ワアド・アルカティーブ、エドワード・ワッツ監督『娘は戦場で生まれた』が2/29(土)より公開となりました。
その公開を記念して満席の中、ワアド・アルカティーブ監督のスカイプによるQ&Aを行われました。

画像: ワアド・アルカティーブ監督

ワアド・アルカティーブ監督

【映画『娘は戦場で生まれた』公開初日
ワアド・アルカティーブ監督スカイプQ&A
2/29(土)シアター・イメージフォーラムにて】

2/29(土)映画『娘は戦場で生まれた』の公開初日にトルコに滞在しているワアド・アルカティーブ監督とスカイプによるQ&Aイベントが開催された。満席のなか、観客からはシリアやシリア問題、監督の思いなど熱い質疑が相次いだ。

Q:監督から日本の観客へのメッセージをお願いします。

ワアド監督(以下W):来ていただいてありがとうございます。日本で上映されること本当に嬉しく思っています。シリアやシリアの問題に関心を持っていただけることも嬉しく思っています。

画像1: 【映画『娘は戦場で生まれた』公開初日 ワアド・アルカティーブ監督スカイプQ&A 2/29(土)シアター・イメージフォーラムにて】

Q:シリアの状況がさらに厳しくなっているいま、私たちはどういうアクションを起こしたらいいでしょうか?

W:残念ながらいまのシリアはひどい状況です。つい3日前もトルコ政府が介入してアサド政権とロシアをまとめようとしましたが、イドリブで33人のトルコ兵が亡くなったということもありました。シリアもいまだに爆撃、空爆が続いています。私たちはそれを見ることしかできません。世界のリーダー達や政治家が会っているとはいっても何が起きているか状況を知ることはできません。昨日もギリシャとの国境地帯で300人以上の方が難民として入国を待っているという状況がありました。私たちが立ち上げた「Action for Sama」というキャンペーンがあります。この活動を通してシリアにいる人々に支援をしていただくというものです。各政府に説明責任を問うていきたい、そういうものです。いま難民でいる人たち、国外にいるシリア人はまさに3年前の私たちそのものです。
350万人以上のシリア人が困難な状況にあることを知ってもらいたいのです。

画像1: ©Channel 4 Television Corporation MMXIX

©Channel 4 Television Corporation MMXIX

Q:これまでの戦争映画やシリア問題を扱った作品と視点が違って、女性の日常の視点から描いていて、生きることの喜びも表現されていると思いますが?

W:女性の視点、それが果たしていいことだったのかどうか私にはわかりません。元々、カメラを回し始めたとき明確にこれを映画に、と思っていたわけではありません。とにかく24時間、周りで起きていることを記録したいという思いでした。ですから誰の視点でということは全く考えていませんでした。ただただ自分が女性として妻として母として、その状況のなかで生きている様を捉えていきたいと思っていました。例えば自分の妊娠がわかったことも、妊娠がわかった後にカメラを手にして回す、そういう風にはしたくなかった。実際にアレッポに戻って妊娠がわかったその瞬間をカメラに収めたかった。他の場面も同じ気持ちで、いつでも自分たちが殺されてしまうかもしれないという気持ちがあったからこそ、ひとりの女性であることが、時にはフィルムメーカーであることが周りのものに対しての深い感じ方を与えてくれたのだと思います。国外に脱出して初めてフィルムメーカーとして、何をどう伝えたいのかということを考え始めました。もちろんそこに女性の視点があるということを自覚してはいました。子供ができたこと、またはパートナーの存在など自分の体験を通して映画を作りたいと考えました。

Q:「Action for Sama」に込めた思いを聞かせてください。

W:このキャンペーンを通じてアサド大統領が国外に追放されればと思っていますし、少なくともアサドに対して説明責任を問うという状況になって欲しいと思っています。またシリアのいまの現状を皆さんに認知していただきたい、認知度を高めたい気持ちもあります。またシリアを報道するジャーナリストがこれまで「シリア内戦」と書かれることが多いんですね。でもこれは内戦ではありません。「シリア革命」や「シリア紛争」というように表現を変えていただきたい、これもこのキャンペーンを通じて訴えていることのひとつです。いま時代は2020年。世界中が人々個人の自由や尊厳を尊重しているはずの世界で、シリア市民が求めているのはまさにそれで、自由と尊厳、より良い生活状況。なのに政府はそれに応えないばかりか、人々を殺している。これは2020年の世界にはあってはいけないことだと考えています。

画像2: ©Channel 4 Television Corporation MMXIX

©Channel 4 Television Corporation MMXIX

Q:シリアの現状が変わるような動きがあるのでしょうか?

