この度、シネフィルでは、次世代有望な若手監督たちに注目し、彼らを一人ずつ紹介する新企画「次世代の表現者たち」がスタートいたします。
その第一回として、取り上げるのが、中濱宏介監督です。
大阪芸術大学映像学科の卒業制作として手がけた初長編作『B/B』が、SKIP国際Dシネマ映画祭2020、大阪アジアン映画祭2021、第15回田辺・弁慶映画祭など国内の映画祭で多数上映・入選を果たすと同時に、北米最大の日本映画祭・『JAPAN CUTS〜ジャパン・カッツ〜』のネクストジェネレーション・ コンペティション部門においてスペシャルメンション受賞を受賞。
ジャパン・カッツでは、受賞理由として「驚くほどダイナミックで野心的な作品であり、中濱監督の名刺ともいえる。本作品はその創造性によって十分に力を発揮している」と評価されたように、スピード感あふれたその映像は、斬新でかつ躍動感に満ち溢れています。
今作は、9 / 16 [金] より開催される田辺・弁慶映画祭で受賞を果たした若手新人監督たちを特集上映する恒例の「田辺・弁慶映画祭セレクション2022」(テアトル新宿)での上映が決定し、シネフィルでは、そんな監督へ質問をぶつけました。
また、「次世代の表現者たち」では、取り上げた監督たちが、自由にシネフィルにて、4回の連載を枠を持ち寄稿できる権利を持ちます。今後の中濱宏介監督の連載に注目ください。
中濱宏介監督 インタビュー
まず自己紹介をお願いします
中濱宏介です。北海道小樽市出身の26歳です。大阪芸術大学映像学科出身の自称フリーランス映像作家です。最近は「NOPE」に度肝抜かれました。好きな食べものはバーモントカレーとチョコボールです。よろしくお願い致します。
学生映画としてとられた作品ですが、なぜ映像の世界に入ろうと思ったんですか?
物心ついた時にはゴジラとウルトラマンが好きでした。ゴジラ・ミレニアムシリーズを劇場で観ていた流れで自然と映画館に通う様になり、小学生低学年の頃には映画監督か漫画家になりたいと思うようになっていました。映画監督のみを志したきっかけは13歳の時に観た「ダークナイト」です。ベタですが、いまだにオールタイムベストは「ダークナイト」です。
今まで、創作する中で影響を受けたものは?
(音楽、芸術など他の分野のものでも構いません。具体的に作者や作品をあげてください)
最も影響を受けたのは「メタルギア」シリーズや「デス・ストランディング」を作ったゲームクリエイターの小島秀夫監督です。作品は勿論の事、著書やメイキング映像を何度も見直し、何かを作り出す上での心構えというか、創作の師だと勝手に思い込んで思春期を過ごしてきました。小島監督の教えを守り16歳の時から始めた「一日一本映画を観る」生活が学生映画を監督する上で大いなる糧になりました。
国内のクリエイターでは「リズと青い鳥」の山田尚子監督、「BLEACH」の久保帯人先生からの影響も自分の土台になっています。
アラン・ムーア作の「ウォッチメン」は自分で脚本を書く時に必ず読み返すコミックです。
純粋な映像面でのみ言えばザック・スナイダー監督を至高だと感じています。
初長編『B/B』で、国内の若手登竜門的な映画祭に上映、入選を果たしますが、どのようなお気持ちだったんでしょう?
安心しました。学生時代は短編や脚本が教授陣から全く評価されず、作れば貶され、言い返し、罵り合って終る事ばかりで。自分が面白いと思って作っている物の居場所は邦画界にはないのでは?と言う不安が入選や受賞で和らぎました。何より「自主製作」の「学生映画」ですから、期待される訳でも、作られる事を望まれていた訳でもない。そんな「自主映画」が入選し「人に観てもらえる」というスタート地点に立てた事が本当に嬉しかったです。
特に、ジャパン・カッツでは若手作品と言っても多くの国内公開作品と並んで、上映されなおかつスペシャルメンションを受賞されていますが、海外の反応はお聞きになりましたか?
ジャパン・カッツからは感想をまとめたPDFが映画祭後に送られてきまして、これが本当に最高で、自尊心が育まれましたね。国内の反応とは熱が違うと言うか、大絶賛か、全否定かの二択。でも、どちらも熱がとんでもないので、否定もまるで嫌な気持ちにならない。絶賛8割、否定2割と言った感じで、現地には行けませんでしたが忘れられない映画祭体験の1つです。僕の映画を真剣に観てくれてありがとう、と今でも感謝しています。
また、田辺・弁慶映画祭では主演の倉嶋かれんさんが、俳優賞を受賞しました。彼女の演技が、表情豊かでびっくりしたんですが、どのように演出をなさっていったんでしょうか?
倉嶋さんのスケジュールが結構ギチギチで、撮影前に対面で打ち合わせ出来たのは1度だけだったんです。本読みも出来ないままクランクインだったんですが、撮影を進める中で倉嶋さん本人に抱いていた印象が変わっていきまして、それを主人公の人物像に反映し、最終的に完成作品の様な豊かさを持った、と僕は感じています。当初はもっと硬いキャラクターを想定していて、冗談とかも真顔で言って誰からも突っ込まれない様な脚本だったんですが、倉嶋さんがクールビューティーってよりはキュートチャーミングな人だったので。その魅力を映画に入れたいなと思い、撮影しながら脚本を改稿し、演出しました。クロエ・ジャオ監督と同じ手法です。そういう事にしておいて欲しいです。
『B/B』は、新感覚サスペンスということで、12人の登場人物それぞれの人格を別々の俳優たちが演じる発想が面白いのですが、そのような作品作りはどこから生まれたのですか?
