毎年、新しい出会いに満ち映画の未来を照らしてきた映画祭「東京フィルメックス」。
今年は最優秀作品賞が2本同時受賞し、観客賞には濱口竜介監督作『偶然と想像』が選ばれました。

画像: (c) IKKI_KOBAYASHI_TOKYO_FILMeX

(c) IKKI_KOBAYASHI_TOKYO_FILMeX

9日間に渡って開催された「第22回東京フィルメックス」。今年は、神谷直希が新たにプログラム・ディレクターに就任、<継承と継続>を掲げ、これまで以上に独自性を有した刺激的な作品がラインナップ。連日、新たな映画との出会いに会場は盛り上がりを見せ、最終日の授賞式を迎えた。

<「第22回東京フィルメックス」授賞式>
【日時】11月7日(日)16:50~17:30 
【場所】有楽町朝日ホール (千代田区有楽町2-5-1 有楽町マリオン11F)
【ゲスト】(敬称略)
国際審査員<諏訪敦彦(名前読み:のぶひろ)、ウルリケ・クラウトハイム、小田香>学生審査員<堀内友貴(名前読み:ゆうき)、福岡佐和子、柳川碧斗(読み:あおと)>神谷直希(プログラム・ディレクター)/高田聡(『偶然と想像』プロデューサー)
※国際審査員は4名。オリヴィエ・デルプは授賞式は欠席。

まず冒頭は、映画分野における人材育成事業「タレンツ・トーキョー」の結果発表。選ばれたのは、木村あさぎの「あなたの髪は青緑の実から」。
木村は、「私が映画を撮ることに戸惑って、何年間も撮ることから逃げていたが、タレンツの映画に対する情熱を直に感じることができて、とてもインスパイアされ勇気もをもらった」と感謝の気持ちを込めたメッセージを届けた。またスペシャル・メンションとして、ラッチャプーン・ブンブンチャチョークの「A Useful Ghost」と、アルヴィン・ベラルミノの「Ria」が選ばれた。

画像: 左より諏訪敦彦、小田香、観客賞受賞『偶然と想像』プロデューサー高田聡、ウルリケ・クラウトハイム (c)吉田留美

左より諏訪敦彦、小田香、観客賞受賞『偶然と想像』プロデューサー高田聡、ウルリケ・クラウトハイム
(c)吉田留美

続いて、観客賞の発表へ。プログラム・ディレクターの神谷が冒頭に「この9日間、この映画祭が色々な人の力によって成り立っていることを実感した。この場で全ての人に感謝を述べたい。」と挨拶し、今年の開催を振り返り、改めて感謝を述べた。

画像: 神谷直希(プログラム・ディレクター) (c)吉田留美

神谷直希(プログラム・ディレクター)
(c)吉田留美

観客賞は、今年のオープニングで上映された濱口竜介監督『想像と偶然』。残念ながら来場できなかった濱口監督からメッセージが届き、「フィルメックスは2008年に『PASION』という作品で初めて参加した。それから13年が経って、自分がこのような大きな、温かい気持ちににならるような賞をいただけてとても嬉しく思う。会場から大きな笑い声が響くたび、幸せな気持になりました。」と喜びを伝えた。

画像: 『想像と偶然』

『想像と偶然』

画像: 高田聡(『偶然と想像』プロデューサー) (c)吉田留美

高田聡(『偶然と想像』プロデューサー)
(c)吉田留美

続いて発表された学生審査員賞は、アレクサンドレ・コベリゼ監督作『見上げた空に何が見える?』。「カメラに映るすべてのものが、私たちに何かを語りかけてくるように感じ、圧倒され、私たちが何気なく生活している日常の愛おしさに気付かされた」と受賞理由が述べられ、コベリゼ監督からは「私自身が17年ほど学生時代を過ごしたことがあったので、この賞が私にとってとても大事な意味を持っていると思う。日本のみなさんにどのように受け止められるか心配していたのだが、このような賞をいただけて嬉しい」とメッセ―ジが届いた。

