カンヌ国際映画祭に正式招待された『Grand Bouquet』(19)をはじめ、米津玄師 MV『Lemon』の出演・振付でも知られる吉開菜央。この度、彼女の初の長編作品 『Shari』が10月23日(土)よりユーロスペースほかアップリンク吉祥寺、アップリンク京都、第七藝術劇場にて順次公開することが決定いたしました。
最北の地、知床・斜里―Shari―
あらゆる命の声に触れる、唯一無二の映画体験
羊飼いのパン屋、鹿を狩る夫婦、海のゴミを拾う漁師、秘宝館の主人、家の庭に住むモモンガを観察する人。彼らが住むのは、日本の最北に位置する知床半島。希少な野生動物が人間と共存している稀有な土地として知られ、冬にはオホーツク海沿岸に流氷がやってくる。だが、2020 年、この冬は雪が全然降らない。流氷も、なかなか来ない。地元の人に言わせれば、「異常な事態」が起きている。 そんな異変続きの斜里町に、今冬、突如現れた「赤いやつ」。そいつは、どくどくと波打つ血の塊のような空気と気配を身にまとい、いのちみなぎる子どもの相撲大会に飛び込む! 「あらゆる相撲をこころみよう!」これは、自然・獣・人間がせめぎあって暮らす斜里での、摩訶不思議なほんとのはなし。現実と空想を織り交ぜながら紡がれるこの物語は、既存のイメージを打ち破り知床の新たな一面を浮かび上がらせる。
前作の短編映画『Grand Bouquet』ではカンヌ国際映画祭監督週間 2019 にて身体表現の軽やかさに満ちた表層とダークでファンタジックな深層が混交してゆく映像体験が評価され、米津玄師 MV『Lemon』の出演・振付でその比類なき活躍に注目が集まる吉開菜央。
初の⻑編作品となる本作では「赤いやつ」としても出演。温暖化による大きな変化が起きつつある北の地を「赤いやつ」は自由自在に彷徨い歩く。撮影は、これが初めての映画撮影となる写真家の石川直樹。彼は 2008年に 『NEWDIMENSION』(赤々舎)、『POLAR』(リトルモア)により日本写真協会賞新人賞、講談社出版文化賞を受賞し、2020 年『EVEREST』(CCCメディアハウス)、『まれびと』(小学館)により日本写真協会賞作家賞を受賞するなど世界中を旅しながら精力的に活躍し続けている。
石川が地元の写真愛好家たちと知床の新たな魅力を発掘し発信することを目的に、斜里町でスタートした〈写真ゼロ番地知床〉。 このプロジェクトの4人目のゲストとして招かれたのが、吉開。2019 年夏、シナリオハンティングを兼ねて斜里町を訪れた吉開は、 町で鹿肉を食べ、眠れなくなるほど強い興奮を覚え、この体験から映画の物語を始めることを思いついたと言う。
本ポスタービジュアルは石川直樹による撮り下ろし。知床の空と海と雪原のグラデーションに出で立つ「赤いやつ」。異様な空気を身にまとい、血や肉を彷彿とさせる。雪まみれの「赤いやつ」の存在に思考を掻き立てられるビジュアルとなっている。世界中を旅してきた石川が定期的に訪れている知床半島で、突然現れた「赤いやつ」が異世界と現実を行き来する決定的な一瞬を切り取った。
そして、本作の撮影をたった4人で行った少数精鋭<撮影チーム>からのコメントが到着いたしました。
監督:吉開菜央コメント
写真家の石川直樹さんから知床半島斜里町で一緒に映画をつくらないかと誘われて、この映画ははじまりました。石川さんは6年前から「写真ゼロ番地知床」という地元の写真愛好家とグループを組んでいて、彼らと深い信頼関係を持ちながら作品制作を継続されています。わたしは石川さんのツテを辿り、2019 年の夏に斜里町に滞在し、斜里岳に登ったり、野生の鹿肉を食べたり、特別に漁船に乗せてもらったりしながら、ただ観光するだけでは決して出会えないような人々の生活を垣間見るという得難い体験をしました。翌年の 2020 年 1月。