わたしと誕生日が一緒ということもあり、勝手に親近感を持っている今村昌平監督。
唯一カンヌで二度グランプリを受賞したことのある日本人監督でもあります。
この「にあんちゃん」で私は長門裕之さんを知ることになるのですが、当時25歳くらいの長門さんがめちゃくちゃかっこいいんです。どタイプです。
今村監督の初期の作品で、文部大臣賞を受賞したこの作品。
監督本人は健全な映画を撮ったことに反省したと言いますが、懸命に生きる貧しい兄弟や炭鉱の町が繕う事なくリアルに描かれていて私は大好きな作品です。

※本文にはネタバレも含みますのでご注意ください。

あらすじ
物語の舞台は昭和28年の長崎県・鶴ノ鼻炭鉱。炭鉱では不景気で賃金も下がりストライキが頻繁に起きていた。
そんな中、安本家は一家の大黒柱であった父を亡くし葬式の最中であった。残された四人兄弟。
姉の良子は口減らしの為に近くに住む坂田家に住み込みで働きに出ることに。坂田家のばあさんは近隣に金を貸したり、良子を長崎の旅館へ売り飛ばそうと企んだりしているやり手である。
兄は臨時雇いで炭鉱で働いていたが、炭鉱の不景気が悪化しクビになる。そして坂田家から追い出された良子と一緒に長崎へ働きに出る喜一。
残された弟の高一と妹の末子は安本の父の友達であった面倒見の良い辺見の家へ預けられることになる。
安本家と同じ在日朝鮮人の金山や、小学校の先生、保健師さん、色んな人に支えられ、時には小言を言われたりしながら懸命に生きる兄弟たちであったが−。

その1【心も身体もデカイおやっさん】・・・殿山泰司さん

私が観る映画にだいたい出てくると言っても過言ではないくらい、多くの作品に出演されているこのお方。
今作のようにザ・親父役から、時には中国人役まで幅広い役柄を演じられています。
亡くなった安本家の父とは友達で、兄弟たちの事を気にかけ喜一(長門裕之さん)を正社員にしろと上司に説得したり、行くあての亡くなった弟と妹を引き取ったりと人情味の熱いおやっさんです。
恰幅のいい体型(特にでっぷりしたおなか)がとってもいい。
無愛想な感じからより一層、心根の優しさがにじみ出ていてジーンとくるんですよねぇ。
喜一がクビになった時も上司に言われて仕方なく紹介状を持ってきたと言いますが、本当は上司に無理言って頼んでもらってきたんだろうなーって経緯を思い浮かべてしまう。
兄弟喧嘩を止めるために弟の顔をベロベロ舐めちゃうのが最高にチャーミング。
一瞬で喧嘩がおさまります。笑
これは脚本に書かれているのか、本人のアドリブなのか、、
その一つの行動でおやっさんのこと好きになるし、関係性も分かるし、ほんのちょっとの行動がとても大きな効果を生むものです。

その2【マジで現地に住んでる人でしょ?】・・・北林谷榮さん

おばあちゃん役と言えばこの人、北林谷榮さん。
マジで役者さんなのか?そこらへんにいるおばあちゃん捕まえて映画に出てもらっているんじゃないか?と思うほどリアルな人物を演じられている。
近隣の人たちにお金を貸していたり、姉の良子を長崎の旅館に売ろうとしたり、かなりやり手でがめつい感じのばあさんです。
本能や感情をむき出しにして生きていて、怖いもの知らず。
安本の親父さんが亡くなった時には受付をしながらも、お布施から「親父に貸していた分」と言って自分の懐に入れてしまいます。
私は初めてこの映画を見た時にびっくりしました。
こんな非情なやつっているのか!と。
そして棺桶が出てきたら「アイゴー」と言って泣き真似をし”悲しんでますよ”アピールをするばあさん。
この冒頭のシーンで一瞬にしてキャラクターがわかります。
良子を長崎の旅館に売ろうとしたのを聞きつけた保健婦の堀さんは、ばあさんの家に行って人身売買の疑いがあると言って半ば脅しをかけ、良子を家で雇ってくれるように話をつけます。
そこでばあさんは”人身売買”という言葉にビビり、泣く泣く良子を雇うことに承諾してしまう。
この一連の出来事でばあさんも可愛いところもあるやんってなるんですよねー。
完全悪にしないポジショニングが良い。
そしていろんな人に金貸したり、町内を牛耳っているからばあさんを通して町の全体を知ることができる。

