北島博士のおもしろ映画講座 第82回
生きる希望を、沈ませるな。"死のロード"を走りきれ！リーアム・ニーソン主演『アイス・ロード』

『アイス・ロード』
　

　カナダのマニトバにあるダイヤモンド鉱山でメタンガスが爆発し、坑道が崩れ、鉱夫二十六名が閉じ込められた。坑内の空気はもって30時間。それまでに抗口装置を遠く離れた地点から持ってこなければならない。装置は重くて飛行機、ヘリコプターでの運送は無理。湖が凍ってできた氷の道〈アイス・ロード〉をトラックで運ぶしかないのだが、装置を搭載した30トン・トラックが果たして氷を割らずに通過し、険峻な山間部を通過して時間内に到着できるのか。さまざまなハザードが立ちふさがり、時間との競争でもあるという二つのサスペンス要素を織り込んだ作品。

　設定、プロットを聞いただけで、多くの人はＨ・Ｇ・クルーゾー監督が手掛けた1953年のフランス映画「恐怖の報酬」を思い出すに違いない。南米でアメリカの石油会社が経営する油田の油井が火事を起こし、鎮火する為に必要なニトログリセリンを届けることになる。振動がひどいとニトログリセリンが爆発するかもしれない。油田までの道は遠く、路面は荒れ、崖にはぎりぎりの幅しかない。それでも食い詰めた男たちが、最後のチャンスと応募して出発する。夾雑物のない、ただトラックの運行だけでサスペンスをもりあげた腕前には驚嘆せざるを得なかった。1980年にはアメリカのウィリアム・フリードキンが再映画化した。もっともフリードキン自身はリメイクとは思っておらず、「シェイクスピアが『ハムレット』を書いて以来、これまでに数万回と上演されているが、だれもリメイクとは考えていない。一つ一つが作り手のオリジナルであり、本作もそれと同じ」と答えていた。

　死と隣り合わせの仕事を請け負った運輸会社のジムは、トラブルを起こしてばかりの女ドライバーのタントゥ—を警察からもらい受けた。彼女の兄も閉じ込められており、やる気満々。彼女は先住民出身というキャラクターだが、それがストーリーにほとんど影響していないのはもったいない。戦場における過酷な体験で精神が不安定なガーティと彼を世話する兄マイクが、高額な報酬めあてに応募した。以上、四人に加えて、保険会社の社員バルネイがオブザーバーとして参加。三台のトラックに分乗したジム、タントゥー、マイクは操縦技術に優れ、ガーティも整備士として優れた腕前の持ち主だった。

　本作も「恐怖の報酬」の基本コンセプトをベースにしたサスペンス映画であり、冬季以外は閉鎖されているアイス・ロードを特別に開放させ、三台の大型トラックが進む。早すぎても、遅すぎてもダメ。慎重かつ大胆な運転が必須。予定時間はぎりぎりだから、遅延は許されない。氷、雪山でのサスペンスに加え、この救出ミッションにはある陰謀が隠されており、途中でそれが起動して、ますます危機に陥ることになる。

　弁護士から「ダイ・ハード3」（95）、「アルマゲドン」（98）などのアクション映画の脚本家となり、「パニッシャー」（04）などを監督したジョナサン・ヘンズリーが脚本を書き演出。撮影はカナダのウィニペグで行われ、ケンワース社製の18輪トラックをグライダーのように牽引して撮影。リアルさにこだわり、「下でスタントが運転し、上で俳優が運転しているように見せた。グリーン・スクリーンを背景にしてはいない」ととヘンズリーは言う。
　アクション映画のヒーロー役をやらせれば天下一品のリーアム・ニーソンがマイクを演じ、他にガーティにマーカス・トーマス、タントゥ—にアンバー・ミッドサンダー、ジムにローレンス・フィッシュバーン、バルネイにベンジャミン・ウォーカーが扮している。

北島明弘
長崎県佐世保市生まれ。大学ではジャーナリズムを専攻し、1974年から十五年間、映画雑誌「キネマ旬報」や映画書籍の編集に携わる。以後、さまざまな雑誌や書籍に執筆。
著書に「世界ＳＦ映画全史」(愛育社)、「世界ミステリー映画大全」(愛育社)、「アメリカ映画100年帝国」（近代映画社）、訳書に「フレッド・ジンネマン自伝」（キネマ旬報社）などがある。　

映画『アイス・ロード』予告

出演:リーアム・ニーソン ローレンス・フィッシュバーン
マーカス・トーマス アンバー・ミッドサンダー ベンジャミン・ウォーカー
監督・脚本:ジョナサン・ヘンズリー
原題:THE ICE ROAD/アメリカ/2021年/カラー/シネスコ/5.1chデジタル/109分/字幕翻訳:林完治 提供:ギャガ、イオンエンターテイメント
配給:ギャガ

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