現地での撮影がスタートしますが、その年は記録的な小雪で、真っ白な銀世界で撮影するという期待は早々に裏切られることになります。斜里で会う人はみんな口々に言います。「今年は異常だ」。彼らの切実な声は、東京に住むわたしにも無関係な話ではないと強く確信し、いまここで起きている、決しておとぎ話では済まされない現実も含めてすべて映画にするべきだと決心しました。わたし自身が人と獣の間のような「赤いやつ」に扮し、斜里を全身で体感し、人と自然、自分と他者、言葉になることならないこと、夢と現実、さまざまな境界線を彷徨い、あらゆる命の渦の一粒として、生きながらつくりあげた、初めての⻑編映画です。映画に残すことのできた風景と音が、世界中のみなさまの今に繋がることを願っています
撮影:石川直樹コメント
知床半島を初めて訪れたのはもう 20 年近く前になります。コロナ禍に入るまでは、本当に何度も何度も知床の玄関口である斜里を起点に旅をして、冬も夏も、特に近年はさまざまな場所を歩きまわりながら写真を撮っていました。なのに、今回初めて映画を撮影する目的で彼の地に滞在してみたら、見慣れた場所にまったく未知の風景が立ち上がってきた。地名としてはとても有名な知床ですが、そこから想起される土地の表情や姿は、人の数だけ存在する。この映画が、そんなことを少しでも感じてもらうきっかけになったらいいなあ、と思っています。
録音・音楽:松本一哉コメント
少人数で強行スケジュールの中、冬の知床で録った音が映画全体から聴け、また、私が初めての知床での体験から制作した音楽を聴けて、撮影時の様々な音風景の時間が鮮明に思い浮かびます。冬の知床の環境音、雪の音、流氷の音、氷の音、風の音、動物たちの声、人々の声、人工的な音、演奏の音、音響の音。全ての音が混ざり合って SHARI という生き物の音になっており、音の面からも様々な越境が読み取れました。この時代の冬の知床の音を残せた事に喜びを感じます。関わった全ての知床の生き物たち、ありがとうございました
助監督:渡辺直樹コメント
吉開さんから聞いた”はしっこ”での“ちいさな”映画づくりに直感が走り、写真家/石川直樹さんと音楽家/松本一哉さん、吉開監督も併せ、各界の才能と映画を丁寧に結びつける“役目”に勝手な使命感を覚えて参加しました。さらに知床という土地とそこに暮らす人たちの姿と心根が映画を支える幹となり、僕ら 4 人が持ち寄った物語と、軽やかに織り交わる作品になりました。思えば撮影した 2020 年 1 月。オホーツク海の流氷到来に合わせ、新型コロナ感染症が静かに近づいてきていました。今なお続くこの困難を “赤いやつ”が溶かし、心置きなく斜里を再訪できる春を心待ちにしています。
【STORY】
羊飼いのパン屋、鹿を狩る夫婦、海のゴミを拾う漁師、秘宝館の主人、家の庭に住むモモンガを観察する人。彼らが住むのは、日本の最北に 位置する知床半島。希少な野生動物が人間と共存している稀有な土地として知られ、冬にはオホーツク海沿岸に流氷がやってくる。だが、 2020 年、この冬は雪が全然降らない。流氷も、なかなか来ない。地元の人に言わせれば、「異常な事態」が起きている。 そんな異変続きの斜里町に、今冬、突如現れた「赤いやつ」。そいつは、どくどくと波打つ血の塊のような空気と気配を身にまとい、いのちみ なぎる子どもの相撲大会に飛び込む! 「あらゆる相撲をこころみよう!」これは、自然・獣・人間がせめぎあって暮らす斜里での、摩訶不思議なほんとのはなし。
監督・出演:吉開菜央
撮影:石川直樹
出演 斜里町の人々、海、山、氷、赤いやつ
助監督:渡辺直樹
音楽:松本一哉
音響:北田雅也 アニメーション:幸洋子
配給・宣伝:ミラクルヴォイス
(C)2020 吉開菜央 photo by Naoki Ishikawa