東京藝術大学大学院映画専攻の西川達郎が監督した長編第一作で、12期終了作品に当たる。父の若い愛人宅に同居することになった高校二年生男子の夏の日々を描くちょっと変わった青春映画。
完成は18年で、すでに各地の映画祭で上映され、さまざまな賞を受賞し、今回商業公開されることになった。

画像1: (C)東京藝術大学大学院映像研究科

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 父に喫茶店まで呼び出された森田萩。「とうさんにはもう一つの家があるんだ。そこに愛人が住んでいる」と思いもよらぬ不倫を告白されたうえ、あろうことか相手の女性に別れ話をしてくれと頼む。我が家は円満、理想の家族と信じ切っている母親だから、母と姉には絶対に内緒だ。真面目タイプの父の相手は向井瞳子といって、妖艶でも、魔性の女でもなく、普通のお嬢さんタイプ、淑やかだが芯があり、それでいて人懐っこい。萩が海岸で会った釣りが趣味のおじさんも気さくに釣果を届けに来る。瞳子のために借りていた一軒家そこからの眺めが抜群の賃貸契約が切れるのをきっかけに家を出て別れてくれと、父の伝言を伝えたら、「出ていかない」と一言。

 学校は夏休みなので、母親には父の会社で特別にインターンを受けていることにして、向こうの家で瞳子さんと同居して様子を見ることになる。自転車に乗れない萩は瞳子さんちの庭で自転車の練習をしたり、食事の材料を買いに行く瞳子さんについていったりと、まるで姉弟のような関係を続ける。やがて、気が変わった瞳子さんは出ていくことにし、二人で荷物の整理を始めることに。

画像2: (C)東京藝術大学大学院映像研究科

(C)東京藝術大学大学院映像研究科

 普通男女が同居すると“一夏の情事”的なストーリー展開になるものだが、瞳子のすっとぼけたキャラクターが抜群で、さわやかな付き合いが続く。
萩とだけでなく、そもそも父親とも性的関係があったとは思えない感じがして、ドロドロ、ベタベタとは無縁の爽快さが横溢。ユニークな人間関係が面白く、脇を支えるおじさん、同級生、姉貴、父母らの描写もしっかりしている。
技術的にはプロ並みの才腕を見せ、小品ながら、ちゃんとしたストーリー世界を構築している演出力も称賛に値する。

売り出し中の若手俳優望月歩7月公開の「五億円のじんせい」もよかったを萩に起用したことも成功に大きく寄与。「娼年」で大胆なヌードを披露した大谷麻衣が打って変わってノンシャランな女性に扮し、画面を締めているのも忘れられない。父に生津徹、おじさんにでんでん、母に南久松真奈、姉芽衣に円井わんが扮している。脚本は川原杏奈、撮影は称津尚輝、音楽は大橋征人が担当。

画像3: (C)東京藝術大学大学院映像研究科

(C)東京藝術大学大学院映像研究科

試写終了後に西川達郎監督と話をしたが、いかにも新人らしい初々しさと丁寧な物腰が印象的だった。在学中は黒沢清、諏訪敦彦に師事。以前、当講座で紹介した「わたしたちの家」の清原惟監督の一年後輩にあたるとのことで、題名が家つながりになっているのも面白い。後日、メールでいくつか質問をし、答えてもらったので紹介しよう。

Q 東京藝大での映画教育について、教えてください。
A 藝大ではどちらかというと実践的な映画制作を学ぶのがメインになります。
2年間で短編2本、修了制作1本の計3本の制作をします。プリプロ、撮影期間、ポスプロと制作をしている合間に、映画史を網羅した授業というより、各専門領域の講義、作品作家研究の講義、海外から講師を呼んだ特別講義などを行っています。

Q 「向こうの家」の製作状況について。
A 撮影時期は2017年の9月末?10月頭になります。期間は撮休込みで12日間ほど。プリプロに1ヶ月?1ヶ月半ほど(企画脚本は3ヶ月ほど)ポスポロは2?3ヶ月程となります。キャスティングは、主演の望月くんは事務所さんからの推薦で、他のキャストは皆こちらからのオファーとなります。

Q 今後、どういう道を歩かれるのですか。
A 明確には決まっておりませんが、いずれにせよ映画を作る事を続けていきます。

北島明弘
長崎県佐世保市生まれ。大学ではジャーナリズムを専攻し、1974年から十五年間、映画雑誌「キネマ旬報」や映画書籍の編集に携わる。以後、さまざまな雑誌や書籍に執筆。
著書に「世界SF映画全史」(愛育社)、「世界ミステリー映画大全」(愛育社)、「アメリカ映画100年帝国」(近代映画社)、訳書に「フレッド・ジンネマン自伝」(キネマ旬報社)などがある。

『向こうの家』(西川達郎監督)予告編

画像: 『向こうの家』(西川達郎監督)予告編 youtu.be

『向こうの家』(西川達郎監督)予告編

youtu.be

STORY
 自分の家庭は幸せだ、と思っていた高校二年生の森田萩。しかし父親の芳郎にはもう一つの家があった。「萩に手伝ってもらわなきゃいけないことがある」芳郎の頼みで、萩は父親が不倫相手の向井瞳子と別れるのを手伝うことに。自分の家と瞳子さんの家、二つの家を行き来するようになった萩は段々と大人の事情に気づいていく……。

監督・原案:西川達郎
プロデューサー:関口海音
脚本:川原杏奈|撮影:祢津尚輝|照明:小海祈|美術:古屋ひな子|サウンドデザイン:三好悠介|編集:王晶晶|音楽:大橋征人

出演:望月歩 大谷麻衣 生津徹 南久松真奈 円井わん 植田まひる 小日向星一 でんでん

2018年/82分/アメリカンビスタ/5.1ch/カラー/DCP
製作:東京藝術大学大学院映像研究科

イオンシネマむさし村山、以降各イオンシネマ。
10月25日〜10月31日

上田映劇
11月10日〜11月15日

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