『婚前特急』(11)や『わたしのハワイの歩きかた』(14)などの前田弘二監督と脚本の高田亮さんコンビによる、テンポの良いラブコメ映画『まともじゃないのは君も一緒』が3月19日(金)より公開となります。主演は成田凌さんと清原果耶さん。今回は、前田弘二監督と、小池賢太郎プロデューサーに、企画の成り立ちや本作のテーマ、お芝居の温度感や音楽などについてお話をお聞きしました。

--『まともじゃないのは君も一緒』(以下、『まときみ』)とても面白かったです。まず、本作が生まれた経緯からお聞かせいただけますか?

小池賢太郎(以下、小池):あまり複雑なことではなく、「面白いものを作る」というすごく単純なことから話がはじまりました。

--そうだったのですね。いつくらいから動きはじめたのでしょうか?

前田弘二(以下、前田):3年前くらいです。小池さんから、「ちょっと楽しいコメディのようなものをできないかな」というお話をいただきまして。そこから、脚本家の高田さんと何度もやり取りをして、自由な感じのオリジナル作品を一緒にやってみようか、という形でスタートしました。

小池:当時、キュンキュンもののラブコメ作品が全盛期の頃でしたが、そういう作品とはまた少し違うアプローチで若い子向けの作品ができないか、という話をしていました。そうしてお二人から上がって来た脚本が、とても面白かったんですよ(笑)。前田・高田コンビらしい作品になっていましたし。

前田:最初は高田さんと「普通がわからない予備校講師と、普通を教える教え子という設定だけ作って、最後までノンストップで、延々と噛み合わない会話を繰り広げることを映画でできないかな?と話ながら進めていきました。以前も自主映画で、目的を見失っていくような短編作品をよく作っていたので。

画像: 左より前田弘二監督、プロデューサー小池賢太郎氏

左より前田弘二監督、プロデューサー小池賢太郎氏

--設定が思いついてからは、脚本づくりはスムーズに進んでいきましたか?

前田:噛み合わない会話を延々書き続けなければいけなかったので、今までで一番時間がかかりましたね(笑)。しかも、関係性を変えながら目的が変化しつつ、アドリブ的に展開しながらも、「これ、何の話になっていくんだろう?」という感じも残したかったので。簡単なプロットを作らずに、いきなり脚本に近い形のロングプロットを書いて、そこでやっと答えが見つかったんです。

小池:そのロングプロットがすごく面白かったんです。しかも打ち出しが新しいと思って。

前田:ちょっと独特の味わいがあったんですよね。

--どのように独特だったのでしょうか?

前田:爽やかでパンクな匂いがして、気持ちがよかったんです。今って情報が多すぎて、何が正しいことかわからなかったり、間違えることができない感じがあったり、大多数の正論のようなものを求めてしまうところに若干ストレスを感じることがあって…。でも、その“普通”が何もわからない大野と香住の関係を通して出した答えのなかに、スカッとするものがあったんです。いつも脚本は変更していくことが多いのですが、今回はあまり変えない方がいいなと思って、はじめのロングプロットからほぼ何も変わっていません(笑)。

--えええ!それはすごいですね。

小池:はじめのロングプロットから、完成度がすごく高かったんです。今の世の中に起こっていることを、すごく面白く表現しているなと思いました。

前田:本来ならば、この人はこういう人で、こういうことがあります、という形で物語が始まることが多いじゃないですか。でも『まときみ』は、「この人たち何者!?」というところから始まって、物語が展開していくんです。盛り上げるために教えなければならない説明的なシーンを入れるよりも、噛み合わない会話を二人が最後までノンストップで繰り広げていく。この98分の痛快さを、映画で体感できないかなと。

小池:言っていることと行動が違うことが多いので、なかなか心情を読むのが難しいところもありますが、二人の転がっていく会話だけでも十分楽しめる映画になっていると思います。

画像: 小池賢太郎プロデューサー

小池賢太郎プロデューサー

--成田凌さんと清原果耶さんの掛け合い、本当に見事でした。キャスティングについてもお聞きしたいです。

前田:成田さんと清原さんという並びでこの映画の掛け合いを想像したら、すごく面白くなりそうだと直感で思ったんです。成田さんは「大野が見える…」と、演じている姿が想像できましたし、清原さんは、小池さんがプロデュースした『愛唄-約束のナクヒト-』(19)という映画を試写で拝見したときに、すごくいいなと思って。

--前田監督のなかで、お芝居のポイントのようなものはあったのでしょうか?

