“新しい手法が生む新しい映像体験”を標榜し、過去に2本の短編映画がカンヌ国際映画祭から正式招待を受けた監督集団「5月」が、名優・香川照之を主演に迎えた初の長編映画『宮松と山下』(11月18日(金)より、新宿武蔵野館、渋谷シネクイント、シネスイッチ銀座ほか全国ロードショー)。
この度、公開に先駆け10月26日(水)に都内で一般試写会を実施し、上映後のティーチインでは監督集団「5月」を迎え、撮影時のエピソードや主演の香川照之さんの魅力についてたっぷり語って頂きました!
一足先に鑑賞した来場者からは「予想を裏切る展開から目が離せなかった!」「香川さんの抑えた演技が凄い!」と称賛の声が続々到着しています。
また監督が撮影中に撮り溜めたという、キャスト陣が各シーンで「宮松と山下!」とタイトルを連呼する予告映像も特別試写会で初上映。そのタイトル連呼予告30秒版も併せて解禁いたします。
「一度死んだエキストラが、むくむくっと起き上がる」という話を聞いてクラクラっとした(佐藤)
上映後、大きな拍手で迎えられた「5月」の佐藤雅彦監督、関友太郎監督、平瀬謙太朗監督。それぞれが一言ずつあいさつした後、日本催促一般試写会で鑑賞し、興奮冷めやらぬ観客から寄せられた質問に答えるティーチインが始まった。
質問:エキストラというありそうでなかった題材を選んだ理由は?
【関友太郎監督】
(以下関)私がNHKに就職してドラマ部で助監督としてエキストラの担当をしていた時に、撮影現場であるエキストラの方が江戸の町人役として撮影したと思うと、次は侍姿に着替えてロケに行く姿を見てこの人の一日は面白いと思いました。また斬り合いのシーンで、一度倒れた侍がむくっと起き上がってまた別の侍として斬られているのを見て、驚いたと同時にその要素だけ切り取って映像化したら独特で面白いのではないかと。それを「5月」のアイディア会議に出した際にエキストラと現実の生活をまったく同じトーンでつなげていくと、どっちがどっちなのか分からない映像のサスペンスが生まれるんじゃないかと考えました。
【佐藤雅彦監督】
(以下佐藤)関が「エキストラが一度死んでもむくむくっと起き上がる」ということを言った時に僕はクラクラっと来てしまってこれをやろうとなりました。
質問:3人の役割分担はどのようなものでしょうか?
【佐藤】
よく聞かれるのですが、3人で一つなんです。全員でアイディアを出して、プロット、台本を書いて、編集して、音を付けている。言ってみれば3人で一人前なんです。アイディアを出す時に「これは面白いぞ」と思って自分は出しつつ、2人はどう思うのかということを考えるのですが、出した瞬間に2人が反応する前に『ああ、これはダメだ』と分かるんです。初めてカンヌに選出された『八芳園』を作った時に初めてこれを経験しました。アイディアは100案も200案も出しますが、良いアイディアを誰かが出した時に一瞬で「これだ!」と満場一致する瞬間があるんです。反応を見る前に分かるのがすごくおもしろいですね。3人でやると心強いということが多々ありますが、たくさんのアイディアが湧き出てきても、それが世の中にどういう役割を果たすのかというのが分からない時に、2人に伝えた瞬間に「つまらない」「面白い」が分かるんです。
ものすごい技術によって役の感情を表現している香川さんでなければ『宮松と山下』の主人公は成し得なかった
質問:香川さん、津田さん、尾美さんなど個性的な名バイプレイヤーをキャスティングした経緯は?
【平瀬謙太朗監督】
(以下平瀬)この企画が5年前に出ていたのにも関わらずこれだけ時間がかかってしまったのは、やはり主演が決まらなかったからなんです。映画の中ではエキストラとして存在感を消さなければいけない、ただ作品としては主人公なので物語を引っ張っていく存在感の強さが大切で、この矛盾する2面性を持ち合わせていることが必要でした。それを誰ができるのか分からなくてなかなか進まなかったのですが、香川さんのお名前が出たときに、瞬間的に3人で『香川さんならできる!』と思ったんです。普通だったら、この人がダメだったら次の人、みたいな感じで当たっていくと思うのですが、今回は香川さんがダメだったらこの企画はナシにしようという感じだったので、香川さんが引き受けてくださり、本当に良かったです。
【佐藤】
津田寛治さんに関しては、ある台詞を言うのが似合う俳優って誰だろう…と考えた結果、津田さんを選びました。尾美としのりさんに関しては、作品を海外で上映したいと思った時に分かりやすく主人公と区別がつく人が良い=白髪の方がいいな、と思い、かつ演技や個性が好きな俳優さん…と考えて尾美さんにたどり着きました。
質問:香川さんを主演にしたことで良かった点や現場での変化はありましたか?