「アイディアが斬新ですね」と色んな映画祭で言われるんですが、僕は特に斬新だとは思っていません…ありふれたネタで、ありふれたギミックだと思っているので、何で思いついたのかも結構アヤフヤでして。多分、(前述した)小島監督のメタルギアソリッドVの「イシュメールとエイハブ」からの影響が発展して今の形になったのだと思います。あとは「他者に壁を作り自己の世界に閉じこもる」自分の歪さを内省したくて作った作品なので「自分同士で喋る」をそのまんま映像にしようとしたのが発想の元だと思います。多分。
今後は、どのような監督を目指していくのでしょうか?
ジャンル映画を作っていきたいです。ホラーにスプラッター。予算があれば怪獣にSF。ブラムハウス製作のホラー映画が大好きでして、近作だったら「透明人間」「ザ・ハント」「ザ・スイッチ」なんかは映画館から震えながら帰りました。社会批判性とエンタメを両立したハイコンセプトホラーを日本を舞台で作るのが20代の内の目標です。最終的には「ゴジラ」を監督したいです。「デビルマン」も再実写化したいです。高い山で、今の自分には夢物語ですが、人生を賭けて辿り着きたいです。
今言える範囲で、決まっていることは?
何も決まってません。見栄はって色々言いたいですが、白紙としか言えないですね。今年は色んなコンペに参加してたんですが、最終で尽く落ちてしまいましたし。白紙ですね。ちょっと全財産賭けてシネマカメラRED KOMODOを買ってみたりしたので、映画に限らず、お仕事募集中です。元も子もないですが「B/B」も「A CHAOS CONTROL」も今回の上映でお客さんが入らなければ、次の上映に繋がらないので、様々な点で白紙ですね。人生って甘くないですね。
今回の「田辺・弁慶映画祭セレクション2022」では、『B/B』以外にも『A CHAOS CONTROL』という中編作品も併映されるみたいですが、この作品は?
昨年、文化庁の助成金で作った実験映画です。「B/Bの真逆をやろう」をコンセプトに、完成台本なし、絵コンテ無し、ロケハンも無しで何故か照明機材も無しの即興で作った作品です。完成作品の6割以上がアドリブで構成されていまして、とにかく役者に好き勝手やって貰って、撮りながら作品を模索していきました。ダグ・リーマン監督、クリストファー・マッカリー監督の製作法に憧れて作った「有害な男らしさ」を描いた作品です。今後も一緒に映画を作りたいな、と思える役者さん達と出会えた特別な作品です。是非、素敵な役者陣の即興芝居を観に来てください。
今作をご覧になる方へ一言。
2作品共、インディーズ映画ですが「映画館で観る」事に拘って作った作品です。画作りは勿論、音響も5.1ch仕様になっています。映画館でこそ、映画館だからこその「鑑賞体験」を提供できる作品になる様尽力してきました。今後の上映の見通しが立っていない作品ですので、是非、この機会にテアトル新宿のodessa音響で「B/B」と「A CHAOS CONTROL」を鑑賞して頂ければ幸いです。2作品とも内省を土台にしつつ、映画、アニメ、漫画、ゲームへの愛と感謝を込めて作りました。映画ファンに限らず、様々な人に鑑賞して頂ければ嬉しいです。
聞き手/編集 (シネフィル編集長/詩人 園田恵子)
『B/B(ビーツー)』(77分)
STORY
一夏の忘却、二人の原罪、十三番目の愉悦
東京オリンピック中止と新興宗教によるテロ未遂事件。2つの大事件の影で起きた惨殺事件「イカロス」。被害者の息子士郎と交流のあった紗凪は刑事から取り調べを受ける。解離性同一性障害を患う彼女とその人格達は各々の視点から回想を始めるが…
製作・監督・脚本・編集・美術:中濱宏介 撮影・照明:小林潤樹 録音:酒井朝子 助監督:小野若菜、小野隼佑 音楽:堀本陸、馬瀬みさき
ポスターデザイン:さなだケイスイ 協力プロデューサー:熊谷宏彰
『A CHAOS CONTROL』(47分)
STORY
私らしく、貴方らしく、男らしく、女らしく。
「ある日」、「ある時」、「ある場所」で、4人の「女」と1人の「男」に「ある事」が起きた。
「ある男」達はそれを消費し、「ある女」はそれに憤りを覚えた。
完成台本、画コンテ禁止。即興「有害」実験映画。
出演/影山祐子、大塚菜々穂、當山美智子、坂本佳乃子、GON、大迫茂生、合田雅吏、間瀬英正、千尋、山田真由子
、川上紗和、職業怪人 カメレオール、倉嶋かれん、清水麻緒 撮影/照明 小林潤樹 撮影助手 佐々木 皓大 録音/MA 鈴木廉矢 録音助手 藤井香菜子 ヘアメイク 下部佳音 衣装 吉原七海 美術 中濱宏介 記録 佐藤早苗 編集 中濱宏介 清水星淳 助監督 小野若菜制作 酒井朝子 音楽 堀本陸 演奏 Violin&Viola 安田つぐみGuitar 吉丸´Wookiee´洸平Sax Toshihiro KonishiCorus 六花 岡田梨央 音楽MIX Rei(studio JEN) 協力 和田光沙、中林諒太