前田:この映画はどういう面白さがあるんだっけ、というような芝居としてのリズムを掴むのが一番難しいかもしれないと思っていました。脚本もセリフも面白いけれど、声に出して芝居をしたときに成立するのかなと。芝居のアプローチも、熱量が高いとちょっと重たくなってしまうし、温度を低くして生々しくなってしまうと、この作品のトーンに合わなくなってしまう。ちょっと浮いているけれど自然体で、この二人だからこそ出せるリズムや空気感のようなものがこの映画のテンポだし、それが答えだと思って突き進んでいきました。

軽快な会話を繰り広げながらも内側ではいろんなことが渦巻いているので、そこにのりやすいアプローチは、役者さんたちが自ら作り出したところもあります。笑い方1つでも、「こういう笑い方した方が良いよね」とか、無理なくできる範囲で話し合いながら進めていました。僕はいろんな映画が好きだし、いろんな芝居が好きなので、この作品にとって一番いい形の芝居であればいいなと。

画像1: ©2020「まともじゃないのは君も一緒」製作委員会

©2020「まともじゃないのは君も一緒」製作委員会

--二人の軽快な会話の裏で動いている、内側の変化も見どころでしたよね。

小池:知っている振りをしていることを自分でも何となくわかっている、というような若いときのああいう感じってありますよね(笑)。僕はもう大人だけれど、気持ちと行動が離れて違うことをしてしまう、という心情が映画を見ていてすごくわかりました。清原さんの芝居も難しかっただろうなと思います。

前田:清原さんは脚本を読み込んで、落とし込んだ上で演じていくタイプの方だったので、最初に“香住はどういう人か”ということを結構ディスカッションしました。お二人とも芝居がうまいから、あまりやりすぎてしまうと漫才のようになってしまう気がしたので、段取りはなるべく少な目にしていましたね。本番でも、温まる前の状態で撮影しようと思っていたので、わりと一発OKが多かったです(笑)。

小池:撮影は早かったですね(笑)。監督自身、テンポがすごく良い方なので、その感じが撮影にも表れていました。

--テンポが良くセリフも多い作品でしたが、今作は音楽がとても作品を彩っていたように感じます。音楽で意識されたところがあれば教えていただきたいです。

前田:脚本を読んだとき、音楽はどうしようって思ったんです(笑)。

小池:こんなにセリフが多いと、どこに音楽入れるんだみたいな感じで(笑)。

前田:音楽家の関口(シンゴ)さんとは結構話し合いを重ね、エッセンス的なものを共有しながら、音楽を作り上げていただきました。ダニー・ボイル監督の『スティーブ・ジョブズ』(15)のテクノっぽい音楽や、ジョン・ヒューズ監督の『大災難P.T.A.』(87)のアメリカ民謡的な行進曲のような音楽を参考に、テーマ曲を作っていただきました。

小池:主題歌のTHE CHARM PARKさんの「君と僕のうた」も良かったですよね。まさにあの二人のことを言い当てているような。

前田:そうですね。あと今回、劇伴の関口さんと主題歌のTHE CHARM PARKさんが、「映画を通して、最後ここに繋がると良いよね」ってお二人で話合ってくれていて。僕はそのことを後日聞いて、通常劇伴と主題歌はそれぞれ別れて進めていくことが多いので、劇伴から主題歌までちゃんと繋がっていることがすごく嬉しかったですし、映画としてもありがたいなと思いました。

画像: 前田弘二監督

前田弘二監督

--オリジナルの企画が少なくなっているなか、『まときみ』は映画の新たな可能性を感じる作品だと感じました。作っていく際、この新感覚さは意識されていたのでしょうか?

