気づけばもう5月。
平成から令和へと新しい時代が幕をあけましたね。
昭和最後の年生まれだからこれで3元号を生きていることに。
平成生まれがよかったと嘆いたこともありましたが、今では昭和生まれでよかったなと思います。
何と言っても、昭和には数多くの名作映画がありますしね。
今回ご紹介するのは成瀬巳喜男監督の「流れる」という作品。
成瀬監督の映画の中で初めて見た作品であり、また一番好きな作品でもあります。
当時を代表する豪華女優陣が総出演の豪華作。
取り上げたり人ばっかりで随分悩みましたが、考え抜いてこの方々をピックアップ致しました!
※本文にはネタバレも含みますのでご注意ください。
あらすじ
川の近くの花街に古くからある置屋「つたの家」へ新しい女中・梨花(田中絹代さん)がやってくる。つたの家の女将・つた奴(山田五十鈴さん)に気に入られた梨花はお春と名を変えられ働き始めることに。芸者のなな江はつた奴の娘・勝代(高峰秀子さん)と喧嘩し稼ぎをごまかせれていると言ってつたの家を出て行く。
お局の芸者・染香(杉村春子さん)や若手の芸者・なな子(岡田茉莉子さん)につたの家の実情をあれこれ教えてもらうお春。実はつた奴は父違いの姉・おとよから家を抵当に入れ借金をしており、お金のやりくりが限界に来ていたのだった。
昔馴染みの芸者の姉さんで今は料理屋をしているお浜にお金の相談に行くつた奴。そんな時、出て行ったなみ江の叔父が金を取り立てにつたの家にやって来てーー。
その1【老け役の名人】・・・賀原夏子さん
つた奴の姉・おとよ役の賀原夏子さん。
父違いとはいえ、実の妹に利子付きでお金を貸し、しかも家を抵当に入れさせているというどギツイおとよさん。当時なんと34歳!嘘でしょ、、?幕末太陽傳の菅井きんさん並みにびっくりしました。
妹・つた奴役の山田五十鈴さんより4歳下でございます。いやー50歳くらいに見えるよね。
なんなの昔の人って、老け役上手な人多くないですか?
歩き方がなんとも年寄りっぽくて、喋り方もわざとらしくないおばさん感。
それでいて貫禄もあってずけずけとしている。
つた奴の他に芸者の染香にもお金を貸していて、みんなから嫌がられる存在であります。
でも、この人のお気に入りポイントはチャーミングなところ。
シワができないように明るいうちに寝るようにしているとか、なんじゃそりゃ!って思うけど、そんなことやってんだーってなんだか可愛く思えちゃうんですよね。
だから嫌な奴だけど完全には憎めない。可愛いらし悪者。
ベジーダとかピッコロって感じかな。←伝わってる?笑
典型的悪役キャラでこの人がこの物語の悪者だなって始めに観客に思わせる存在。
その2【気品漂ういらやしさ】・・・栗島すみ子さん
なんとこの作品で19年ぶりに映画出演したという栗島すみ子さん。
昔から付き合いのあった成瀬巳喜男監督たってのオファーで出演したらしいのですが、一切セリフを覚えず現場入りしたという逸話も。
このお方はなんといっても品があります。ものすごく醸し出ています。
なのにとーってもいやらしいのです。そのいやらしさはあの口を開けない喋り方で作られているのだと私は思うのです。ほんと、いっこく堂なみです。
お浜さんは一見つた奴に親身になって、お金を借りて来てあげたりなんかして良い人っぽいのですが、実はおとよよりも悪い奴なんですよね。
お浜はつたの家を買い取って芸者屋をやりたいと思っているけどそれを隠し、つたの家を買い取るものの、そのままそこを貸して芸者屋を続ければいいと言ってつた奴を安心させます。
家を売ったお金でおとよの借金も返せたつた奴は心機一転、新しい芸者見習いも入れて精を出しますが、お浜はやっぱりつたの家を芸者屋にしたいと言い出すのです。
ね、めっちゃいやらしいでしょ。
自分はあくまで良い人なんですよスタイルは崩さず、回りくどいやり方で欲しいものを手にいれる。落ち目のつた奴にいろんな角度から惨めな思いをさせたりしていくひどい奴です。
えー、こいつ実はめっちゃ悪いやーん!って初めて見たときに思いました。
お浜に比べたらおとよなんて可愛いもんです。
