母の愛を求め続けた青年が起こした実話
映画『母さんがどんなに僕を嫌いでも』太賀さん×御法川修監督対談インタビュー

太賀さんの代表作になるような映画を作りたかった

小説家・漫画家の歌川たいじさんが実体験をもとに書き綴ったコミックエッセイ「母さんがどんなに僕を嫌いでも」を主演に太賀さん、その母親役に吉田羊さんを迎え、『すーちゃん まいちゃん さわ子さん』(’13)の御法川修監督がメガホンを執り映画化。
『南瓜とマヨネーズ』(’17)や『海を駆ける』(’18)など話題作への出演が続き、今作では親からも友達からも愛されたことがない青年・タイジを演じた太賀さんと御法川監督に、撮影を振り返って頂きながら作品への思いや今作を通して感じたことなどを語って頂きました。

画像: 左より御法川修監督、太賀さん

左より御法川修監督、太賀さん

ーー今作のタイトルや扱っているテーマに先入観を抱いてしまって、重めの作品なのかなと思っていました。ところが観始めてみると笑えるシーンも沢山あって、エンターテイメント作品になっていたので驚きました。

御法川:そうでしょ?(笑)。試写でマスコミの方々にご覧頂いた時は上映中に爆笑してくれたのに、観終わったあと皆さん改まって虐待問題を告発するような口ぶりになるんです。重い題材を扱っているので“おもしろい”と語るのを不謹慎だと思うのかもしれないけど、“たったひと言「好きです」と母に伝えるために一生懸命な男って可愛いよね”と素直に感じてもらえる方が嬉しいです。

画像: 御法川修監督

御法川修監督

ーーですが、原作者の歌川たいじさんが実際に体験したことを綴った今作でタイジ役をオファーされるというのは太賀さんにとって大きなプレッシャーだったのでは?

太賀:まず脚本を読ませて頂いた時に、全て活字だったこともあって悲しい物語という印象を受けたんです。更に実話を元にしているというハードルの高さに少し尻込みをしてしまいましたし、相当な覚悟が必要だなと最初は思いました。そのあと原作のコミックエッセイを読ませて頂いたら、歌川さんの絵のタッチから優しさや温かさを感じて、物語の本質はきっとここにあるんじゃないかなと思えたんです。この作品は悲しい物語ではなくて悲しみを乗り越える物語なんだと自分の中で腑に落ちてからは不安はなくなっていったというか。ポジティブな気持ちで向き合えば演じきれるんじゃないかという風に気持ちが切り替わっていきました。

画像1: 太賀さん

太賀さん

御法川:太賀さんのパブリックイメージって、骨太で硬派な印象ですよね。でも実はもの凄くデリケートな方なんです。誰もが見過ごしてしまうほど繊細な感情をひとつも取りこぼさず、悩みながら深く演じて、役柄の弱さや欠点を恐れずに表現してくださいました。キューッと身も心も絞るように演じる姿は、見つめる僕も苦しくなるほど切実で、映画の純度を高めてもらえたと感謝しているんです。

太賀:ありがとうございます。今回、演じることは簡単じゃないなと改めて思いましたし、歌川さんが感じた喜びや悲しみをどんなに小さな出来事でもひとつとしてこぼしたくないという気持ちで挑ませて頂いたんです。ただ、そのぶんシリアスなシーンになるとガーッと集中しすぎてしまって視野が狭くなるので、監督やスタッフさん、共演者のみなさんにご迷惑をかけたことも沢山あったのではないかと。そんな中でキミツ役の森崎ウィンくんや大将役の白石隼也くん、カナ役の秋月三佳さんは懸命に僕を支えてくださって、そのおかげでバランスを取りながら演じることができたのでありがたかったです。

画像2: 太賀さん

太賀さん

ーー母親の光子を演じた吉田羊さんとは現場でどんな風にコミュニケーションを取ってらっしゃったのですか?