前田:しっかりと人物とドラマを描いている面白い作品はいっぱいあるのですが、今回120分ではなく90分を選んだのは、90分だったら突っ走れると思ったからなんです。そうじゃないと他の映画やドラマと差別化は図れないなというところもありましたし。「この映画でしか味わえないものを作ろう」と思って進めて、みなさんがそこに乗ってくれたことがすごく有り難かったですね。

小池:ハッキリ言ってしまうと、プロデューサーとしては作り易くはない映画でした(笑)。でも、“普通”というこの作品のテーマは今の時代感とあっていますし、エンタメ性があって、哲学的なところが沁み込んでいる。すごく新しい作品ができたと思っています。

--現時点で、これからチャレンジしてみたい作品の構想や題材はありますか?

前田:今回久し振りにバディものを撮ってみて、またこういう二人の作品を撮ってみたいなと思いました。映画って、120分なら120分の、90分なら90分の、それぞれの時間でいろんな体験ができますし、もっといろんな遊びができると思っているので、またちょっと違った二人のお話をオリジナルで撮りたいですね。

小池:テンポが良くて面白いけど、ちょっとジワっとくるような。こういう作品がまた出来たらいいですよね。

画像: 左より小池賢太郎プロデューサー、前田弘二監督

左より小池賢太郎プロデューサー、前田弘二監督

プロフィール

前田 弘二
1978年⽣まれ。⿅児島県出⾝。テアトル新宿でアルバイトをする傍ら、⾃主映画を制作。『古奈⼦は男選びが悪い』が第10回⽔⼾短編映像祭でグランプリを受賞。2011年に公開した『婚前特急』で⾼い評価を受け、第33回ヨコハマ映画祭新⼈監督賞など数々の新⼈監督賞を受賞。主な監督作品に『わたしのハワイの歩きかた』(14)、『夫婦フーフー⽇記』(15)、『セーラー服と機関銃-卒業-』(16)。配信では2018年に、川⼝春奈主演のAmazonプライムオリジナルドラマ「しろときいろ」がある。

小池 賢太郎
1968年東京生まれ。ジョーカーフィルムズ株式会社代表取締役プロデューサー。主にプロデューサーとして、携わった映画に滝田洋二郎監督作品『釣キチ三平』(09)、オリジナル映画として、是枝裕和監督作品『奇跡』(11)、本木克英監督作品『すべては君に逢えたから』(13)、前田弘二監督作品『わたしのハワイの歩きかた』(14)、兼重淳監督作品『キセキーあの日のソビトー』(17)などがある。

画像2: ©2020「まともじゃないのは君も一緒」製作委員会

©2020「まともじゃないのは君も一緒」製作委員会

映画『まともじゃないのは君も一緒』
2021年3月19日(金)より全国ロードショー

©2020「まともじゃないのは君も一緒」製作委員会

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cinefil 連載【「つくる」ひとたち】
「1つの作品には、こんなにもたくさんの人が関わっているのか」と、映画のエンドロールを見る度に感動しています。映画づくりに関わる人たちに、作品のこと、仕事への想い、記憶に残るエピソードなど、さまざまなお話を聞いていきます。

edit&text:矢部紗耶香(Yabe Sayaka)
1986年生まれ、山梨県出身。
雑貨屋、WEB広告、音楽会社、映画会社を経て、現在は編集・取材・企画・宣伝など。様々な映画祭、イベント、上映会などの宣伝・パブリシティなども行っている。また、映画を生かし続ける仕組みづくりの「Sustainable Cinema」というコミュニティや、「観る音楽、聴く映画」という音楽好きと映画好きが同じ空間で楽しめるイベントも主催している。

photo:浅野耕平(Kohe Asano)

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