映画『斬、』塚本晋也監督&池松壮亮さんインタビュー
この映画は僕と池松さん二人でセッションして
作り上げた映画だと思っています。
『鉄男』(‘89)、『KOTOKO』(’11)、『野火』(’14)など、世界中に数多くのファンを持つ塚本晋也監督が、20年ほどの構想を経て挑んだ初の時代劇『斬、』。
『映画夜空はいつでも最高密度の青色だ』(’17)や『君が君で君だ』(’18)に出演し、更なる表現の幅と奥行きを開拓し続けている池松壮亮が、文武両道で才気あふれる浪人の都築杢之進を演じた。「池松さんしか頭にはなかった」と話す塚本監督と、「運命的な感覚がありました」と話す池松さんが、二人でセッションして作り上げた映画『斬、』について話を聞いた。
――80分のなかでほとばしるような力を感じる作品でした。塚本監督にとって初の時代劇でしたが、池松さんのキャスティングはマストの選択だったのでしょうか?
塚本:構想自体は20年ぐらい前からあったのですが、具体的にそろそろ作りたいなと思ったときから、池松さんしか頭にはなかったです。ただ当時は、まったく池松さんとは知り合いでもないですし、脚本もない。予算もばっちりあるわけでもない。正直お願いする状況ではないと思っていました。そんなあるとき、池松さんのマネージャーさんから、池松さんが僕の作品に興味を抱いていただいているという連絡があったんです。「これは天からの授かりものだろう」と思って、一度お会いして可能性を聞きました。
――企画が上がったときから、池松さんにはお話をしていたわけではないのですか?
塚本:まったく伝えていませんでした。本当に池松さんサイドから話があったときは、天から稲光が走ったような感じでした。
――池松さんは、具体的な話がないなか、どうして塚本監督にアプローチしたのですか?
池松:いま考えればあのタイミングってなんだろうというか、自分自身でも運命的な感覚がありました。もともと塚本監督とはいつかご一緒できればと思っていたのですが、その気持ちが抑えきれず、マネージャーさんに「いつか機会があれば」という話をしていたんです。なにかに突き動かされて出会った感じです。
――本作の時代設定は江戸末期でした。この意味は?
塚本:以前は江戸時代末期の時代性みたいなものに惹かれていたのですが、この映画を作る段階になったとき、必ずしもこの時代でなければならないというものではありませんでした。ただこの時代は、250年戦争がなかった泰平に終わりを告げ、その後、大きな戦争に向かっていくターニングポイントになった時期。現在の日本も戦後70年間が経ちましたが、いろいろな意味で血なまぐさくなっていく予感に満ちていますよね。いまと江戸末期って似ているなと思ったので、この時代設定にしました。
――非常に力強く激しい人と人とのぶつかり合いが表現されています。殺陣は相当訓練をされたのですか?
塚本:殺陣に関しては、練習をするたびに池松さんはどんどんうまくなっていくのでびっくりしました。本人はあまり経験がないと話していましたが、編集云々で仕上げるというより、そのままの池松さんを撮った感じです。僕の殺陣は編集技術を駆使してやりましたけれどね(笑)。
池松:いやいや。僕は普段と同じことをやっていただけで、それがこれだけ迫力あるように見えるのだから、それは塚本監督の力だと思います。
塚本:身体能力がすごいんですよ。そこには彼の感性が影響しているのですが、本当に自在に体を操っているような感じがしました。しかも、殺陣のシーンのあと、池松さんの手を見ると、何重にも重なった傷がいっぱいあるんです。僕なんか、ちょっと傷がついただけでも「痛い、痛い」って言ってしまうのですが、彼を見ていて、二度とそんなこと言ってはいけないと思いました(笑)。
池松:つまらないシーンを撮っていたら、すぐに「痛い」って言いますよ(笑)。本当に痛みを忘れるような日々だったんです。これは後付けになってしまうのかもしれませんが、塚本監督の映画を観ていたとき、身体性というものをこれだけ感じる日本映画はないなと感じていたんです。僕は演じることよりも、そちらの方に自信があったので、そういう部分でも塚本監督の作品には惹かれていたのかもしれません。肉体性とか人の身体の動きとか、実はものすごく興味を持っていて、塚本監督は人の肉体を丸々生々しく捉えているような気がします。
――池松さんがおっしゃるようなことは、塚本監督のなかでは意識されていることですか?