ここ6ヶ月くらい、いろいろな政治家に会ったりイギリスの国会に近いところやアメリカの議会に行ったり、トルコのドイツ大使館では来週試写が行われます。政治的な判断ができるポストにある方にどんどん話しをしていくこと。そこから何かが変わるのか、期待は持ち過ぎないようにしようと思っています。シリアに対する見方が変わっていくかもしれないと思って活動しています。結果はあまり考えずに、この物語はたくさんの人に知って貰わなければならない、そういう希望を持って、それが変化に繋がればと思っています。

Q:アレッポを出た後はどうなったのでしょうか?

W:政府がコントロールしているエリアから安全圏に移動しイドリブに行ったのですが、このイドリブはまさに今、当時のアレッポのような状況に置かれています。350万人の一般市民が、私たちが当時置かれていたようなとても厳しい状況にあります。そのイドリブに2週間ほど滞在し、夫のハムザが医者なので医療関係の許可証のようなものを持って幸運なことに家族と共にトルコに入ることができました。トルコにはハムザの家族がいました。そこでパスポートの期限が切れそうになったので、当時すでに映画の編集が始まっていたイギリスに移動し、今はイギリスで過ごしています。

画像2: 【映画『娘は戦場で生まれた』公開初日 ワアド・アルカティーブ監督スカイプQ&A 2/29(土)シアター・イメージフォーラムにて】

Q:最後に一言メッセージを。

W:この映画が日本で見ていただけることが本当に嬉しいですし、この世界は大きくて私たちだけでできることは限られています。この映画で1時間半、シリアやアレッポの状況を体感し、そこに身を置いていただいたと思います。この作品のことをたくさんの方に伝えていただいて多くの方に見ていただければと思います。それだけ私たちは皆さんの力を必要としているのです。私たちシリア市民は苦しみ続けていますので、それが終焉を迎えるようにお力添えを頂けたらと思います。

『娘は戦場で生まれた』予告

画像: カンヌ国際映画祭ほかすでに55を超える映画賞を受賞-『娘は戦場で生まれた』予告 youtu.be

カンヌ国際映画祭ほかすでに55を超える映画賞を受賞-『娘は戦場で生まれた』予告

youtu.be

母は銃のかわりにカメラを手にとった

 いまだ解決をみない未曽有の戦地シリア。ジャーナリストに憬れる学生ワアドは、デモ運動への参加をきっかけにスマホでの撮影を始める。しかし、平和を願う彼女の想いとは裏腹に、内戦は激化の一途を辿り、独裁政権により美しかった都市は破壊されていく。そんな中、ワアドは医師を目指す若者ハムザと出会う。彼は仲間たちと廃墟の中に病院を設け、日々繰り返される空爆の犠牲者の治療にあたっていたが、多くは血まみれの床の上で命を落としていく。非情な世界の中で、ふたりは夫婦となり、彼らの間に新しい命が誕生する。彼女は自由と平和への願いを込めて、“空”を意味する“サマ”と名付けられた。幸せもつかの間、政府側の攻撃は激しさを増していき、ハムザの病院は街で最後の医療機関となる。明日をも知れぬ身で母となったワアドは家族や愛すべき人々の生きた証を映像として残すことを心に誓うのだった。すべては娘のために…。
2019年カンヌ国際映画祭最優秀ドキュメンタリー賞ほか55(2019年12月19日現在)を超える映画賞を受賞。マイケル・ムーア監督ら世界の映画人を衝撃と感動の渦に巻き込み、本年度アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞にノミネートされた、傑作ドキュメンタリー映画!

【監督】ワアド・アルカティーブ、エドワード・ワッツ
【出演】ワアド・アルカティーブ、サマ・アルカティーブ、ハムザ・アルカティーブほか

2019年/イギリス、シリア/アラビア語/100分/英題:FOR SAMA/日本語字幕:岩辺いずみ/字幕監修:ナジーブ・エルカシュ/G区分

【配給】トランスフォーマー
©Channel 4 Television Corporation MMXIX

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シアター・イメージフォーラムにて大ヒット上映中ほか全国順次ロードショー!

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