今年で10周年を迎える京都ヒストリカ国際映画祭。
第2回から映画祭のプログラムの中心にあるのが世界の最新歴史映画を紹介する「ヒストリカ・ワールド」。2月のヨーロピアン・フィルム・マーケット(ベルリン国際映画祭)や5月のマルシェ・ドゥ・フィルム(カンヌ国際映画祭)などのマーケットを中心にリサーチし、数百本の候補作の中から事務局によって年間5本から8本程度を選出。そのほとんどをジャパン・プレミア作品としています。
今年の「ヒストリカ・ワールド」については、先日の記事を参照。
(http://cinefil.tokyo/_ct/17213759)
今年は10周年を記念して、「ヒストリカ・ディケイド」という、これまで「ヒストリカ・ワールド」で紹介してきた作品を各年から1本づつ選出して、世界の歴史映画の変遷を感じてもらうプログラムを実施。
映画祭の後半を彩る珠玉の6作品にご注目ください。本記事では、映画祭の歴史を振り返りつつ、「ヒストリカ・ディケイド」の上映作品のご紹介をいたします。
『チョン・ウチ 時空道士』 チェ・ドンフン監督
第2回の映画祭で紹介したのは
『チョン・ウチ 時空道士』。太秦にある東映と松竹の撮影所を会場に、夜は“ガンガン”で暖をとりながら開催していた当時。
まだまだ歴史映画というジャンルを模索していた映画祭に、SFやタイムトラベルも歴史映画に内含されるということを気づかせてくれたファーストインパクト的な作品。
あらすじ
幽閉されていた妖怪が、神秘の笛を奪い脱走。道士ファダムは、笛と妖怪封印のため奔走するが、笛は巡り巡ってチョン・ウチの元へ。ファダムに師匠殺しの濡れ衣をきせられたチョン・ウチは、ふたつに折れた笛の半分を手に掛け軸に封印され、500年後、現代のソウルに復活する…。VFXとワイヤーアクションを縦横に使ったタイムトラベルは、手に汗握るシーンの連続で気の抜けるカットのない極上エンタメだ。
『黄山ヶ原』 イ・ジュニク監督
「ヒストリカ」というイベント名から「京都ヒストリカ国際映画祭」という映画祭を名乗り始めた第3回。イ・ジュニク監督の歴史作品の3本(うち2本はジャパンプレミア)を特集上映し、監督にも来日いただいたイ・
ジュニク監督イヤー。後にも先にもこれほどのイ・ジュニク監督シンパの映画祭は、この京都ヒストリカ国際映画祭以外にはないはず。
あらすじ
唐と手を組んだ新羅軍はキム・ユシン将軍のもと5万人の兵を率い、 キムの永遠のライバルであるケべク将軍率いる5千人の百済軍と罵倒合戦や人間将棋などを繰り広げるが、意外にも4戦4敗と厳しい戦いを強いられる。歴史映画のイメージを覆した名匠イ・ジュニク初の歴史映画。朝鮮半島の戦国絵巻をコメディテイストに描き、入り組んだ勢力図を戯画化することで、ドラマに結晶させることに成功した。
『アイアンクラッド』 ジョナサン・イングリッシュ監督
本格的に現在の会場である京都文化博物館での上映が始まるとともに、映画祭として新たなプログラミングの方向性を模索を始めた第4回。その中で出会った篭城戦を描いた『アイアンクラッド』は、まさにイギリス版『七人の侍』であり、『13人の刺客』。その年は関連上映で『七人の侍』や『羅生門』を上映し、日本の時代劇と世界の歴史映画の共通性に言及し、映画祭の新たな一面も生まれた(後の「ヒストリカ・フォーカス」というプログラムに繋がる)。また時は同じくして日本で生まれた籠城戦を描いた『のぼうの城』の樋口真嗣監督と『アイアンクラッド』のプロデューサーであるアンドリュー・カーティスとの刺激的なトークも記憶に新しい。
あらすじ
1215年、ジョン王は“マグナ・カルタ”で制限された王権を奪回しようとロンドンに迫った。彼らの勝利の前に立ちはだかるものは、もはやロチェスター城だけであった。選りすぐりの戦士たちは城と自由を守りきれるのか…。古今東西の戦争映画の粋は籠城戦にある。攻め手は多いほど、籠城側は少ないほどに萌えるもの。大手門と高楼を巡って続く戦いは籠城マニア垂涎だ!
