オンラインラウンジSHAKEは、“映画じかんをもっとリッチに。”というコンセプトのもと、映画館のラウンジのように様々な人が集い、映画を観る前、観た後の時間も含めて豊かに過ごすための会員制オンラインサービスです。今回は、2020年12月にスタートしたSHAKEを運営しているShake,Tokyo株式会社の代表で映画プロデューサーの汐田海平さんと、松竹株式会社で新規事業の開発をしている八木健太郎さんに、SHAKEへの想いや、映画館と配信のこと、これからの映画業界についてなど幅広くお話を伺いました。
――お二人は普段、SHAKEの運営以外ではどんなお仕事をしているのでしょうか?
汐田海平(以下、汐田): Shake,Tokyo株式会社という会社で、映画や広告の企画制作、SHAKEのような新しいサービスの企画運営、新規事業開発を行っています。
八木健太郎(以下、八木):松竹株式会社の事業開発本部開発企画部という部署に所属していて、映像に関する新規事業の開発を担当しています。以前は、映像配信ライセンスの営業を担当していて、どうすれば映画が広く観て頂けるかという運用のところを専門にキャリアを重ねてきました。
汐田:八木さんは、常に新しいことをやっている部署に居ますよね。
八木:10数年前に配信の仕事をはじめたときは、ほとんどの方がまだ配信サービスを利用していない状態で、ガラケー用に映画を何分割にもする許諾を取りに行くというような仕事もしていました(笑)。当時の技術では、携帯電話では短尺の映像しか配信することができなかったんです。あの頃から考えると、今は配信も来るところまで来たなという感じがあります。
――続いて、SHAKEが立ち上がった流れについてお聞きしたいです。
八木:もともとShake,Tokyoの筒井(龍平)さんと知り合いで、汐田さんを紹介いただきました。なかなかお仕事でご一緒する機会は無かったのですが、新規事業の担当になったことをお伝えした際に何かご一緒できたらとお声がけさせていただきました。
汐田:具体的に企画のお話をしはじめたのは、2020年の1月くらいからでしたね。いろんな形のサービスを検討していたのですが、その後コロナにより社会が変化したことを受けていまの形になりました。映画館に行けないという状況になり、映画ファンの人たちとオンラインベースでコミュニケーションをとっていくことが大事だなと感じはじめまして…。松竹さんも僕たちも映画を作る会社なので、行けるときには映画館に行ってほしいという想いがあり、オンラインとリアルが上手く両立できるようなサービスを作りたいというところから動き始めました。
――SHAKEの“映画じかんをもっとリッチに。”というコンセプトの着眼点は、どんなところから思い付いたのでしょうか?
汐田:ミニシアターや映画館を巡る議題は、コロナ関係無くこの数年間ずっとあって。配信サービスの広がりや、ミニシアターの数が減ってきているなかで、「なぜミニシアターはあった方が良いのか」ということは以前からすごく考えていました。ミニシアターの良さというのは、画一的ではない番組編成や、劇場の支配人や番組編成の方の個性が出るラインナップなど様々なところにあるのですが、そのうちのひとつにお客さん同士のコミュニケーションというところもあるんですよね。
そのサロン的な役割の部分が、最近webに移行しつつあり、FilmarksやTwitterなどで感想を言い合うことが主流になってきていて。直接やり取りをしたり、向かい合って感想を言い合ったりするような機会が無くなってきていると感じていたので、そのリッチな体験が形を変えてでも再現したいと以前から考えていました。今回立ち上げたSHAKEは、オンラインラウンジという言い方をしているんですけど、オンラインサロンと間違えられることも多くて…(笑)。
――オンラインサロンではなく、オンライン“ラウンジ”であることがこだわりであると。
汐田:そうですね。一般的なオンラインサロンのイメージは、一人のスターがいて、そのスターを中心にしたコミュニケーションだと思うんですけど、そうではなく、ラウンジは場所が全てなんです。映画館のラウンジは本来、映画を観る前後の時間をリッチにするための機能がいろいろ集まっているので、その部分をweb上に再現したら面白いだろうなと思っていました。それがSHAKEのコンセプトでもあります。今、ミニシアター自体が少なくなってきていて、コロナ禍でラウンジの機能も失われつつあるので、そのコミュニケーションがweb上でできれば、また映画館に行ったときに楽しくなるのではないかなと。そういった意味も込めて、「映画時間をもっとリッチに。」という言葉をSHAKEのキャッチコピーにしました。
――なるほど、素敵ですね。八木さんはSHAKEに対してどのような想いがありますか?
