定住せず、旅をしながら映画を構想し、辿り着いた地で映画を撮影する。「シネマドリフター」と呼ばれる映画監督リム・カーワイの新作『どこでもない、ここしかない』が、11月3日(土祝)より池袋シネマ・ロサで公開されます。

スロベニア・マケドニア・マレーシア・日本の合作でありながら、スタッフと予算は最小限。
キャストは素人を起用し、演出も即興。そんな独自で大胆な方法論ながら、人間を優しく繊細に見つめる眼差しに満ちた本作。

シネフィルでは、2017年まで好評いただいたシネマ・ドリフター林家威監督 「シネマ・ドリフターの映画旅日記」を新たにリム・カーワイの「シネマ・ドリフターの映画旅日記は続く」と改め、新たに今作の製作に至ったカーワイ監督の旅日記を公開に合わせ、緊急連載いたします。

シネマ・ドリフターの映画旅日記は続く

2016年

初めての商業映画「愛在深秋」(Love in Late Autumn)は中国全土で公開されてから、暫く中国の映画産業から離れようと考えていた。
この映画の2年間、製作では毎日映画会社と折衝しなければならなず、中国全土の公開にむけてはさまざまな審査や検閲もあり、それもまた一年以上かかった。実に多くの制限を受けながらの映画制作だった。
予算があっても自分が作りたいものは必ずしも実現できるとは限らない。なんか中国でメジャー映画を撮るにはとてつもないエネルギーが無駄に消耗されたと実感した。

気分転換するために、北京からロシアへシベリア鉄道のバックパッカーの旅を始めた。
はじめ、一か月ほどロシアを横断するというプランだったが、知らないうちに、東ヨーロッパ諸国に入り、さらに南のバルカン半島まで行ってしまった。結局三か月以上も放浪した。

画像1: シネマ・ドリフターの映画旅日記は続く

映画を通じて、例えばテオ・アンゲロプロスやエミール・クストリッツアの映画など、バルカン半島の歴史やユーゴスラビア紛争などを知ってはいたが、この地域は今でも不安定で、治安が悪く、戦争がまだも続いているという印象しか持たなかった。でも実は、恥ずかしながら、バルカン半島に行くまでにはスロベニアやモンテネグロという国の名前さえ知らなかった。

行って初めて分かったが、この地域が平和で治安もいい。人々はユーモラスで優しい。
そして、文化や建築や風景もアジアやほかの東ヨーロッパ諸国ともかなり違って、私には大変興味深く新鮮に映った。
旅行者として表面的な理解だったかもしれないが、現地で出会った人々から聞いた物語などもとても感心した。

画像2: シネマ・ドリフターの映画旅日記は続く
画像3: シネマ・ドリフターの映画旅日記は続く

最初、あそこで映画を作ることはまったく考えなかったが、アジアに戻ってから恋しく思い、戻りたかった。でも戻るためには理由が必要だ。映画監督の私には、映画を作るほかなかった。

画像4: シネマ・ドリフターの映画旅日記は続く

2017年

4月頃、夏に再びバルカン半島に戻り、長編映画を一本作ることに決めた。
しかし予算がない、脚本はおろか、企画書さえない。最初から、カメラマンが一人、録音技師が一人、スチールカメラマンが一人という最低限のスタッフ構成でやると決めた。

スタッフと未知のところを旅しながら、脚本や撮影スケジュールや香番表なども決まらないまま、旅途中で出会った人々と即興で映画を作るというようなまったく無謀な企画だった。
基本的に、このプロジェクトを開始した時、誰も実現できると信じてくれなかった。
私さえもこれで長編映画を撮れると信じなかった。しかし、開き直ったこともできた。たとえ映画を撮れなくても、これを一つ貴重な経験として、バルカン半島でヴァカンスを過ごすと考えると、とても楽になった。でも実際、撮影が開始して5週目に入ってから、スタッフの不満やストレスがピークに達して、いつ爆発してもおかしくなった時、私は本気に撮影を中止するとも考えていた。

