京都ヒストリカ国際映画祭で歴史映画に溺れよう!
西田宣善
京都でこの10年開催されている映画祭がある。世界各国から歴史もの、時代物だけを集めて、一般の映画ファンにも開放されているのが京都ヒストリカ国際映画祭だ。上映場所は京都文化博物館。
そのなかから、今年生誕120年を迎えた日本映画、いわゆる京都映画三巨匠の映画を紹介しよう。
まず、溝口健二。言わずと知れた世界的な巨匠。晩年「西鶴一代女」「雨月物語」「山椒大夫」の3本でヴェネチア国際映画祭3年連続受賞という快挙を成し遂げた。ヴェネチア映画祭とも提携しているヒストリカ映画祭。溝口の上映は必然だが、今年は山田五十鈴主演で、サイレント期の傑作「折鶴お千」ほか、現存する最古のサイレントの溝口作品「ふるさとの歌」、泉鏡花原作の名作「滝の白糸」も上映される。
伊藤大輔は凄まじい殺陣と社会的な問題意識を取り入れた作風が支持された真の映画作家である。今回はサイレント映画の名作が見ることができる。失われたとされていたが、近年再発見された超名作「忠次旅日記」、断片しか残っていない「幕末剣史 長恨」と同じく「斬人斬馬剣」である。これらのサイレント作品はたとえ断片であっても、その躍動感あふれる映像は必見である。
そして、今回改めて注目の監督が内田吐夢である。数ある彼の作品から2作を覗いてみよう。まず、「妖刀物語・花の吉原百人斬り」である。絢爛豪華な吉原の花魁たちのモブシーンが素晴らしいのであるが、ここで注目は脚本が溝口健二の主要な作品の脚本を書いた依田義賢であることだ。巧緻な構成は言うまでもないが、ここで興味深いのが、物語の中心に金を据えていることになる。花魁遊びをやる中で、次第に水谷良重の花魁に愛を注いでいく片岡千恵蔵は、芸者遊びが高じて持ち金がなくなっていく。加えて天災のおかげで自分の店の方も二進も三進もいかなかくなって、絶望に陥っていく。この流れを数字で具体的にこれまでもかと執拗に描き、逆に感動を覚えさせる。金をドラマの中心にして描くのは溝口健二のシナリオ手法であり、この吐夢作品は極めて溝口的な映画にもなっている。ここでクールな花魁を演じた水谷良重は美しく、素晴らしい。水谷の代表作の一つだと言われている。
「血槍富士」。島田照夫の殿様とお供の加東大介がふとしたことから争いに巻き込まれて、殺される。槍持ちの片岡千恵蔵は仇討ちのために槍を振りかざして戦っていく。前半は槍持ちに憧れる子どもを通して、ほんわかしたのどかな風景を描き、後半、一転してハードな戦い描写。緩急自在な演出が吐夢の真骨頂である。
なお、本作は戦後帰国して13年ぶりに監督復帰した吐夢監督の復帰第1作で、その応援のために、小津安二郎、清水宏が企画協力している(製作当時の資料には溝口健二の名があるが、完成版のクレジットにはない)。
吐夢作品では、他に「汗」「警察官」なども上映される。
このようにヒストリカは時代劇映画の宝庫である。
製作当時の評価を読んでも今見ると違って見えることも多い。再発見の旅に出ようではないか。
西田宣善 にしだのぶよし
京都生まれ。映画プロデューサー、編集者。キネマ旬報社を経て、有限会社オムロを設立。製作作品に『冬の河童』『無伴奏』ほか。2019年京都で撮影した最新作『嵐電』が公開される。現在、京都の宮帯出版社にて映画本を編集中。