サントリー美術館(東京・六本木)において、大阪市立美術館の珠玉の名品が一堂に会する館外初めての展覧会「美をつくし―大阪市立美術館コレクション」が、2022年9月14日(水)から11月13日(日)まで開催されます。
大阪市立美術館は、東京・京都に次ぐ日本で三番目の公立美術館として、昭和11年(1936)に開館しました。
長年にわたり築かれたコレクションは、日本・中国の絵画や書蹟、彫刻、工芸など8500件を超え、時代も紀元前から近代まで実に多彩です。とりわけ関西の財界人によるコレクションをまとめて収蔵する点に特徴があり、美術館の敷地も住友家から大阪市に本邸跡地が寄贈されました。
現在、大阪市立美術館の建物は登録有形文化財(建造物)に指定されていますが、開館90周年(2026)を前に大規模な改修工事が行われることとなり、この長期休館を機に、各ジャンルから厳選された優品が館外で初めて紹介されることになりました。
展覧会名の「美をつくし」は、大阪の市章にもかたどられる「澪標(みおつくし)」になぞらえたものです。
難波津(なにわづ)の航路の安全のために設けられた標識「澪標(みおつくし)」のように、美の限りを尽したコレクションの世界をご堪能ください。
それでは、シネフィルでも展覧会の構成に従って主な作品を観ていきましょう。
第1章:世界に誇るコレクション 珠玉の中国美術
大阪市立美術館は、日本美術だけでなく、国内屈指の中国美術コレクションを所蔵していることで有名です。
なかでも中国書画は、東洋紡績株式会社の社長を務めた阿部房次郎(あべふさじろう)氏によるコレクションが中心です。
室町時代以来、日本人が好んで賞玩してきた中国書画とは一線を画し、いわば本場中国の保守本流を追うような堂々とした書画が目を引きます。中国美術史の王道を行く作品が日本に存在しているといっても過言ではありません。
また、関西の実業家・山口謙四郎(やまぐちけんしろう)氏による石造彫刻コレクションも充実しています。
石窟内に彫り出されたものではなく、丸彫りの単独像を多く含むことに特徴があり、年代がわかる在銘作品によって中国の彫刻史を通覧できる点でも貴重です。
本章では、阿部コレクションと山口コレクションを中心に、質・量ともに世界に誇る、中国美術コレクションの一端をご堪能ください。
第2章:祈りのかたち 仏教美術
大阪市立美術館は昭和11年の開館以来、関西を中心とする社寺等から貴重な宝物の寄託(きたく)を数多く受け入れています。
昭和24年(1949)に文化財保護法が制定される以前から、地域の文化財の保存と活用を目指した、文化財行政を担う先駆的公立美術館のひとつであったと言えるでしょう。
一方で同館は、社寺寄託品だけでなく、館蔵の仏教美術コレクションも充実しています。
その拡充に大きな役割を果たしたのが、大阪で弁護士・政治家として活躍した田万清臣(たまんきよおみ)氏と夫人の明子(あけこ)氏の存在です。
本章では田万コレクションを中心に、大阪市立美術館が所蔵する仏教美術の名品をご紹介いたします。
田万夫妻は日本・東洋美術にわたる稀代のコレクターであり、かつ篤信の仏教信者でもありました。作品に対する二人の個性的なまなざしと、真摯な信仰心に裏づけされた祈りの世界をご覧ください。
第3章:日本美術の精華 魅惑の中近世美術
日本美術のなかでも人気の高い中近世美術は、大阪市立美術館コレクションの「新蔵人物語絵巻(しんくろうどものがたりえまき)」「化物草子(ばけものぞうし)」「百鬼夜行絵巻(ひゃっきやぎょうえまき)」といったユニークな絵巻作品や、「四季花鳥図屏風(しきかちょうずびょうぶ)」「邸内遊楽図屏風(ていないゆうらくずびょうぶ)」などの華やかな大画面作品からは、多彩な作品や絵師たちを生み出した、時代の厚みと多様さが見て取れるでしょう。
尾形光琳(おがたこうりん)関係資料は光琳の子・寿市郎(じゅいちろう)が養子先の小西家に伝えた文書や画稿類を集めたもので、同館を代表するコレクションのひとつです。
なかでも光琳の生家であり京都屈指の高級呉服商・雁金屋(かりがねや)の各種図案集は、江戸時代初期の流行や、売れっ子デザイナーとして活躍した光琳の資質を余すところなく伝えてくれる貴重な資料です。 本章では、現代人も酔いしれる、魅惑の中近世美術をご堪能ください。
第4章:江戸の粋 世界が注目する近世工芸
大阪市立美術館の工芸品を代表するのが、1912年に来日したスイス人実業家U.A.カザール(Ugo Alfonso Casal)氏によるコレクションです。
近世後期から明治期にかけての漆工品や印籠・根付など約4000件にのぼり、実に同館収蔵品の半数を占めています。
豪華な蒔絵の婚礼調度や、印籠・根付に見る精巧な手わざは、まさに日本が誇るべき工芸の神髄です。近代の日本で、こうした輝かしい技術の評価が遅れていたなか、日本とその文化を愛してやまないカザール氏は積極的に収集を行いました。
本章では、日本に遺された貴重なカザールコレクションを中心に、華麗にして精緻な工芸品の数々が紹介されています。
第5章:はじまりは「唐犬」から コレクションを彩る近代美術
大阪市立美術館のコレクション第一号は、日本画家・橋本関雪(はしもとかんせつ)による「唐犬(からいぬ)」です。
昭和11年(1936)の落成記念に開催された帝展出品作を買い上げたもので、開館当時における「現代美術」でした。
また、近代日本画の名品がそろう住友コレクションの成り立ちも特筆すべきものです。
所蔵品が貧弱であった戦中期、美術館の敷地も提供した住友家が、作家への揮毫(きごう)料などもすべて負担して展覧会を開き、その出品作品が同館に寄贈されました。
清澄で気品漂う美人画で近代京都画壇を代表する女流画家・上村松園。
《晩秋》は、穏やかな日常生活の何気ない様子、縁側で障子の破れを直す、清楚な女性を描いた作品です。
本章では、近代美術の名品が紹介されています。
今では大家たちの作品も、当時は現役作家による最新作であったことに思いを馳せながらご覧ください。
大阪市立美術館は、古美術だけでなく近現代美術も収蔵・展示してきたという点で、日本で初めて成立したハイブリッド型の公立美術館と言えるでしょう。
このいわば二刀流であることが同館の大きな特徴であり、魅力なのです。
紀元前から近代まで多彩な浪花の美が集結した「美をつくし―大阪市立美術館コレクション」を是非、今秋、東京のサントリー美術館でご覧ください。
展覧会概要
展覧会名 「美をつくし―大阪市立美術館コレクション」
会期 2022年9月14日(水)〜2022年11月13日(日)
※作品保護のため、会期中展示替を行います
※会期は変更の場合があります。最新情報は美術館の公式サイトでご確認ください
会場 サントリー美術館
住所 東京都港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウン ガレリア3階
時間 10:00〜18:00 (最終入場時間 17:30)
※金・土および9月18日(日)・22日(木)、
10月9日(日)、11月2日(水)は20:00まで開館
※いずれも入館は閉館の30分前まで
休館日 火曜日
※ただし11月8日は18:00まで開館
観覧料【当日券】一般1,500円 大学・高校生 1.000円 中学生以下無料
【前売】一般 1,300円 大学・高校生 800円
※サントリー美術館受付、サントリー美術館公式オンラインチケット、ローソンチケット、セブンチケットにて取扱
※前売期間は9月13日まで
TEL 03-3479-8600