バルカン半島を旅した時、色々な面白い人と出会った。
フェルディはその中の一人なのだ。リュブリャナに来た時、彼が経営していたゲストハウスに泊まった。当時、彼は独身だった。でも去年撮影が始まる前に、彼を訪ねると、ヌーダンともう結婚した。ヌーダンを紹介してくれた時、夫婦の話を作れるではないかと突然に閃いた。そして、すぐ二人を映画に出演してくれるように口説いた。
恐らく最初二人が私に出演のオファーをされた時、私がなにをやりたいかに疑っていたではないかと思う。逆に、どうせこれで映画を撮れるわけがないだろう、途中、あきらめることになるだろうと腹を括って、私の出演オファーに応じてくれるようになった。でも私は真剣だ。撮影するに従って、私の本気はますます二人にプレジャーを感じさせ、途中辞めたいとさえ言われた。
(つづく)

リム・カーワイ
マレーシアで生まれ、大阪大学卒業後は通信業界で働いていたが、北京電影学院卒業後、2010年北京で「アフター・オール・ディーズ・イヤーズ」を自主制作し、長編デビュー。
その後、香港で「マジック&ロス」(2010年)、大阪で「新世界の夜明け」(2011年)、「恋するミナミ」(2013年)を監督。2016年に中国全土で一般公開された商業映画「愛在深秋」(「Love in Late Autumn」)(2016年)を監督。
過去の作品は世界各国の映画祭以外、東京、大阪、ニューヨークのアート系劇場で特集を組まれたり、日本でも全国一般劇場公開されたりする。「どこでもない、ここしかない」はバルカン半島で撮影を敢行した初の作品であるが、今夏、再びバルカン半島へ渡り、セルビア、クロアチア、モンテネグロで長編映画7作目「Somewhen,Somewhere」を監督するなど、国境にとらわれない作品を続ける。

リム・カーワイ監督『どこでもない、ここしかない』予告編

画像: 映画『どこでもない、ここしかない』予告編「No Where,Now Here」trailer youtu.be

映画『どこでもない、ここしかない』予告編「No Where,Now Here」trailer

youtu.be

スロベニア・マケドニア・マレーシア・日本の合作でありながら、スタッフと予算は最小限。キャストは素人を起用し、演出も即興。そんな独自で大胆な方法論ながら、人間を優しく繊細に見つめる眼差しに満ちた本作を、同じく越境しながら作品を作り上げているクリエイターたちが語り合う。公開初日のオダギリジョーから、濱口竜介、舩橋淳、渡辺真起子、冨永昌敬、内田伸輝、相澤虎之助、田中泰延らが駆けつける予定。
あの『カメラを止めるな!』を放った劇場で、あらたなインディペンデント・ムーヴメントを巻き起こす夜が始まる。

◆アフタートーク・スケジュール (連日20:45分より上映開始 上映時間90分 連日リム監督登壇)

・第一夜:11月3日(土祝)20:45の回上映後 オダギリジョー(俳優)
・第二夜:11月4日(日)20:45の回上映後 濱口竜介(映画監督)
・第三夜:11月5日(月)20:45の回上映後 秦俊子(アニメーション作家)
・第四夜:11月6日(火)20:45の回上映後 向井康介(脚本家)
・第五夜:11月8日(木)20:45の回上映後 舩橋淳(映画監督)
・第六夜:11月9日(金)20:45の回上映後 渡辺真起子(女優)
・第七夜:11月10日(土)20:45の回上映後 冨永昌敬 (映画監督)
・第八夜:11月12日(月)20:45の回上映後 内田伸輝 (映画監督)
・第九夜:11月13日(火)20:45の回上映後 相澤虎之助 (空族・脚本家)
・第十夜:11月16日(金)20:45の回上映後 田中泰延 (青年失業家・写真者)

※追加のゲストは、決定しだい公式HPまたは劇場HPにて告知いたします。

【2018年/スロベニア・マケドニア・マレーシア・日本/カラー/DCP/90分】

【監督/編集】リム・カーワイ
【撮影】北原岳志【録音】山下彩
【音楽】Lantan
【音楽プロデューサー】渡邊崇

【出演】フェルディ・ルッビジ,ヌーダン・ルッビジ,ダン, アンニャ・キルミッスイ,アウグストゥス・クルースニック

【スチール】オーレリアン・バッティスティーニ
【宣伝美術】阿部宏史 【宣伝】contrail
【宣伝協力】梶田理恵
【製作/配給】Cinema Drifters

© Cinema Drifters
[2018/Japan, Slovenia, Macedonia, Malaysia/Color/DCP/90 min]

11月3日より池袋シネマ・ロサにて二週間限定レイトショー。
12月8日より大阪市ネ・ヌーヴォにて公開。

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