日本の浮世絵は、どうしてこんなにも米国女性の心を魅了したのでしょうか?
          
メアリー・エインズワース(1867-1950)は、アメリカでも早くから、浮世絵収集を始めたコレクターの1人です。
著名な浮世絵収集家の多くは、フェノロサや、ゴンクール、バーナード・リーチといった男性でしたが、彼女は彼らに肩を並べる女性コレクターとして知られていました。
アメリカ・オハイオ州にあるオーバリン大学のアレン・メモリアル美術館には、エインズワースが寄贈した1500 点以上の浮世絵版画が所蔵されています。
明治39年(1906)、エインズワースの来日を契機に始められたこのコレクションは、初期から幕末までの浮世絵の歴史をたどることができるもので、鈴木春信や、喜多川歌麿など六大浮世絵師の名品を含む優れた内容となっています。
特に世界でも稀少な初期の浮世絵版画や、葛飾北斎、歌川広重の作品など、貴重なコレクションとなっています。
この珠玉のコレクションは、これまで一部の浮世絵研究者の間で注目されていたにもかかわらず、アメリカにおいてもあまり紹介されませんでしたが、このたび、日本に初めて里帰りすることになりました。
選りすぐりの日本情緒豊かな浮世絵版画200点が集結しています。
「メアリー・エインズワース浮世絵コレクション」は、大阪市立美術館において、8月10日(土)~9月29日(日)まで開催されます。
                    
外国人女性コレクターの心を動かした、浮世絵 ー 日本の歴史と文化、日本の四季折々の美しさを是非、この機会にご鑑賞ください。
それではシネフィル上でも本展と同じく、5つの章に分けてご紹介致します。

第1章 浮世絵の黎明 墨摺絵からの展開

「浮世絵師」や「浮世絵」という言葉が使われるようになったのは、延宝8年(1680)頃のことです。
これらの語は、菱川師宣(?~1694)や、その作品を意味し、この頃に一枚摺の墨摺絵(すみずりえ)が多く普及し始めたと考えられています。
墨摺絵から始まった浮世絵版画は、まもなく色を求めるようになりますが、版による彩色はもっと後のことで、60~70年ほどの間は、墨摺絵に一枚一枚、筆により彩色を行っていました。
オレンジがかった強い発色の「丹」を用いた「丹絵」(たんえ)や、品の良い赤色を示す「紅」を用いた「紅絵」などがその主なものです。
エインズワースは、収集の最初に、初期浮世絵を集め始めたとされています。
日本の歴史が感じられる素朴な美しさ、力強い画風を、エインズワースも好んだのでしょう。

画像: 菱川師宣「低唱の後」 延宝(1673-81)後期

菱川師宣「低唱の後」 延宝(1673-81)後期

第2章 色彩を求めて 紅摺絵から錦絵の時代へ

寛保・延享期(1741~48)になり、版による彩色が始まります。
それは墨の輪郭線に紅と緑を中心とした、2、3色を摺ったもので、「紅摺絵」と呼ばれています。
「紅摺絵」が最も多く出版されたのは、宝暦期(1751~64)で、この時期から画風は繊細優美な傾向を増していきます。
そして明和期(1764~72)、より色数の多い摺物を求めた結果、高度な多色摺木版画技法が完成します。
江戸で生まれた錦織のように美しい絵という意味で「東錦絵」(あずまにしきえ)として売り出しました。
錦絵創始期の第一人者こそ、鈴木春信(1725?~70)です。

画像: 鈴木春信「六玉川 調布の玉川」 明和4年(1767)頃

鈴木春信「六玉川 調布の玉川」 明和4年(1767)頃

第3章 錦絵の興隆 黄金期の華 清長から歌麿へ

美しい多色摺木版画、すなわち錦絵は、春信の時代には高級であったと思われますが、やがて大衆にも共有されるようになります。
天明期(1781~89)になると鳥居清長(1752~1815)が長身の伸びやかな美人を描いて、一世を風靡しました。
清長は大判錦絵やその続絵など豪華な出版を本格的に手掛けています。
寛政期(1789~1801)の美人画界で第一人者となったのが喜多川歌麿(?~1806)です。
歌麿は女性の顔を大きく捉えた大首絵や半身像の美人画で人気を博しました。

画像: 鳥居清長「洗濯と張り物」 天明(1781–89)後期

鳥居清長「洗濯と張り物」 天明(1781–89)後期

第4章 風景画時代の到来 北斎と国芳

浮世絵はその誕生から長い間、美人画と役者絵が中心になっていました。
浮世絵における風景画がその確固たる存在感を示したのは、葛飾北斎(1760~1849)が手掛けた「冨嶽三十六景」シリーズによるところが大きいと言えます。
エインズワースも、「凱風快晴」(がいふうかいせい)、「山下白雨」(さんかはくう)といった著名な図を含む「冨嶽三十六景」シリーズの作品を丹念に収集しています。

画像: 葛飾北斎「冨嶽三十六景 凱風快晴」 天保2-4年(1831-33)頃

葛飾北斎「冨嶽三十六景 凱風快晴」 天保2-4年(1831-33)頃

一方、歌川国芳(1797~1861)も個性的な風景画を描いたことで注目される絵師です。
斬新な構図や、西洋絵画に影響を受けた陰影表現によって、見慣れた名所を見たことのないような光景に変貌させる意外性や面白さは、時を超え、国芳人気を不動のものとしています。