【関】
とにかく顔の演技が想像していたよりも豊かで凄かったです。特に終盤のシーンの表情の使い方が、顔全体が可動域というかどこまででも細かく顔を自在に動かせるんだなと思いました。この作品は台詞が少ないですが、演技力に支えられた、良い表情のカットが沢山ありました。今まで芝居を技術でやっていると言われてもピンと来ていなかったんですが、香川さんを見ているとものすごい技術によって役の感情を表現しているんだなと思ったのが一番の体験でした。
【佐藤】
僕も顔の部分ですね。宮松が笑顔で振り向く1発OKのシーンがあるのですが、凄いなと思いました。「なんでこんな表情ができるんですか? 何かを思い出してるんですか?」と聞いても「違います」と言われ、結局教えてくれなかったのです。また谷(尾美)とのシーンで太陽がカンカン照りだった時が何度かあったのですが、香川さんは撮影直前までギラギラの太陽を覗いていて、僕は大丈夫かと心配していたのですが、撮影が始まると表情が元に戻ってるんです。これも気になって「なんでギラギラの太陽を見てるんですか?」と聞いたら「目を焼くんです」と香川さんは答えました。どうやら目を焼いて眩しいところで瞳孔を閉じると、本番中でも眩しい表情をせずに普通の演技ができるそうなんです。豊かな表情というのは技術があるんですね。
【平瀬】
私は、宮松がどういう人物なのかを香川さんと一緒に考えて、4人で議論する場面が多かったことが印象深かったです。特に現場で感動したのが、予告でも使用されている笑顔のシーンです。そのシーンをどう撮るか、分からないまま現場に入ったんです。香川さんもずっと悩まれていたと思うのですが、そのシーンを撮る前にこれはどうですか?と香川さんがやってくれたのですが、スタッフ全員がこれだ! となったとき、衝撃がありました。何か言われて演じるというよりは、一緒に考えてくださるので、良いシーンが撮れた。香川さんにお願いしてよかったです。
質問:映画の中で宮松はエキストラについて「1日に4回死んだこともある」と語りますが、宮松はこの映画の撮影で何回死んだのでしょうか? なぜ死ぬシーンがあるのかということを教えてください。
【関】
数えたことなかったですね(笑)
編集してカットしたのも含めるとかなり死んでると思います。死ぬシーンについては、エキストラが同じことを繰り返すと考えたときに、「死ぬ」と「生き返る」が一番わかりやすく面白い、と思ったことと、死ぬ現象そのものが映像として、表現として強くて撮影の描写として面白いと思い取り入れました。
質問はまだまだ尽きず、時間が足りない状態だったが、各監督より来場の観客の皆さんに一言ずつのご挨拶で会場を締めて、ティーチインイベントは終了となった。
監督ディレクション第2弾!
キャスト陣がタイトルを連呼する監督編集の特別予告をイベントにて世界初上映!30秒版をこの度解禁!
この日、ティーチインの終わりに、監督が撮影中に撮り溜めた映像を編集した、キャストがタイトルを連呼する監督編集による特別予告を世界初上映のサプライズも! この度、タイトル連呼特別30秒予告を解禁します。
キャストがカメラ目線でタイトルを連呼する予告というアイディアの発端について、佐藤雅彦監督は「これだけ世界観のある作品なので、何かできないかと思い、各シーンで“宮松と山下”というタイトルを言ってもらうのはどうかと考えました。香川さんにも相談してそれは面白いと乗ってくださり撮ることにしたのです。香川さんは他のキャストの方に『ここはフランス語みたいに発音すればいいんだよ』など演技指導もしてくれて、スタッフキャスト共にこのタイトルの連呼を撮るのが現場での楽しみになっていきました。」と語りました。
監督ディレクション予告第2弾「セリフは宮松と山下」30秒Ver.
〈ストーリー〉
宮松はエキストラ俳優。ある日は時代劇で弓矢に打たれ、ある日は大勢のヤクザのひとりとして路上で撃たれ、またある日はヒットマンの凶弾に倒れ......来る日も来る日も死に続けている。真面目に殺され続ける宮松の生活は、派手さはないけれども慎ましく静かな日々。そんな宮松だが、実は彼には過去の記憶がなかった。なにが好きだったのか、どこで何をしていたのか、自分が何者だったのか。なにも思い出せない中、彼は毎日数ページだけ渡される「主人公ではない人生」を演じ続けるのだった......。
香川照之
津田寛治 尾美としのり
野波麻帆 大鶴義丹 尾上寛之 諏訪太朗 黒田大輔
中越典子
監督・脚本・編集:関友太郎 平瀬謙太朗 佐藤雅彦
企画:5月 制作プロダクション:ギークサイト
協賛:DNP大日本印刷
配給:ビターズ・エンド
製作幹事:電通
製作:『宮松と山下』製作委員会
(電通/TBSテレビ/ギークピクチュアズ/ビターズ・エンド/TOPICS)
©2022『宮松と山下』製作委員会