太賀:大人になってからのタイジは母親と絶縁状態だったのもあって、羊さんとは必要以上にコミュニケーションを取らないようにしていました。だからこそとても良い緊張感の中でお芝居できたのではないかと。羊さんとは3度目の共演になりますが、ここまでガッツリ向き合ってお芝居するのは初めてだったので凄く楽しかったです。もちろん現場はシリアスな空気が漂っていましたし、あまり気持ちに余裕はなかったんですけど、終わってから“楽しかったな〜!”って(笑)。激しいシーンが沢山ありましたしね。

御法川:羊さんは容赦なく向かってきていたよね(笑)。

太賀:思いもよらなかったような引き出しをガンガン開けてくださいました(笑)。

御法川:羊さんは光子役を受けるにあたって、本作が扱う題材や演じる役柄に関心を示されたのはもちろんですが、オファーを受けてくださった一番の理由は“太賀さんとガッツリお芝居をしたい”ということでした。その彼女のモチベーションはとても誠実だと感じました。優れた才能は自分を奮い立たせてくれる相手を求めているんです。映画の魅力って、スクリーンに映る俳優たちの息遣いが高鳴る瞬間を感じる体験だと思います。どんな高尚なテーマを扱っていても映画自体が躍動していなければ、観ている人の心を震わせることはできないはずです。僕が映画を監督するうえで一番大切にしていることは、観客が“また会いたいな”という気持ちになる登場人物を造形することです。映画は世の中にメッセージを伝える“手段”ではありません。映画自体が“目的”なんです。一本の映画が生き物のように感情を宿し、手触りや香りだってあることを観客の方々に知ってほしいです。本作では太賀さんと羊さんのボクシングみたいな究極の演技合戦が観られますよ(笑)。

太賀:ボクシングですか(笑)。

画像3: 太賀さん

太賀さん

ーー日本映画を担うお二人がお芝居で対峙されているシーンはどれも胸が震えましたし圧倒されました。

太賀:そう言って頂けるのは凄く嬉しいです。

御法川:僕の映画では、芝居場を大事にしたいと思っているんです。芝居場というのは、映像テクニックを駆使する感覚的な表現を抑えて、登場人物たちが感情をぶつけ合うやり取りを押し通すことです。3.11以降を生きる僕らは虚構のドラマを楽しむことができなくて、現実のリアリティに縛られ過ぎている気がします。でも本当は、おおらかな感情表現に触れたい願望があるんじゃないでしょうか。空気を読んでばかりの現実を反映していたら“…と、私は思った”というモノローグが重なる映画だらけですよね(笑)。

太賀:確かに、そういうのは凄くわかります(笑)。

御法川:こっちは“…と、思った”という心の声をストレートな芝居で観たいのに!って(笑)。そんな僕自身の想いから、本作の脚本は芝居場を描き込むことに時間を費やしました。実話の映画化ではあるけれど、ドキュメンタリータッチではなく、感情をぶつけ合う登場人物のやり取りで劇が運ぶように再構成したつもりです。人との関わりが希薄な時代だからこそ、泣いたり笑ったり、飛び跳ねたり、感情を発露させる人たちを描きたかったんです。

画像: 御法川修監督、

御法川修監督、

ーー今年、太賀さんは映画『海を駆ける』や『50回目のファーストキス』(’18)、『十年 Ten Years Japan』(「美しい国」)(’18)やドラマ「今日から俺は!!」(’18)など様々な役柄に挑戦されていますが、今作は太賀さんにとってどんな作品になりましたか?

太賀:歌川たいじとして映画の中に入れたと自信を持って言える作品になりました。僕の中で歌川さんになることがタイジを演じるうえでとても大事でしたし、歌川さんの人生を映画の中で演じきれたらいいなと思ってやっていたところもあります。なので歌川さんのことを知っている方が今作を観て“太賀のタイジが歌川さんに見えた”と思ってくださったら、それが一番嬉しいことかもしれません。

御法川:太賀という俳優にとって現時点の代表作と呼べる作品に仕上げることが僕のテーマだったので、そこは期待して観てほしいです。一本の映画が万人から愛されるとは思っていませんが、太賀さん演じるタイジのことだけは観た人が必ず好きになってくれると思うんです。それくらい彼は魅力的。重い題材を扱っていますが、告発や啓蒙のメッセージを送るための映画だとは思っていません。抱きしめたくなるほど愛くるしい表情に満ち溢れた作品です。目の前のたったひとりの人を慈しむ気持ちを実感できることこそ、大きな力になると信じているので。

