詣が深くオペラ演出家としても知られたシュミットと、日本の文化人・映画人との深い親交から生まれた『書かれた顔』。
出演は、当代きっての歌舞伎役者で誰もが知る女形のスター坂東玉三郎、女優の杉村春子、日本舞踊家の武原はん、舞踏家の大野一雄、日本最高齢の芸者・蔦清小松朝じ。世紀末日本の黄昏に消えゆくレジェンドたちが見せた一瞬の煌めきが、映し出されていく。
美しく濃厚な幻想をスクリーンに現出させたシュミット異色の傑作が、28年の時を経て、4Kレストア版で再びスクリーンに蘇る!
坂東玉三郎という唯一無二の存在に魅せられたシュミットが見た、
“黄昏の夢、あるいは夢の黄昏”─
虚構と現実をないまぜにした幻想的な作品を得意とするシュミットは、女形という特異な存在を通して、ジェンダー、生と死、そしてフィクションとドキュメンタリーの境界線上に、虚構としての日本の伝統的女性像を浮かびあがらせる。
「鷺娘」「大蛇」「積恋雪関扉」を演じる玉三郎の美しい舞台映像はもちろんのこと、撮影後ほどなくしてこの世を去った杉村、武原の語りや、大野の荘厳な舞踏など、彼らの“最後の姿”は今や貴重な記録となった。
撮影はゴダール、ロメール、オリヴェイラらの作品も手掛けてきた名手レナート・ベルタ。盟友シュミットと生み出した夢幻の映像美は、今なお多くの作家に刺激を与え続けている。また本作に挿入されるフィクションパート「黄昏芸者情話(トワイライト・ゲイシャ・ストーリー)」では青山真治が助監督を務めた。
≪監督コメント≫
◆ダニエル・シュミット
※シュミット監督のコメントは公開当時パンフレットに掲載されたコメントの抜粋になります。
この映画はドキュメンタリーではありません。フィクションです。わたしは、黄昏についての物語、すなわち映画についての映画を作り上げようとしているのです。
わたしは坂東玉三郎という奇跡を何度も目のあたりにしてきました。けれど、わたしはその謎を、その秘密を、解き明かそうとは思いません。この作品は、その坂東玉三郎という秘密とともに作った映画であり、日本という秘密とともに作った映画なのです。
≪コメント≫(五十音順)
◆青野賢一(文筆家、選曲家)
女形を演じることについて坂東玉三郎が語り、役のために顔を塗る姿をカメラがとらえるとき、フィクションの世界が現実を侵食する。作中の『黄昏芸者情話』の悲しくも甘美なノスタルジーと大野一雄の舞踏に心打たれた。
◆川口隆夫(ダンサー・振付家)
魂の水底の深い暗闇から湧き起こる大野一雄の踊りは、シュミットの映像の中でほわっと浮きがり、まるで水面を滑るように軽やかで優雅、しかもこの上なく愛くるしい。
◆川村美紀子(ダンサー・振付家)
その顔は誘う。ふと僕を香らせたかと思えば、ほの暗い奈落へと姿くらませて。いま追いかける、目くばせの先を。ひそやかに踊る唇を。
◆草野なつか(映画作家)
幕が閉じて映画が始まる。
はざまの場所で<ごっこのできる人たち>が無邪気な笑顔や少女のようなはにかんだ表情をみせ、舞踏のブルーが、<こちら側>との距離を曖昧にする。
『黄昏芸者情話』の素晴らしい音設計を経て、時間も空間も超えた旅は終わりへ向かっていく。それでもきっと、幕は何度でも開くのだろう。
◆黒田育代(振付家・ダンサー)
かけがえのない芸で舞台のためにご自身を手放していく姿。
その美しいお姿が、厳しいお稽古と失敗の許されない本番の、気の遠くなる程の積み重ねであること。
この構図が異次元のそして異様な優しさに思えてなりません。
あの時舞台一面に湛えられた夢のような風景は、次元を超えた優しさによって観客に手渡されていたはずです。
たしか10歳だった私は、玉三郎さんの舞に取り憑かれ、その夢を大事に持ち帰り、40年近く経った今も心にずっとしまっています。
俳優の優の字をもう一度ずしんと手渡してくれる映画です。
◆スピリアールト・リサ(映画監督)
舞と弦、隠れた鏡、重なる層。あやつる指と、舐める指。見終わったあと、私の心に青い宝石箱がありました。アメイジング!
◆甫木元空 (映画監督)
大学に入り授業で初めてみた映画が「書かれた顔」でした。
物語を飛び越える幸福なアクションの連続。登場人物の所作一つ一つが一筆書きの踊りの様に映画を貫く。
ドキュメンタリー?フィクション?真実?嘘?そんな事どうでもいいと言わんばかりにアクション映画でありミュージカル映画……
次から次へとジャンルをはみ出しながら動き続ける黄昏と映画。
映画の謎がこの映画には散りばめられている、そんな気がします。
◆麿赤兒(大駱駝艦主宰・舞踏家・俳優)
日本のレジェンドたちの妖・怪・美をダニエル・シュミット監督が色鮮やかに織り上げる!
我々は秘密の花園に誘(いざな)われ浮遊する。
『書かれた顔』予告
監督:ダニエル・シュミット
出演:坂東玉三郎、武原はん、杉村春子、大野一雄、蔦清小松朝じ、坂東弥十郎、宍戸開、永澤俊矢
撮影:レナート・ベルタ
1995年/日本・スイス合作/カラー/94分/ヴィスタ・サイズ
製作:ユーロスペース、T&Cフィルム/プロデューサー:堀越謙三、マルセル・ホーン
配給:ユーロスペース
©︎1995 T&C FILM AG / EURO SPACE