cinefil連載【「つくる」ひとたち】インタビュー vol.6
映画『美人が婚活してみたら』

監督:大九明子 × 脚本:じろう(シソンヌ)対談インタビュー

32歳の美人WEBデザイナーのタカコの婚活をベースに、親友ケイコとの友情や、婚活サイトで知り合ったオクテ男子園木や、シングルズバーで知り合ったバツイチイケメン矢田部との恋愛&人間模様をユーモラスかつリアルに描いた映画『美人が婚活してみたら』が2019年3月23日(土)より公開となります。

監督・脚本家という垣根を越えて「面白いものを作る」ということを共有し合いながら、映画の軸となる脚本を作り上げた大九明子監督と、シソンヌのじろうさん。一度本気で断念しそうになったというエピソードや、映画とコントの「笑い」の取り入れ方の違いなどについてお話をお聞きしました。

画像1: 左より じろう(シソンヌ)さん、大九明子監督

左より じろう(シソンヌ)さん、大九明子監督

■本気で断念しかけた脚本づくり

ーーストーリーの軸に「婚活」がありつつも、友情や恋愛といった人間模様、人との関わり方や生き方について考えてしまう内容で、とても響きました。

大九明子監督(以下、大九):主人公のタカコという人を丁寧に描きたいなと思っていて、これまで撮ってきた映画と同じように、「タカコってどういう人かな?」ってことを考えながら、衣装も部屋も暮らしぶりも、どんな食べ物が好きかということとかも、丁寧に紡ぐよう心がけました。

画像1: 大九明子監督

大九明子監督

ーーじろうさんは、映画の脚本を手掛けるのは今作が初めてだったんですよね。お話を受けて、いかがでしたか?

じろうさん(以下、じろう):お話が来た時、1回断ったんですよ。映画の脚本は書いたことないし、スケジュール的にも結構キツかったので。断った後に原作があると聞いたので、原作をなぞれば良いんだろうなって思って、すごく軽い気持ちで引き受けたんです(笑)。なんとなくなぞったものを持っていって、監督に見せたら「こういうことじゃないです」って言われて。その時に「これ、まずい仕事を引き受けたな」って思いました。

ーー前途多難(!?)なはじまりだったんですね。

じろう:そこから全然書けなくなっちゃって。原作あるけど、結局これ自分で書かなきゃいけないじゃん!って思って。自分の中で「なんでこんなことやらされなきゃいけないんだろう?頼まれたからやったのに!」って、不満の要素がすごく強かったんです(笑)。「原作通り書いちゃいけないってどういうことだよ!」って(笑)。

画像1: じろう(シソンヌ)さん

じろう(シソンヌ)さん

一同:(笑)

じろう:その後、期間までに書こうとしたんですけど、また結局書けなくて。「もう降りるしか無い!」って、吉本の人に伝えたら、「それはできません。降りるのは絶対に無いです」って言われて。本社で打ち合わせの時に「書けませんでした」って土下座して。そこで監督にも「書けます」って言われて、逃げ道が絶たれて。「あ、もう書くしかないんだ。僕には何も残されてない。書く以外に生き残る道は無い」っていうのがわかって、やっと書いたんです。

一同:(笑)

画像2: 左より じろう(シソンヌ)さん、大九明子監督

左より じろう(シソンヌ)さん、大九明子監督

■「絶対に書ける!」と信じていた大九監督

大九:私は2017年の12月に「じろうさんが脚本で、こういう原作で、2018年2月に(撮影)ってことは可能ですか?」という打診が来ました。沖縄国際映画祭用の映画ってすごいタイトっていう噂を聞いていたのと、シソンヌがすごく好きだったからご一緒できるならと思って、スケジュールはすごいタイトだけど、「是非やらせてもらいます」って答えました。

ーーすごいタイトなスケジュールの中、企画がはじまったのですね。

大九:尊敬するシソンヌのじろうさんに言うはずは無いって思うんですけど、最初の打ち合わせの時見せてもらったプロットに「これじゃあ違います」って言ったらしく(笑)。たぶん、シーンというか、エピソードの羅列みたいになってたんだと思います。その時に、「この原作を元に、こういった映画にしたいんです」みたいな、なんとなくの流れとかをお伝えして、ワクワクしながらシナリオを待っていたっていう状況だったんです。

ーーそんな状況からの「土下座」だったんですか?