その3【ひょろっとしたスーパーマン】・・・穂積隆信さん

弟の高一と妹の末子が通う小学校の先生役の穂積隆信さん。
ひょろっとした外見でいつもへらへらしている先生。
でも、とっても頼りになる。
末子が教科書が買えなくて仮病を使って学校を休んでいるのを察知して、教科書を持ってきてあげたり。←子供にとっては最高の先生よね。
あからさまに正義感強めの”いい先生”って感じではなくて、飄々として何も考えてなさように見えてここぞと言う時に手を貸してくれるのがナチュラルでいいなーって。
末子が遠足で唐津に行った時、勤めに出ているお姉ちゃんに会いに行く末子に”これで姉ちゃんとなんか食べろ”ってお金を持たせてやったり、高一が東京から一瞬で帰ってきた時にも”お前は頭もいいし、これからどんなこともできる。焦る事ない”ってさらりといい事を言ってくれたり。
このさらっと感って難しと思うのですよ。
いい事をいい事言ってる風に言うのは簡単だけど、さらっと言うからこそ臭くならないと言うか。
こんな先生がいてくれたらきっと高一も末子も貧しさに負けずにしっかり勉強して、いい未来を築いていこうと思えるんじゃないかと思う。
最後に高一が”今はこんな暮らしだけど、頑張っていい未来がきっとくる”って言えるのも先生の力もものすごくあると思うのです。
へらへら感が間抜けすぎず、ふっと心が和む存在でした。

この映画は「にあんちゃん十才の少女の日記」と言うタイトルで安本末子さんという方が書かれた本が原作になっています。
なので映画も妹・末子目線で描かれております。
途中、弟の高一目線にもなるのでやはり先生の影響力ば絶大。
小さい頃に大人から言われた何気ない一言ってすごく心に残ったりしますよね。
だから先生の要所要所の言葉や行動は本当に良い影響を末子と高一に与えてくれていると思う。
それをああいうキャラクターに設定をするというセンスが素晴らしい。
役者本人がそうしたのか、監督の要望なのか、得られる効果っていうのを計算して、そこから作り上げていくのがプロの仕事なんだなと思いました。
あの頃のしかも炭鉱という町は特にかもしれないけど、人々の近さが良いなと。
嫌なことは嫌っていうし、困ってたら自分を犠牲にしても助けるし。
演芸大会でみんなで炭坑節を歌うところとか、胸にジーンとくる。
一体感、グルーブ感が最高に好きです。
出演者みんながそこに生きていて、まるでドキュメンタリーを観ているみたい。
安本家は在日朝鮮人で、その炭鉱の街にはそういう人が多く、偏見を持たれたり会社では差別されて先にクビを切られたりしている。
そういうことも映画には描かれているけど、ただ前向きに力強く生きている、そんな姿がかっこいい。
そして末子や高一はとても純粋に”家族みんなで暮す”ってことに幸せを感じ、執着している。
この映画は何かが解決するわけではないけれど、この先の兄弟の未来はきっと明るいと思える。
私も希望を持って力強く生きていかなきゃなって気持ちになれるんです。

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椿弓里奈(つばきゆりな)
1988年生まれ、京都府出身。大阪芸術大学短期大学部卒業後上京し、役者として活動。
主な出演作に【映画】「64-ロクヨン-」瀬々敬久監督、「PとJK」廣木隆一監督【TV】「でぶせん」日本テレビ・Hulu、「きのう何食べた?」テレビ東京【CM】大塚製薬「ネイチャーメイド」など。
昨年同い年の役者で立ち上げた”889FILM”ではyoutubeにてショートムービーなどの動画配信中。
所属事務所HP⇒http://www.jfct.co.jp/b_tsubaki.html Twitterアカウント⇒@bakiey

『にあんちゃん』予告

画像: Bande-annonce : Mon deuxième Frère de Shohei Imamura youtu.be

Bande-annonce : Mon deuxième Frère de Shohei Imamura

youtu.be

監督:今村昌平
脚本:今村昌平、池田一朗
原作:安本末子
企画:坂上静翁
撮影:姫田真佐久
音楽:黛敏郎
美術:中村公彦
照明:岩木保夫
録音:橋本文雄
編集:丹治睦夫
助監督:浦山桐郎

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