品の良さといやらしさって似ているというか、品が良いからいやらしく見えるというか。
見事に二つが融合していてあっぱれ。
その3【どうしようもないグズグズ感】・・・中北千枝子さん
つた奴の妹・米子役の中北千枝子さん。
米子は男に逃げられ不二子という娘と二人、つたの家の世話になっております。
働かないし家の手伝いも何もしない、ぐーたら女なのですが、立ち姿、浴衣の着方でそれをかなり表現されている。中でも私の一番のお気に入りは顔の角度。絶妙にだらしないんですよ(笑)
他の作品では普通に可愛らしいヒロインを演じたりしているのに、こんなだらしなさを身につけられるのがすごいなーと感心。
未だに別れた男を引きずっている米子は不二子が風邪をひくと、子供が病気なら会ってくれるだろうと不二子をほったらかしにして昔の男を探しにいく始末。
つた奴はそんな米子の様子をみっともないなーって感じに見ているのですが、自分も男の為に家を抵当に入れるくらいの借金をしているのだらか、人のこと言えないよね。
米子が不二子に踊りを教えているシーンが度々出てくるのですが「あぁこの子が大きくなったら芸者になってつたの家がまた繁盛すれば良いなー」みたいな希望が見えたり。
だからこそ、色んな問題が解決してこれから心機一転って時にやっぱりお浜がつたの家を買収するって話が持ち上がった時に「えぇー嘘やろ?」ってショックを受ける。
この不二子ちゃん、大人たちが騒いでいたり、バカやってる時になんとも言えないいい表情をして見ています。
観客の感情の代弁的な役割。名子役です。
この作品は何と言っても物語の構造が素晴らしい。
女中・お春(田中絹代さん)が観客と同じ立場にいることでスーッと物語に入っていける。
それにお節介な芸者・染香となな子が聞いてもないのに家の事情や人の事情など色んなことを教えてくれるし(笑)
登場人物の役割分担がちゃんとしています。脚本の勉強するのにもってこいの教材。
登場人物は女ばっかりで、しかも色んなタイプが出てくる。世の中の女の縮図を見ているよう。
憧れるような人もいれば嫌なやつやダメなやつもいて、でもそれぞれに自分の人生を歩んでいる。
決して綺麗な生き方とは言えないかもしれないけど、それでいいんだなって。人間ってそんなもん。
これを初めて見たときは23歳くらいだったけど「女に生まれてよかったなー」って思えたんですよねー。
大事件が起こるわけではないけれど、ちょっと普段は見れない花街の生活を覗き見できて、それでいて最後も着地点がちゃんと描かれてないから、物語のその後を勝手に色々妄想できちゃう。
今見たのはあくまで人生の一部なんですよーというのが最初と最後の川の流れで物語っている気がします。なんという演出方法。
山田五十鈴さんが着物を着たり脱いだりするシーンが大好きで、ちょー色っぽいしお美しいんです。あと、杉村春子さんのキャラが大好き。コロッケにソースをかけるシーンなんかでもうそのキャラクターが全部見えちゃうし。
好きなとこをあげたらきりがないくらい成瀬巳喜男監督作の中で一番好きな作品です。
今を生きる女性が見てもすっごく共感できる作品です。
今の時代、Amazonプライムですぐ見れちゃうから最高ですねぇ。
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椿弓里奈(つばきゆりな)
1988年生まれ、京都府出身。大阪芸術大学短期大学部卒業後上京し、役者として活動。
現在放送中のテレビ東京ドラマ24「きのう何食べた?」毎週金曜深夜0:12〜に出演中。
主な出演作に【映画】「64-ロクヨン-」瀬々敬久監督、「PとJK」廣木隆一監督【TV】「でぶせん」日本テレビ・Hulu、「犯罪症候群season1」【CM】大塚製薬「ネイチャーメイド」など。
昨年同い年の役者で立ち上げた”889FILM”ではyoutubeにてショートムービーなどの動画配信中。
所属事務所HP⇒http://www.jfct.co.jp/b_tsubaki.html Twitterアカウント⇒@bakiey