2019年のカンヌ国際映画祭で脚本賞とクィア・パルム賞を受賞した『燃ゆる女の肖像』で一躍その名を轟かせたセリーヌ・シアマ監督。カンヌ国際映画祭ある視点部門に出品された『水の中のつぼみ』に続く、長編2作目となる『トムボーイ』がいよいよ9/17(金)より日本公開となる。公開に先駆け、監督インタビューが到着。10年の時を感じさせない「小さな大作」はどのようにして誕生したのか?本作について、詳しく語ってもらった。
<セリーヌ・シアマ監督インタビュー>
Q:『トムボーイ』の制作はどのように始まったのですか?
『トムボーイ』は、驚くほど短期間で出来上がりました。14人のスタッフと、20日間で撮影したんです。こうした事実には、ラディカルさと力強さという、この映画のスピリットがよく表われていると思います。以前の作品とは違う方法で取り組みたいという気持ちが出発点でした。「女の子が男の子になりすます」という物語は、長いこと私の頭の中にありました。子供時代のアイデンティティーの混乱について語ることは、ほとんどタブーのようですが、実際には強い刺激とある種の官能性を秘めた時期なのです。
個人的に、物語には軽妙な味わいが必須だと思っています。例えば、刑事が他人の勘違いをうまく利用して、マフィアになりすますような物語を書きたかったんです。
ある瞬間にすべてがひっくり返ったり、その成り行きを登場人物が受け入れざるを得ないというような。
単純で分かりやすいドラマにしたいと考えました。
Q:ロール/ミカエルを演じたゾエ・エランをどうやって見つけたのですか?
信じられないことに、私たちはオーディションの初日にゾエに出会ったんです。逸材でした。サッカーが大好きで、長い髪を切ってもいいと言いましたし、テストのための短いシーンではとても自然でした。彼女はまさに「ぴったり」で、彼女となら一緒に仕事ができると思いました。
Q:ロールとミカエル、それぞれへの演出について教えてください。
ロールあるいはミカエルは常に二重生活であり、矛盾した感情を抱えています。のんきにその場の状況を楽しんだりすることと、嘘をついているという強烈な意識の狭間にいるのです。ゾエがロールを演じる場面は主に室内で、私は彼女に集中し、穏やかに接しました。一方ミカエルの場面は屋外で、私たちの関係も荒っぽくて力強く、声のトーンも変えました。仲間たちといる時に演技をさせるのがいちばん難しくて、彼女はすぐに集中力を失ってしまいました。身を入れる必要のある役で、そこから逃げたくなるのは理解できましたけれどね。
Q:ほかの子供たちはどうやって見つけましたか?
ジャンヌ役のマロン・レヴァナは、オーディションが終わっても部屋を出て行きたがらなかったんです。そこにいたがったというのは、いい兆候でした。でも私が確信したのは、彼女がゾエと会ったときです。その瞬間に11歳の女の子とその「妹」との間には、何かしらの結びつきが生まれました。子供たちへの演技指導でいちばん難しかったのは、すぐに疲れてしまうことと、一度仕事したくないと思ったら働かないことです。私にとってではなく、彼らにとってちょうどいいときに撮影をやめなければなりませんでした。20日間の撮影期間しかないため、1日に2~3シーンを撮らなければなりません。協力関係と注意深さ、寛大さ、威厳を見せることのバランスを見いだす必要がありました。
「私にとっての前進とは、自由や独立を獲得し、新たな創作や演出の方法を試すことです」と語るシアマ監督。のちの躍進の一端をのぞくことができる瑞々しくもスリリングな『トムボーイ』、ぜひスクリーンで堪能してほしい。
『トムボーイ』予告編
【ストーリー】
夏休み、家族と共に新しい街に引っ越してきた10歳のロール。引っ越し先で「ミカエル」と名乗り、新たに知り合ったリザたちに自分を男の子だと思い込ませることに成功する。やがてリザとは2人きりでも遊ぶようになり、ミカエルとしての自分に好意を抱かれていることに葛藤しつつも、お互いに距離を縮めていく。しかし、もうすぐ新学期。
夏の終わりはすぐそこまで近づいているのだった…。
2011/フランス/カラー/フランス語/82分 原題:Tomboy
監督・脚本:セリーヌ・シアマ『燃ゆる女の肖像』
出演:ゾエ・エラン、マロン・レヴァナ、ジャンヌ・ディソン
後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ東京/ユニフランス
配給:ファインフィルムズ 映倫:PG12
© Hold-Up Films & Productions/ Lilies Films / Arte France Cinéma 2011