塚本:もともと、身体性への強い興味ありました。よく心が大事で、身体をそれより下に位置付ける人はいますが、僕は身体がまずありきと思っていて、宇宙のものすごい情報を集めて動いているような感覚があり、俳優さんの芝居も全身で表現しているような躍動感に惹かれるんです。池松さんは、かなり身体性が素晴らしく、身体の動きと全体から出す空気感というかオーラがとても好きなんです。
――本作は、第75回ヴェネチア国際映画祭コンペティション部門や、第43回トロント国際映画祭マスターズ部門などに出品されました。塚本監督作品は海外でも高い評価を受けていますが、日本国外の視点というのは意識されて作品作りはされるのですか?
塚本:特にそういった意識はありません。あくまで個人的な思いを描いた方が、共感してくれるのかなと感じています。作り手の個から受けての個のダイレクトに刺さる感覚といいますか・・・。
――監督、編集、撮影、プロデュースを含め一気通貫で塚本監督自身が作業を行うのはそういう理由からでしょうか?
塚本:自分の映画に関してはそうかもしれません。もちろん自分の考えを少しでも多くの人に届かせたい、と努力はするんですけど。脚本とかを合議制でディベロップすると、自分も納得しているつもりで知らない間に大事なものが抜けてしまったりすることがあります。監督としてスタッフの能力をしっかり見極めディレクションするということに長けていないのかも知れませんね。より多くの人に見てもらうように何が必要か、今後はさらに精進したいと思っています。
塚本晋也監督
1960年1月1日、東京・渋谷生まれ。14歳で初めて8ミリカメラを手にする。87年『電柱小僧の冒険』でPFFグランプリ受賞。89年『鉄男』で劇場映画デビューと同時に、ローマ国際ファンタスティック映画祭グランプリ受賞。以降、国際映画祭の常連となり、その作品は世界の各地で配給される。世界三大映画祭のヴェネチア国際映画祭との縁が深く、『六月の蛇』(02)はコントロコレンテ部門(のちのオリゾンティ部門)で審査員特別大賞、『鉄男THE BULLET MAN』(09)、『野火』(14)に続き本作で3度目のコンペティション部門出品を果たす。97年にメインコンペティション部門、05年はオリゾンティ部門と2度にわたって審査員を務めた。その他の作品に『ヒルコ妖怪ハンター』(90)、『東京フィスト』(95)、『バレット・バレエ』(98)、『双生児』(99)、『ヴィタール』(04)、『悪夢探偵』(06)など。製作、監督、脚本、撮影、照明、美術、編集などすべてに関与して作りあげる作品は、国内、海外で数多くの賞を受賞し、多くのファンを作る。また俳優としても監督作のほとんどに出演するほか、他監督の作品にも多く出演。
池松壮亮
1990年7月9日生まれ。福岡県出身。『ラストサムライ』(03)で鮮烈のデビュー。以来、さまざまな作品でその圧倒的な演技力で観客を魅了している。14年には『紙の月』、『愛の渦』、『海を感じる時』、『ぼくたちの家族』と注目作品に次々と出演し、日本アカデミー賞新人俳優賞、ブルーリボン賞助演男優賞等を受賞。その他に『バンクーバーの朝日』(14)、『劇場版MOZU』(15)、『セトウツミ』(16)、『デスノートLight up the NEW world』(16)、など話題作に立て続けて出演。17年には『映画夜空はいつでも最高密度の青色だ』に出演し、第9回TAMA映画賞にて最優秀男優賞、第39回ヨコハマ映画祭にて主演男優賞を受賞。18年は第71回カンヌ国際映画祭でパルムドールを獲得した『万引き家族』に出演のほか『君が君で君だ』、『散り椿』と多数の作品に出演。日本映画界になくてはならない存在である。
◉池松さん
ヘアメイク:FUJIU JIMI
インタビュー・文&写真:磯部正和
編集:矢部紗耶香
お二人の対談は、12月に発売するシネフィルブックvol.2で、より深い内容をご紹介いたします!
塚本晋也監督『斬、』予告
映画『斬、』あらすじ
250年にわたり平和が続いてきた国内が、開国するか否かで大きく揺れ 動いた江戸時代末期。貧窮して藩を逃れ、農村で手伝いをしている浪 人の杢之進(池松壮亮)は、隣人のゆう(蒼井優)やその弟・市助(前田 隆成)たちと、迫り来る時代の変革を感じつつも穏やかに暮らしていた。 ある日、剣の達人である澤村(塚本晋也)が現れ、杢之 進の腕を見込ん で京都の動乱に参戦しようと誘いをかける。旅立つ日が近づくなか、無 頼者(中村達也)たちが村に流れてくる...。
(C)SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER
監督、脚本、撮影、編集、製作:塚本晋也
出演:池松壮亮、蒼井優、中村達也、前田隆成、塚本晋也
2018年/日本/80分/アメリカンビスタ/5.1ch/カラー
製作:海獣シアター
配給:新日本映画社