大九:そうですね。というか「遅いな~、間に合わないな〜」って思っていて。1月の頭の打ち合わせにじろうさんが土下座して「僕、面白いものしか書けないんです」って入ってきて。その日脚本が間に合わなかったから、笑って許してもらうための1つの芸だと思って、全然本気に捉えていなくて。焦りもせず、話をして励ましていましたね。制作会社のプロデューサーは、スケジュールとお金を管理しているから真っ青になっていましたけど・・・。私はやっぱりシソンヌのすごさを知っていたから、「枷を外してあげれば絶対書ける!」と思っていて。しばらくお話したあと「わかりました、書きます」って言って、本当に一晩で書いてくれて。

ーーなんと一晩で・・・!

大九:でも、信じてしたし、絶対書けるって思ってたんです。途中でケンカがあって、仲良しになる時は喫茶店の会話とかじゃなくて、日常の何かをしながらとかで「『阿修羅のごとく』(03)のオマージュみたいに、例えば漬け物つけながらとか」って言ったことも全部盛り込んでくれていて。ちゃんとお願いした通りの筋になっていました。

画像2: 大九明子監督

大九明子監督

■役割に固執しないで「面白いものを作る」

ーー作品を作っていく中で、お二人の中で共有していたものはあったのでしょうか。

大九:特に話し合っては無いですけど、私もじろうさんも「面白いものを作りたい」って思っているのはすごく感じていました。時間も無いし、得意なところを分業で埋めるみたいな感じで作っていったんですけど、その時に、役割に固執しないで「面白いものを作ろう」っていう共通のゴールに向かってやっているな、というのをすごく感じて。

ーー迷った時の指針になるような、素敵な共通ゴールですね。

大九:「面白いものを作ろう」と言っていて、もっと面白いものを思い付いている人がいるのに、互いの役割を守ることが仕事になっちゃっていたら、それはちょっと違うんじゃないかなって思うんです。打ち合わせはしていないですけど、常に「その瞬間一番面白いと思う形をどうにかしよう」っていうところは、思っていた感じがあったので、私も勝手気ままに脚本をいじらせてもらいました(笑)。

画像1: 『美人が婚活してみたら』 © 2018 吉本興業

『美人が婚活してみたら』
© 2018 吉本興業

ーー印象に残ったやり取りのシーンはありますか?

大九:全面的に頼っていたのは、園木と矢田部のシーンですね。タカコとの会話のところは「男の人って、こういうセリフを言うんだ・・」というのをそのまま頂いて、面白く、楽しみながら撮らせて頂きました。時間も無かったので「ここの会話を面白く書いてください」とか、ロケハンしながら「オープニングとクロージングは私が考えます!」みたいに、夢中で分け合って作っていった印象があります。

ーー園木と矢田部の絶妙すぎるキャラクター作りも、お二人で考えられたのですか?

大九:そうです。原作の、このキャラクターとこのキャラクターをくっつけたい!みたいなことだけお願いしました。

ーー園木も矢田部も、じろうさんの中にある要素が含まれているのでしょうか?

じろう:どうなんですかね?(笑)。僕もコントでいろんなキャラクターをやるんで、自分の中で作れる、想像出来るキャラクターだと思うんですけど、もうあんま覚えてないですね(笑)。

画像2: じろう(シソンヌ)さん

じろう(シソンヌ)さん

ーー実際に、中村倫也さんと田中圭さんが演じられているのを観て、どう思いましたか?

じろう:想像をはるかに越えてきました。本当に素晴らしかったです。園木はやっぱりダメそうで憎めなかったし、矢田部はもう絶対にろくでもねえヤツっていうのが画面観ているだけで本当に伝わってくるんで、役者さんってすごいなって思いました。喋っていなくても、ろくでもねえ感じが映っていたので(笑)。

画像2: 『美人が婚活してみたら』 © 2018 吉本興業

『美人が婚活してみたら』
© 2018 吉本興業

■コントの面白さと、フィルムに収まる面白さの違い

ーー今回ご一緒して気付いた、大九監督・じろうさんの面白い部分を教えていただけますか?