画像: 歌川国芳「二十四孝童子鑑 大舜」 天保14-弘化元年(1843-44)頃

歌川国芳「二十四孝童子鑑 大舜」 天保14-弘化元年(1843-44)頃

第5章 エインズワースの愛した広重

エインズワースの浮世絵コレクションの過半数を占めるのは、歌川広重(1797~1858)の作品です。
ゴッホも模写をしたことで有名な広重の代表作「名所江戸百景 大はしあたけの夕立」は、対岸の版が異なり、2艘の船が表される珍しい摺りのものもあります。
エインズワースのコレクションにもこのバージョンが含まれていて、本展では一般的な摺りのものと比較展示される予定になっています。

画像: 歌川広重「名所江戸百景 大はしあたけの夕立」 安政4年(1857)

歌川広重「名所江戸百景 大はしあたけの夕立」 安政4年(1857)

エインズワースは、天保5年(1834)頃に発表された出世作「東海道五拾三次之内」(保永堂版)をはじめ、晩年の代表作「名所江戸百景」シリーズに至るまで、歌川広重の作品をこよなく愛し、精力的に収集しています。
エインズワースが日本を訪れたのは明治39年(1906)で、広重没後まだ50 年も経っていない時期で、収集し易かったこともありますが、明治維新によって急速に進んだ西洋化の中で、広重の作品は彼女にとって、大切な思い出の日本を描いた、かけがえのない、愛すべきものだったのでしょう。
わたしたち、日本人も、日本の四季折々の風情が感じられる自然の美しさを描いた風景画や、日本情緒豊かな美人画の素晴らしさを再確認しましょう。

展覧会概要

会期:2019年8月10日(土)~9月29日(日)
 ※会期中の展示替えはありません。
 
時間:午前9時30分〜午後5時(入館は午後4時30分まで)
 
休館日:月曜日(祝休日の場合は開館し、翌火曜日休館。ただし、8月13日(火)は開館)。   
 ※災害などにより臨時で休館となる場合あり。
 
料金:一般 1,400円(1,200円)、高大生1,000円(800円)
 ※( )内は、前売および20名以上の団体料金
 ※中学生以下、障がい者手帳などをお持ちの方(介護者1名を含む)は無料(要証明)。
 ※本展は、大阪市内在住の65歳以上の方も一般料金が必要です。
 
<前売券販売中>
 一般 1,200円、高大生 800円
 ※2019年5月13日(月)~8月9日(金)まで販売。
 ※チケットは、ローソンチケット(Lコード:55502)、セブンチケット(セブンコード:075-062)、チケットぴあ(店頭販売のみ・Pコード:769-612)、イープラス、CNプレイガイド、阪神プレイガイド、近鉄駅営業所ほか、京阪神の主要プレイガイド・コンビニエンスストアなどで販売します。
 
主催:大阪市立美術館、毎日新聞社、MBS
 
共催:オーバリン大学アレン・メモリアル美術館
 
協賛:大和ハウス工業、JR西日本
 
協力:日本航空
 
企画協力:マンゴスティン

関連イベント

【講演会】 
2019年8月24日(土)テーマ「初期浮世絵から黄金期へ -エインズワース・コレクションに見る浮世絵の展開」
講師:田辺 昌子(千葉市美術館 副館長兼学芸課長)
 
2019年9月7日(土)テーマ「エインズワースの集めた北斎」
講師:秋田 達也(大阪市立美術館 主任学芸員)
  
時間:各日とも午後2時~3時30分
会場:美術館1階講演会室定員:各150名※申込不要、当日先着順、聴講無料。ただし、当日の本展観覧券が必要です。
 
【摺り体験】
「摺師に挑戦!広重の浮世絵を摺ろう」 
歌川広重「東海道五拾三次之内 四日市」(保永堂版)の図柄を、刷毛や馬連などの道具を使ってポストカードサイズの紙に摺るワークショップです。
日時:2019年8月25日(日) 午後1時~4時
会場:美術館1階講演会室
定員:100名(お一人様1枚限り)
 
 ※摺った作品はお持ち帰りいただけます。
 ※申込不要、当日先着順、体験無料。ただし、当日の本展観覧券が必要です。

メアリー・エインズワース浮世絵コレクション@大阪 cinefil チケットプレゼント

下記の必要事項、読者アンケートをご記入の上、メアリー・エインズワース浮世絵コレクション@大阪 cinefil チケットプレゼント係宛てに、メールでご応募ください。
抽選の上5組10名様に、ご本人様名記名の招待券をお送りいたします。
記名ご本人様のみ有効の、この招待券は、非売品です。
転売業者などに入手されるのを防止するため、ご入場時他に当選者名簿との照会で、公的身分証明書でのご本人確認をお願いすることがあります。
   
応募先メールアドレス  info@miramiru.tokyo
応募締め切り    2019年9月1日(日)24:00
     
1、氏名
2、年齢
3、当選プレゼント送り先住所(応募者の電話番号、郵便番号、建物名、部屋番号も明記)
  建物名、部屋番号のご明記がない場合、郵便が差し戻されることが多いため、当選無効となります。
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また、抽選結果は、当選者への発送をもってかえさせて頂きます。

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