北極海に消えた祖父を探し求める少女の冒険の旅をユニークな描法で描いた長編2Dアニメーション。古代エジプトの壁画のようなフラットなキャラクター・デザインに、最初は戸惑い、奇異な印象を受けるが、しだいに慣れていき、画面に引き込まれていく。ル・モンド紙は「ジュール・ヴェルヌの冒険譚を読む時の至福の時間のようであった」と評しているが、まさに19世紀らしい温かみを感じさせ、ヴェルヌの作品世界を彷彿とさせる“揺ぎ無い信念を持った元気な女の子の冒険物語”であった。
2015年にフランスで公開され、アヌシー国際アニメーション映画祭でレミ・シャイエが監督賞、東京アニメアワードフェスティバルで作品がグランプリを得ている。後者の上映会に高畑勲監督が登壇し、「女の子が頑張る姿を追いかけ、それに応じて周りの人たちが変わっていったり、状況が好転しながら、最後には目的を達成する。ただそれだけの話といえばそうですが、この単純さがすごく大事です。見ていて気持ちがよかった」と述べている。
19世紀のロシア、サンクトペテルブルグ。オルキン大尉が一年前に北極点征服に出掛けたまま消息を絶ち、捜索活動でも杳として行方が分からなかった。彼の名前を冠するはずだった科学アカデミー図書館も開館が危ぶまれている。14歳の孫娘サーシャは祖父の航路メモを見つけ、皇帝の甥トムスキーに再捜索を懇願するも、はねつけられてしまい、父からは叱責される。だが、大好きな祖父の生存を信じる彼女は、家を飛び出し、列車に乗って港までたどり着く。祖父の乗ったダバイ号を見つけるため、貨物船ノルゲ号に乗せてもらうことになった。ノルゲ号は氷原に閉じ込められたり、船長が負傷したりとさまざまな苦難に遭遇するが、サーシャは決して諦めようとはしなかった。
名門意識の強い貴族の父、ノルゲ号の厳しいルンド船長と、だらしない弟のラルソン操舵手、見習い水夫カッチ、人情味のある食堂の女将オルガ……、サーシャを囲むヴァラエティにとんだ人々。派手なアクションがあるわけではないが、それでも極寒の地における捜索行は困難の連続であり、サーシャの熱意よりも自分たちの安全を思う船員たちとのせめぎ合いといった緊迫感もあって、見ていてあきない。
脚本家クレール・パオレッティが発案し、2005年から脚本執筆をはじめ、レミ・シャイエと出会う。イギリスの探検家アーネスト・シャックルトンの航海日誌を読んだばかりのシャイエは、企画に興味を示して共同でストーリーを練り上げていった。その後、別の脚本家が加わり、08年から製作資金調達が始まり、12年に3分のパイロット・ムービーを仕上げ、これがきっかけで資金調達のめどが立った。13年にデンマークのスタジオが参加したことからフランスとデンマークの合作となり、およそ600万ユーロ(7億2000万円)の製作費をかけて完成。吹き替えは映像が書かれる前に行われ、俳優たちは役やシーンを想像しながら台詞を録音。また船の場面に必要なサウンドは帆船ルクーフランス号で収録された。
北島明弘
長崎県佐世保市生まれ。大学ではジャーナリズムを専攻し、1974年から十五年間、映画雑誌「キネマ旬報」や映画書籍の編集に携わる。以後、さまざまな雑誌や書籍に執筆。
著書に「世界SF映画全史」(愛育社)、「世界ミステリー映画大全」(愛育社)、「アメリカ映画100年帝国」(近代映画社)、訳書に「フレッド・ジンネマン自伝」(キネマ旬報社)などがある。
『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』日本語字幕予告
英語タイトル: Long Way North
原題: TOUT EN HAUT DU MONDE(世界の頂点)
監督: レミ・シャイエ
脚本: クレール・パオレッティ/パトリシア・バレイクス
作画監督: リアン - チョー・ハン
音楽: ジョナサン・モラリ
配給: リスキット / 太秦
特別協力: 東京アニメアワードフェスティバル
協力: キャトルステラ/スタジオJumo/Stylab
(2015年/フランス・デンマーク/81分/シネマスコープ)