大九:矢田部の「俺のこと好きになっちゃった?」っていうセリフをシナリオで読んだ時は、本当にたまげましたよね。じろうさんて、ちゃんとモテる人生送ってきてる人なんだなって。

じろう:ハハハハ。そんなことないっすよ(笑)。あのセリフ、すごい一人歩きしてるんですよね。「ここ大事なセリフだよ」って思って書いて無いのに(笑)。

大九:あと、園木の「足並みを揃えてタカコさんみたいな美人と一緒に歩いちゃ悪い」っていうところとか。私は「これ、どうやるんだろう?」ってわからなかったけど、「じろうさんっぽいな」と思ったんで、そのまま頂戴したんです。コントの面白さって、フィルムに収まる面白さとは全然違うから、どういう温度でやればこれが上手くハマるんだろう?って思いながら。そしたら、日常の中でああいうことやっているかわいい人が居てもいいな、っていうスレスレのところを、中村くんが上手にやってくれました。

画像3: 『美人が婚活してみたら』 © 2018 吉本興業

『美人が婚活してみたら』
© 2018 吉本興業

ーーじろうさんはいかがでしたか?

じろう:笑いのシーンの挟み方がいやらしく無いですよね。入れ方がすごく絶妙だなと思いました。あと単純に、僕が書いたものをこんな風に繋げて、一個のお話にするってすごいなって思いましたね。

ーー映画とコントだと尺も違いますもんね。

じろう:「僕は面白いことしか書けないです」って言ったのも、お笑いはネタの中で、必ず笑いに繋がることしかやってないんですよ。意味の無いセリフのやり取りを弾いて弾いて、5~10分の尺に収めているので。笑いの無いシーンを入れるっていうのが頭の中に無かったんです。でも監督から「映画って、観ててずっと笑ってるのなんか無いでしょ」って言われて、「ああ、そういうことなんだ」って思って。

画像3: 左より じろう(シソンヌ)さん、大九明子監督

左より じろう(シソンヌ)さん、大九明子監督

■大九監督×じろうさんが再びタッグを組む次回作について

ーー次回お二人がタッグを組むとしたら、どのような作品を作りたいですか?

大九:これは振りかしら?(笑)。もう作ってます。先日発表になった『甘いお酒でうがい』っていう、じろうさんが川嶋佳子になりきって書いている日記が原作で、40代女性の日常を淡々と切り取るっていう作品を、現在編集中です。

ーーもう撮影も終わっているのですね!『甘いお酒でうがい』の脚本は、すんなり進んだのでしょうか?

大九:これは、一文字もいじっていません(笑)。と言いつつ、このセリフは違うかも、と思ってアフレコでは直すかもしれないところは数行あったり、現場でこのセリフやめようっていう、いつもの作業はしてますけど、脚本段階で手を入れるってことは一切していないです。もう決めたんです。去年、共同作業と言いつつもだいぶ助けたんで(笑)。

じろう:(笑)。

画像3: じろう(シソンヌ)さん

じろう(シソンヌ)さん

大九:今度は一文字も助けん!と思って(笑)。というよりは、素晴らしい原作だし、私が惚れ込んで「これが良い!」ってお願いしてやったものなので。何の不満も無く。

じろう:あれはちゃんと書きましたよね。締切もわりと守ったし。

一同:(笑)。

大九:このシーンの替わりに、何か別のアイディアもらえますか?って時も、ちゃんと答えてくれて。本当に『甘いお酒でうがい』ではいい子でした(笑)。

ーー今後、映画以外でご一緒してみたいこととかはありますか?

じろう:僕が(作品に)出る、とかじゃないですかね。自分の中で夢ではあったんです。いつか、男だけど女になってドラマか映画でやりたいなって。でもさすがに言えなかったですね(笑)。僕が主演では通らないですよ、絶対(笑)。