画像: 学生審査員<堀内友貴(名前読み:ゆうき)、福岡佐和子、柳川碧斗(読み:あおと)> (c)吉田留美

学生審査員<堀内友貴(名前読み:ゆうき)、福岡佐和子、柳川碧斗(読み:あおと)
(c)吉田留美

最後に発表されたのは、最優秀作品賞。今年は2本同時受賞となり、1本目は、ジャッカワーン・ニンタムロン監督作『時の解剖学』。
「わたしたちは現実と非現実が共存するところにいざなわれ、物語のかけらをつなぎ合わせてそれぞれの観点から捉え直すよううながされる。アンビバレントな要素、自然、登場人物たちや状況もまたこの映画の魅力だ」と様々な時間の層絡みあわされた本作の魅力を評価。
ニンタムロン監督からは、「この受賞は、出演していた全ての人達の影の支えがあると思う。私の作品がより広い観客に届くことを祈っている」と更に多くの観客へ観てもらいたいと、ビデオメッセージで思いを語った。

画像: 『時の解剖学』ジャッカワーン・ニンタムロン監督 (c)吉田留美

『時の解剖学』ジャッカワーン・ニンタムロン監督
(c)吉田留美

2本目は、学生審査員賞にも輝いた『見上げた空に何が見える?』。「一方的な暴力装置にもなりうる映画=カメラを使いながら、本作品では被写体とフェアな関係を結ぶことに成功し、イメージは映画と世界との対話へと開かれてゆく」と本作のユニークな挑戦が称えられた。
コベリゼ監督からは「この映画は私にとって孤独で長い道だった思う。長い孤独な旅が、この素晴らしい賞をいただけたことでハッピーエンドを迎えられたのでは、と思っている。」と改めて喜びのメッセージを送ってくれた。

画像: 『見上げた空に何が見える?』アレクサンドレ・コベリゼ監督 (c)吉田留美

『見上げた空に何が見える?』アレクサンドレ・コベリゼ監督
(c)吉田留美

審査員長の諏訪は講評で、「こんな風に審査をさせていただいたく時、される場合もあるけれど、そういう時に心の中で呟いている言葉がある。確か、クリント・イーストウッドの言葉だったと思うが、”たくさん賞を取るくだらない映画もある、一つも賞を取らない素晴らしい映画もある。ただそれだけのことなんだ”と。審査をするということは、ジャッジすることではなくパーソナルな視点を表現するものだと思っている。(コンぺティション作品)それぞれが、社会や個人の中に存在する問題にアプローチして、いかに映画として表現するか勇気あるチャレンジを見せてくれた。(最優秀作品賞が)2本という異例な結果となったが、2本はそれぞれユニークなプロセスで、映画の未来を開いてくれていると感じたが、同等に評価したという結果ではなく、審査員それぞれが、映画に何を見ようとして求めているか、全く別の視点から、その価値を見出されたもの。違うアングルというものを皆さんに提示しようと、そういう風に判断させてもらった。映画の未来の多様性に対する励ましのメッセージであると受けとめてもらえたら、と思う」と話し、受賞作、そして今年のコンペティション部門へ出品された作品全てに、東京フィルメックスへ届けてくれたことへの感謝も述べた。

画像: 諏訪敦彦氏審査員講評 (c)吉田留美

諏訪敦彦氏審査員講評
(c)吉田留美

なお、「第22回東京フィルメックス」は会場での開催は終了し、この後11月23日(火・祝)まで一部作品をオンライン配信する
(詳細は映画祭公式ホームページまで)。

【受賞結果】
最優秀作品賞
『見上げた空に何が見える?』(監督:アレクサンドレ・コベリゼ/ドイツ、ジョージア)
『時の解剖学』(監督:ジャッカワーン・ニンタムロン/タイ、フランス、オランダ、シンガポール)

学生審査員賞
『見上げた空に何が見える?』(監督:アレクサンドレ・コベリゼ/ドイツ、ジョージア)

観客賞
『偶然と想像』(監督:濱口竜介/日本)

タレンツ・トーキョー・アワード2021
企画名「あなたの髪は青緑の実から」(木村あさぎ)

*タレンツ・トーキョー・アワード2021 スぺシャルメンション
企画名「A Useful Ghost」(ラッチャプーン・ブンブンチャチョーク)
企画名「Ria」(アルヴィン・ベラルミノ)

◎「第22回東京フィルメックス」開催概要

会期:10月30日(土)~11月7日(日)
会場:有楽町朝日ホール(メイン会場)/ヒューマントラストシネ
マ有楽町(レイトショー会場)
上映プログラム:東京フィルメックス・コンペティション、特別招
待作品、メイド・イン・ジャパン
公式HP:https://filmex.jp/

なお、「第22回東京フィルメックス」は会場での開催は終了し、この後11月23日(火・祝)まで一部作品をオンライン配信する(詳細は映画祭公式ホームページまで)

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