『ソード・アーチャー 瞬殺の射法』 シュ・ハオフォン監督
第5回目にして、これまでのセレクション上映を「ヒストリカ・ワールド」というプログラム名に変更。その第5回で上映して、これまでの9回を振り返っても圧倒的な特異点として存在しているのが『ソード・アーチャー
瞬殺の射法』。『ソード・アーチャー瞬殺の射法』が持つ他を寄せ付けないユニークさと異質感は、まさに映画祭にとってのセカンドインパクトであり、第二幕の幕開けを告げる作品となった。
あらすじ
寺院で育った青年が外界で初めて出会った人間は、武術流派間の揉め事を仲裁する伝説の人物“ジャッジ・アーチャー”だった。弓術の修行を積み、一子相伝の称号を受け継いだ青年は、父親の敵を討ってほしいと依頼を受けるが…。いまや中国で最も視線を集める監督ともいえるシュ・ハオフォン。武術家でもあるその語り口は肉体も空間も自在に操る鈴木清順ばりのもの。その味を最も濃く見せる本作は稀に見る傑作だ!
『黄金』 トーマス・アルスラン監督
時代劇の歴史を塗り替えたと言ってもいい『るろうに剣心』3部作一挙上映
+大友啓史監督・谷垣健治アクション監督のトークショーを丸1日かけて実施する
という記念碑的な上映を実現した第6回。映画祭の事務局内ではスタッフの入れ替えもあり、「ヒストリカ・ワールド」の作品セレクションに新しい風が吹き始める。これまでの上映作品の多くがエンターテインメント作品だった中で、作家主義的な『黄金』は、その新しい風を象徴するようなプログラミングとなった。
あらすじ
1898年夏、ゴールドラッシュに沸くカナダ。エミリーは、ドイツ人入植者たちと共に金鉱のドーソン行きを決める。7人は案内人に全財産ともいえる大金を渡し、列車に乗った。彼らの目の前に広がるのは、果てしなく続くカナダの荒野だった。年齢も背景も様々な七人のなかに、女が一人。映画にもいろんなヒロインがいるものの、これほどクールな女性像は稀だ。北の果ての旅路に清らかな諦観を見てしまう佳品。
『彷徨える河』 シーロ・ゲーラ監督
「10回を迎えて一人前」という本映画祭の実行委員長の言葉も、そろそろ現実味を帯びてきた第7回の映画祭の目下の課題は、プログラミングの先鋭化であった。第6回から新たな柱としてスタートした「ヒストリカ・フォーカス」ではテレビ時代劇特集という大変、挑戦的なプログラミングを実施した。一方で「ヒストリカ・ワールド」では、これまでの本映画祭においては未開の地であった南米の歴史映画『彷徨える河』を発見した。
また後に作品に惚れ込んだ事務局スタッフの会社が配給し、日本公開にこぎつけたのも第7回の一つのエピソード。
あらすじ
先住民族の村で唯一の生き残りとなったシャーマンのカラマカテは、アマゾンの奥深くで独り暮らしていた。ある日、彼を頼り重篤な病に侵されたドイツ人民族学者がやってきた。彼らは幻の聖なる植物ヤクルナを求め、カヌーを漕ぎ出す。数十年後、孤独によって記憶や感情を失ったカラマカテは、アメリカ人植物学者と再び旅に出る。驚愕の世界観と圧倒的な映像美で、コロンビア史上初アカデミー賞®外国語映画賞ノミネートとなった話題作。
上記に加えて、前夜祭で上映の『バーフバリ 伝説誕生』は第8回のオープニング作品である。
これらの作品は、10年間、世界の歴史映画を見続けてきた京都ヒストリカ国際映画祭が自信を持って送り出してきた作品です。
「ヒストリカ・ディケイド」の作品が上映される10月30日(火)から11月2日(金)の映画祭の後半にも、京都文化博物館にご来場ください。
詳細は下記より