大九:何話かをピックアップして、ドラマでじろうさん主演の『甘いお酒でうがい』があってもいいんじゃないですかね。

じろう:ああ、じゃあまたその時は(笑)。

画像4: 左より じろう(シソンヌ)さん、大九明子監督

左より じろう(シソンヌ)さん、大九明子監督

大九明子
1968年、神奈川県横浜市出身。
明治大学政治経済学部卒業。プロダクション人力舎スクールJCAの第1期生となり芸人を志したのち、製作者サイドへ転身。1997年、映画美学校の第1期生となり、監督・脚本作品『意外と死なない』(99)でデビュー。主な作品に新垣結衣主演『恋するマドリ』(07)、谷村美月主演『東京無印女子物語』(12)、染谷将太主演『ただいま、ジャクリーン』(13)、高岡早紀主演『モンスター』(13) 、優希美青・足立梨花W主演『でーれーガールズ』(15)などがある。松岡茉優主演『勝手にふるえてろ』(17)では、第30回 東京国際映画祭コンペティション部門 観客賞、第27回 日本映画プロフェッショナル大賞ベストテン 第1位を受賞。ほかにも、TUBEのミュージックビデオの映画化『渚の恋人たち』(16)や片桐はいり主演『キネカ大森先付ショートムービー・もぎりさん』(18)など。本作主演の黒川芽以とは「ああ、ラブホテル」(14/wowow)で、中村倫也とは「想ひそめし」(15/メ~テレ)以来のタッグとなる。

じろう(シソンヌ)
1978年7月14日、青森県出身。
2006年お笑いコンビ「シソンヌ」を結成。2014年、第7回キングオブコントで優勝。テレビでは「LIFE!〜人生に捧げるコント〜」(NHK)への出演や、ドラマ「今日から俺は!!」(18/日本テレビ)での坂本先生役など、役者業でも活躍。広島ホームテレビでは冠番組「ぶちぶちシソンヌ」を持つ。コンビでのテレビ出演、単独ライブなどを精力的に行う傍ら、ひとりで執筆活動も行っている。2015年には川嶋佳子名義で小説「甘いお酒でうがい」を発表。2018年に放送された男子たちの青春を描いた「卒業バカメンタリー」(日本テレビ)では、初のドラマ脚本を担当。ほかにも短編連載小説「サムガールズ あの子が故郷に帰るとき」などの執筆を行った。映画脚本は本作が初となる。

あらすじ

主人公のタカコは道行く誰もが振り返る美女。WEBデザイナーという仕事にも恵まれ、愚痴を聞いてくれるケイコという親友もいる。しかし、長くつきあってから相手が結婚していることが発覚するという恋愛が3回も続き、気づけば32歳になっていた。不毛な恋愛に疲れ果てたタカコの口から「死にたい……」という言葉がこぼれ出たその夜、タカコは結婚を決意し、婚活サイトに登録する。マッチングサイトで出会った本気で婚活に励む非モテ系の園木とデートを重ねながら、シングルズバーで知り合った結婚願望のないバツイチ・イケメン歯科医の矢田部に惹かれていくタカコ。実は自身の結婚生活に悩んでいたケイコは、タカコが結婚後についてまったく考えていないことに苛立ち始め、2人はとうとう本音を激しくぶつけあう大げんかをしてしまう。

画像4: 『美人が婚活してみたら』 © 2018 吉本興業

『美人が婚活してみたら』
© 2018 吉本興業

映画『美人が婚活してみたら』予告編

画像: 映画『美人が婚活してみたら』予告編 youtu.be

映画『美人が婚活してみたら』予告編

youtu.be

監督:大九明子(おおく あきこ)
原作:とあるアラ子「美人が婚活してみたら」(連載:まんがアプリVコミ、刊行:小学館クリエイティブ)
脚本:じろう(シソンヌ)

出演:黒川芽以 臼田あさ美 中村倫也 /田中圭
村杉蝉之介 レイザーラモンRG 市川しんぺー 矢部太郎(カラテカ) 平田敦子 / 成河

製作:吉本興業
制作:よしもとクリエイティブ・エージェンシー、テレビ朝日
制作プロダクション:C&Iエンタテインメント

配給:KATSU-do 
宣伝:ブロードメディア・スタジオ

映画『美人が婚活してみたら』 2019年3月23日(土)より全国公開

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cinefil連載【「つくる」ひとたち】

「1つの作品には、こんなにもたくさんの人が関わっているのか」と、映画のエンドロールを見る度に感動しています。映画づくりに関わる人たちに、作品のこと、仕事への想い、記憶に残るエピソードなど、さまざまなお話を聞いていきます。時々、「つくる」ひとたち対談も。

矢部紗耶香(Yabe Sayaka)
1986年生まれ、山梨県出身。
雑貨屋、WEB広告、音楽会社、映画会社を経て、現在は編集・取材・企画・宣伝など。TAMA映画祭やDo it Theaterをはじめ、様々な映画祭、イベント、上映会などの宣伝・パブリシティ・ブランディングなども行っている。また、「観る音楽、聴く映画」という音楽好きと映画好きが同じ空間で楽しめるイベントも主催している。

写真:金山 寛毅

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