画像: 左より太賀さん、御法川修監督、

左より太賀さん、御法川修監督、

御法川修監督
1972年、静岡県出身。助監督経験を経て、映画『世界はときどき美しい』(07)で監督デビュー。その後、『人生、いろどり』(12)、『すーちゃん まいちゃん さわ子さん』(13)、『泣き虫ピエロの結婚式』(16)を発表。劇映画のみならず、ドキュメンタリー『SOUL RED 松田優作』(09)や、WOWOW放送の連続ドラマW『宮沢賢治の食卓』(17)、『ダブル・ファンタジー』(18)など幅広い話題作を送り出す。
人間を深く優しく見つめる眼差しと、笑って泣ける王道の物語を描きあげる確かな手腕に注目が集まっている。

太賀
1993 年、東京都出身。『那須少年記』(08/初山恭洋監督)で映画初主演 を果たす。14 年に第 6 回 TAMA 映画賞にて『ほとりの朔子』(14/深田 晃司監督)、『私の男』(14/熊切和嘉監督)などへの出演が評価され最優 秀新進男優賞を受賞。16 年には『淵に立つ』(深田晃司監督)で第 38 回ヨコハマ映画祭の最優秀新人賞を受賞した。ドラマや舞台、映画など 活躍の場は広く、カメラマンデビューも果たしている。主な出演作品に 『ポンチョに夜明けの風はらませて』(17/廣原暁監督)、『南瓜とマヨネ ーズ』(17/冨永昌敬監督)、『海を駆ける』(18/深田晃司監督)、『50 回 目のファーストキス』(18/福田雄一監督)など。

お二人の対談は、12月に発売するシネフィルブックvol.2で、より深い内容をご紹介いたします!

インタビュー・文:奥村百恵
写真:ナカムラヨシノーブ
編集:矢部紗耶香
◉太賀さん
ヘアメイク:高橋将氣
スタイリスト:山田陵太

映画『母さんがどんなに僕を嫌いでも』予告

画像: 太賀×吉田羊『母さんがどんなに僕を嫌いでも』予告 youtu.be

太賀×吉田羊『母さんがどんなに僕を嫌いでも』予告

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映画『母さんがどんなに僕を嫌いでも』あらすじ

タイジ(太賀)は幼い頃から美しい母・光子(吉田羊)のことが大好き。手間暇かけてつくってくれる混ぜご飯はタイ ジの大好物だ。だが、家の中にいる光子はいつも情緒不安定で、タイジの行動にイラつき、容赦なく手を上げる。夫との 離婚問題が浮上し、光子はタイジがいると不利になると思い、タイジは 9 歳にして児童保護施設へ入れられてしまう。

1 年後、良い条件で離婚した光子は、タイジとその姉・貴子を連れ、新しい家に出て行くが、そこでもまた不安定な生活を 送るようになる。17 歳になったタイジは、ある日光子から酷い言葉と暴力を受けたことをきっかけに、家を出て 1 人で生 きていく決意をする。

ただ、日々を生きているだけのタイジだったが、幼い頃に唯一自分の味方をしてくれた工場の婆ちゃん(木野花)と再 会し、自分を今も思ってくれる強く優しい想いに心を動かされる。努力を重ね、一流企業の営業職に就いたタイジは社会 人劇団にも入り、金持ちで華やかだが毒舌家のキミツ(森崎ウィン)と出会う。容赦なくモノを言うキミツに戸惑いなが らも、次第に心を開いていくタイジ。会社の同僚・カナ(秋月三佳)やその恋人の大将(白石隼也)とも次第に打ち解け ていく。大人になって初めて、人と心を通わせる幸せを感じたタイジは、友人たちの言葉から、自分が今も母を好きでい る事に気づき、再び母と向き合う決意をする。

長らく絶縁状態だった光子から連絡を受けたタイジは、光子の再婚相手の葬儀に出席するも冷たくあしらわれる。しか し、自分から変わることを決めたタイジは、食事をつくりに家へ通うなど母に寄り添い、もっと母のことを知ろうと叔母 のもとを訪ねる。そこで聞かされたのは、母の幼い頃の苦労。少しずつ距離を縮めていくタイジだったが、光子が亡き夫 の残した莫大な借金を背負っていることを知る。借金を巡って口論になった光子とタイジ。光子は弱っていながらも、ま たもタイジを拒絶する。しかし、そんな光子を見てタイジが取った行動は...。

©2018『母さんがどんなに僕を嫌いでも』製作委員会

11月16日(金)より
新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座、イオンシネマほか全国公開

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