八木:今では多くの人が有料の配信サービスに加入し、たくさんの映画を観られる状態になっていますが、折角加入しているのにあまり映画を観ていない人もたくさん居るだろうなと感じていまして。そういう人たちに、月に1本でも映画を観てもらう企画をしていくと、3年後や5年後とかに楽しいことが返ってくる気がしているんです。アメリカで多くの方が多様な作品を観ているのは、もともと有料で作品を観る文化が根付いているからだと言われていますが、いよいよ日本もそういう環境になってきているのではないかなと感じています。
――これまで10数年日本の配信ビジネスに携わってきて、ここ数年の変化で感じていることがあればお聞かせいただきたいです。
八木:今までは、近くに映画館が無い地域に住んでいる方など、映画館以外ではパッケージや、WOWOWさんなどの有料放送で映画を観ている方が多かったと思います。有料放送に関しては、松竹グループにも松竹ブロードキャスティングという放送事業を手掛ける会社がありますし、現在も数々の有料放送チャンネルがありますが、そこに加えてNetflixやAmazonプライムなどの配信サービスに加入した方が増え、映画を観られる環境は増えてきています。映画を観る習慣が大切だと思っているので、映画を観はじめればたくさん観るようになるし、観なくなってしまうとパタッと観なくなる。そのため、配信で映画をたくさん観るようになれば、映画を観ることが習慣となり、映画館に行く方も増えるのではないかとポジティブに考えています。
汐田:配信がきっかけで劇場に足を運ぶようになる機会も十分あり得ると思います。配信でいろんな作品と出会い、好きな俳優や監督が現れて、その人の新作が劇場で公開されるとき、「早く劇場で観たい」というモチベーションにもなるでしょうし。
――SHAKEをリリースしてから数か月経ちましたが、スタートしてみていかがですか?
汐田:実際に僕たちが“こういうサービスにしたい”という想いはありつつも、ユーザーさんがどう利用してくれるのかを見ながらいろいろと調整していきたいと思っています。SHAKEという名前のとおり、まずはいろんな角度から興味を持ってくれる人を探したいと思っていて、これまでもコルクの佐渡島(庸平)さんやHOTEL SHEの龍崎(翔子)さんなど、今まであまり表で映画の話をしていなかったクリエイターの方々をキャスティングして映画のことをお話しいただいています。今まで配信した回も、ゲストによってテーマや内容が異なるので、それぞれ違うリアクションがあって面白かったですね。
八木:そこがSHAKEの面白いところではありつつも、難しいところだなとも思っています。現状だとどうしてもサービス内で発言することに緊張感があり、コミュニケーションをしづらい会員の方も居ると思っていて…。SHAKEは交わっていないところを交わらせていくサービスなので、もう少しみんなで気楽に映画の話ができるようなコミュニティにしたいという想いがあります。ターゲット層を絞った企画をすればもっと盛り上がる話題もあると思うのですが、有料の場で、安心して、好きな映画の話ができることがテーマでもあるので、なるべくジャンルを狭めない形で緊張感をどう緩和していけるかは常に考えています。今後、音声コンテンツなど、新しいツールなども試せるものはどんどん検証していきたいですね。
汐田:音メディアやコンテンツは、映画業界との食い合わせがとても良いと思っているので、僕たちも、テキスト、音声、動画、リアルなどでのコミュニケーション方法は探りながら組み合わせていきたいです。
八木:あと、閉ざされた環境のなかで、少人数だからこそできるコミュニケーションを楽しむための設計も必要だと思っています。1000人で観る楽しさと、少人数で観る楽しさを、僕らが両方打ち出せたらいいのですが、まだそこまではできていないので。世界観を作っていき、もっと映画の話をしやすい環境にしていきたいと考えています。
汐田:規模に応じた最適なコミュニケーションってありますよね。10人だったらLINEグループを作れば良いし、2~3人だったら電話か直接会えばいいですし。今SHAKEは100人くらいの規模ですが、その都度最適なコミュニケーション方法があると思っています。「映画をもっとリッチに楽しむ」というところは守り、方法は随時アップデートしていきたいですね。
――SHAKEのような動きも含め、これからの映画を取り巻く環境はますます変化して多様化していきそうですね。
汐田:少し前に、ユーロスペースさんを中心に立ち上がった「ミニシアタークラブ」や、東風さんの「現代アートハウス入門」のようなイベントなど、オンラインとリアルの場を組み合わせた映画サービスがこの数か月でいくつか出てきているのですが、この動きはもっと戦国時代化していくと感じています。今までやる人が少なかったというだけで、実際には必要なことでしたし、それぞれ試しながらいろいろやっていくフェーズだと思うので。
2020年は配信先行で劇場公開が後という作品や、劇場公開&配信開始が同時という作品もいくつか出てきましたけど、そのパターンはこれからも出てくると思っています。オンラインとリアルな場所を組み合わせて、2時間のコンテンツを一番楽しめる方法をそれぞれでカスタマイズできる時代になっていくでしょうし、僕たちはそのニーズにちゃんと答えられるようなサービスや場所を作っていかなければいけないなと。映画プロデューサーとしても、さまざまな可能性を考えてものづくりをしていくことが大切になってくると考えています。
八木:アニメやゲームなどのコアファンが多いジャンルでは、コロナ以前からネットで盛り上がってリアルで盛り上がり、更にネットで盛り上がるというような形でしたよね。アパレルの方と話をしていても、ファンがついている店舗では、コロナ禍でも店舗とオンラインの導線を整理することで、売り上げをあまり落としていないという例も聞いています。リアルな場所で瞬間的に多くの人と繋がるというよりは、分散させながら長く繋がって盛り上がるポイントを探るという形になると、映画の作り方自体も変わってきてしまうのかもしれません。
汐田:マーケティング的な観点からも同様で、単純に人口が減っているので、一人あたりの単価を上げなければいけなくて、その部分は全ての業界の課題だと思っています。しかし、映画は鑑賞料や月額料という形が通常なので、一度に何十万も使うことが難しいんですよね。その代わり、何回も繰り返し観ていただいたりグッズを買ってもらったりして、LTV(※Life Time Valueの略/顧客生涯価値)を増やしていけるようなサービスを楽しんでいただく必要があるというか…。
――長い間映画館で上映されたり、話題が途切れないタイミングで配信を開始したりと、多様な動き方が重要になってきそうですね。
汐田:宣伝の形も、たくさんの人に観てもらおうということはもちろん、狭くても深く刺さり、一人のお客さんが深く作品のファンになってくれるように考えていくことも必要なんですよね。制作も配給も宣伝も配信も全てに通ずることですが、ただ何回も観てもらうというだけではなく、何回観ても楽しめるように、こちらも工夫していかなければいけないと思っています。
――なるほど。その辺りのことも含め、今後SHAKEはどのような展開を考えていますか?
