2月10日からドイツ・ベルリンで開催中、日本から『ドライブ・マイ・カー』の濱口竜介監督が審査員として参加することでも大きな話題となっている世界三大映画祭の第72回(2022年)ベルリン国際映画祭にて、映画『マイスモールランド』の公式上映《ワールドプレミア》が、ベルリン現地日程2月12日(土)17:30〜(=日本時間2/13(日)午前1:30)に行われた。
是枝裕和監督が率い、西川美和監督が所属する映像制作者集団「分福」の気鋭の新人監督・川和田恵真監督の商業映画デビュー作『マイスモールランド』は、在日クルド人の少女が、在留資格を失ったことをきっかけに“自分の居場所”に葛藤し、成長してく姿を描く。5カ国のマルチルーツを持ち、viviの専属モデルとしても活躍する主演の嵐莉菜が、埼玉に住む在日クルド人の高校生・サーリャを演じ、東京に住む少年・聡太を注目の若手俳優・奥平大兼が演じている。
本作の川和田恵真監督がベルリン現地入りし、今回、現地での参加が叶わなかった主演の嵐莉菜と共演の奥平大兼の二人は、コメントを映画祭へ寄せた。祖父がドイツ人である嵐莉菜は、自身のルーツに縁を感じたことをコメントし英語とドイツ語で挨拶、奥平は流暢な英語で挨拶した。
『マイスモールランド』ベルリン国際映画祭レポート
ジェネレーション部門の上映会場House of World Cultures (Haus der Kulturen der Welt、通称HKW)に設営されたレッドカーペットに登場しフォトコールに応じるなど、現地メディアと観客から歓迎をうけた川和田監督。上映時間になると、ベルリン国際映画祭のジェネレーション部門の選考委員の一人Natascha Noack氏から挨拶があり上映がスタート。今年はコロナ対策のため約50%の観客で実施されたが、ドイツが難民への問題意識が高いこともあり500席の客席を持つ本作のプレミア上映回のチケットは、販売後すぐに完売していた。
上映中はクライマックスに向かうにつれ、スクリーンを食い入るように見入る観客の集中した雰囲気が会場内に伝わり、エンドロールが始まった直後から大きな拍手が沸き起こった。冷めやらぬ熱気のまま、川和田監督と観客によるQ &Aがスタート。感動のあまり涙が止まらずに質問する観客など、たくさんの質問が寄せられた。「本作のインスピレーションはどこからきたのか」という問いに対して、川和田監督は「2016年ごろ、自分と年齢の変わらないクルド人女性兵士の写真を見た」ことがきっかけだったと話し、そこからリサーチを始め、「その頃まで日本に住むクルド人コミュニティの存在を知らなかった。」と答えた。
「どういった想いを持ってこの作品を作ったのか」という質問が投げられると、「ドキュメンタリーも作られ、日本に住むクルド人に対する理解は少しずつ広まっていると思うのですが、実際、日本では難民としてほとんどの状況で認められない。でも日本を頼って逃れて来た人たちがいる。そういう人たちのことを、ほとんどの人が知らない。知らなくても<居ない>ことにしないでほしい。そういう気持ちを持って、この映画を作っていました。そしてフィクションとして描いたからこそ、いろんなルーツを持つ人にも、自分の物語として、見てもらえる映画になったのではないかと思います」とその想いを語った。
続いて、在留ビザの延長が叶わず、間も無く帰国予定であるという男性は、自身の体験と劇中の主人公たち家族とリンクした感情を交えながら「今後こういった作品を作り続けていかれるのでしょうか?」と質問。川和田監督は、自分の体験を明かしてくれたことに感謝を述べた後、「私自身が、日本とイギリスのミックスであるため、自分が何人か?という国籍だったり、アイデンティティは、ずっと関心が強くあることなので、今後も(描くテーマの)軸になっていくと思います」と明かした。
無事ベルリン国際映画祭でのワールドプレミア上映を終え、川和田監督は「Q &Aでは、想いが溢れて涙を流してくれる方もいました。場所によってこんなにリアクションが変わるんだなと、日本での公開も楽しみにしています」と映画祭での観客の温かい反応に感謝していた。
ベルリン国際映画祭ジェネレーション部門のヘッドプログラマーのセバスチャン・マルクト氏は「本作の今までになく、大変に興味深いのは、我々が通常目にすることのない、日本におけるクルド人家族の難民問題を描いていることです。そして、このテーマを、子供達の目線と、素晴らしい映像で描いている。(主人公の女の子が)目の前の問題に対峙しつつ、2つの世界の狭間にいなければならず、クルド社会と彼女自身が生まれ育った日本の“普通の”社会を繋げる役も担っています。ここの物語は世界共通のテーマです。様々な希望が矛盾を生み出してしまう。川和田監督は、その社会の矛盾を、とても美しい映画らしい構成で物語に練りこんでいると思います」と称賛する。
ドイツのバイヤー/ダニエル・オットー氏は、移民や難民問題に関して「現代社会では一般的な問題ではありますが、多くの人たちが記録から抜けていることが多いのが現状」と述べる。「公式な数値やニュースなどでは規模感は理解できるが、実際にその渦中である人たちの個人的な感情やリアルな状況は計り知ることが難しく、この作品ではそういったドラマの部分を取り上げているので、観る我々を現実に引き戻すことができます。また一人の人間のドラマ、またはその人の家族のことなど、ニュースなどの影に潜む部分を描いており、我々に気付きを与えてくれます。より多くの方に本作を観てもらことはとても重要です」と大絶賛した。主人公を演じた嵐についても「とても素晴らしい。彼女にとって本作が初主演映画ということを聞いて、びっくりしました。彼女は素晴らしいキャリアを積むでしょう」と賛辞を送った。
そして、本作のエンドクレジットに、プロデューサーの一人として是枝監督の名前を見つけた時に「全てが腑に落ちました。川和田監督が、是枝監督から学んだことが大きかったのでは、と想像します。実際にどのくらい是枝監督と協業したのかはわかりませんが、彼らは同じ方向で映画を製作していることが、本作から伝わってきます。本作は、そういった点からも、大きな注目を集めると思います」といったコメントが寄せられた。
本映画祭は、現地時間2月20日まで開催予定で、このジェネレーション部門からもグランプリ作品が選ばれる。(授賞式は現地2月16日)。映画『マイスモールランド』は、5月6日全国公開。
映画『マイスモールランド』予告
出演:嵐莉菜、奥平大兼、平泉成、藤井隆、池脇千鶴、アラシ・カーフィザデー リリ・カーフィザデー リオン・カーフィザデー、韓英恵、サヘル・ローズほか
監督・脚本:川和田恵真
主題歌:ROTH BART BARON「N e w M o r n i n g」
企画:分福
制作プロダクション:AOI Pro.
共同制作:NHK FILM-IN-EVOLUTION(日仏共同制作)
助成:(文化庁ロゴ)文化庁文化芸術振興費補助金(映画創造活動支援事業)独立行政法人日本芸術文化振興会
製作:「マイスモールランド」製作委員会
配給:バンダイナムコアーツ
©︎2022「マイスモールランド」製作委員会
公式twitter @mysmallland
公式Instagram @mysmallland