汐田:オンラインラウンジという機能のなかで出来ることには、限界があるだろうと思っているので、SHAKEで接点をつくり、それをリアルの場に移動していきたいと考えています。今はこのような状況なのでオンライン上で進めていますが、本当はどこかのスペースで開催して、交流会のようなこともやっていきたいです。そうすれば、「何で映画が好きなのか」とか、「こういう映画良いよね」というようなコミュニケーションが活性化し、いろんな価値観がシェイクされていく場所になっていくだろうなと。ゆくゆくは、SHAKEに集まる人たちに向けたオリジナルコンテンツなども作っていきたいと考えています。
八木:現在、HOTEL SHE,さんがコラムの形で「Good Old Cinema」という昔の名作を若い方が観やすくなるようなプロジェクトを行っていて、SHAKEとコラボレーションしたイベントを一緒に企画しています。HOTEL SHE,さんは、ソーシャルホテルというコンセプトで事業を展開しているので、今後ご一緒できることがあるのではないかと考えていますね。
汐田:少なくともローバジェットやミドルバジェットの作品では、特定のコミュニティの人に刺さるということがすごく大切だと思っているので、個人的にはHOTEL SHE,さんのような、素敵なリアル空間をプロデュースされている方々から、学ぶべきことがたくさんある気がしています。映画の完成披露試写会を行うとき、試写室やホールを借りることが多いのですが、そういう試写室やホールって箱にお客さんがついていないんですよね。いずれは、お披露目の場をHOTEL SHE,さんのようなブランディングがしっかりしていて、その価値観が好きというお客さんがいるような場所でやることも考えられるのではないかと思っています。
――ありがとう御座いました!今後の動きも楽しみにしています。
プロフィール
汐田 海平
1987年、鳥取県出身。
Shake,Tokyo株式会社代表。横浜国立大学卒業後、フリーランスとして映画、CM、PRの企画・制作・プロデュースを行う。国内最大級のクラウドファンディングプラットフォーム MOTIONGALLERYと共同でMOTIONGALLERY STUDIOを運営・プロデュース。2016,2017年はぴあフィルムフェスティバルのセレクションメンバーを務める。2020年、経産省の事業に選出され、日本映画の国際化を推進する若手プロデューサーとしてロッテルダム国際映画祭の「Rotterdam Lab」、ベルリン国際映画祭「EUROPEAN FILM MARKET」に派遣される。プロデュース作は『蜃気楼の舟』『西北西』等。釜山国際映画祭、カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭、ミュンヘン国際映画祭に正式出品。最新プロデュース作は『佐々木、イン、マイマイン』。映画とファンをつなぐSNSコミュニティuniを運営中。
八木 健太郎
1981年、東京都出身。2015年松竹株式会社入社。映像本部メディア事業部にて映像配信のライセンス業務の担当を経て、2019年より事業開発本部開発企画部映像企画開発室所属。現在は、映像に関する新規事業の開発を担当。
オンラインラウンジ SHAKE
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cinefil連載【「つくる」ひとたち】
「1つの作品には、こんなにもたくさんの人が関わっているのか」と、映画のエンドロールを見る度に感動しています。映画づくりに関わる人たちに、作品のこと、仕事への想いなど、さまざまなお話を聞いていきます。
edit&text:矢部紗耶香(Yabe Sayaka)
1986年生まれ、山梨県出身。
雑貨屋、WEB広告、音楽会社、映画会社を経て、現在は編集・取材・企画・宣伝など。様々な映画祭、イベント、上映会などの宣伝・パブリシティなども行っている。また、映画を生かし続ける仕組みづくりの「Sustainable Cinema」というコミュニティや、「観る音楽、聴く映画」という音楽好きと映画好きが同じ空間で楽しめるイベントも主催している。