旨味と苦味の人生劇場「秋刀魚の味」
もうすっかり秋の空気。
秋といえば、、、そう、秋刀魚ですね。
今回は今の季節にピッタリのタイトル「秋刀魚の味」をご紹介させて頂きます!
このタイトルの由来は諸説あって、製作会社側に先にタイトルだけでも決めてくれと言われて公開時が秋だからと理由で秋刀魚になったとか、劇中で登場する鱧の様な高級魚ではなく、庶民の味の秋刀魚=庶民の話だからだとか…
あとは秋刀魚は人生を表していて、美味しいけれど苦味(ワタ)もある。
というなんともおしゃれな考え方もあったり。
私はこの映画を見ると鱧のお吸い物が飲みたくなりますが(笑)
この作品は私が小津作品を好きになるきっかけとなった映画でして、独特の淡々とした台詞の言い回しや、シュールさに虜になりました。
この「秋刀魚の味」は小津作品の中でも少し作風が違うとファンの中では言われているようですが、コメディ要素が多いのかしら?そこが私の心を打ち抜いたポイントなのかなって。
※本文にはネタバレも含みますのでご了承ください
《あらすじ》
妻に先立れた初老の父親・平山周平(笠智衆さん)は友人の河合(中村伸郎さん)から24歳になる娘・路子(岩下志麻さん)への縁談話を持ちかけられる。
まだまだ子供だからと一蹴する父。しかし、そんな時に中学時代のクラス会で恩師・ひょうたん(東野英治郎さん)に再開。同じく妻に先立たれて、いいように使ったまま婚期を逃してしまった未だ独り身の娘(杉村春子さん)を持つひょうたんの現状を見て、ようやく娘を嫁にやる決意をする父・周平。
だが、路子は密かに想いを寄せていた人がいて…
その1【悲壮感、哀愁ただよう婚期を逃した女】・・・杉村春子さん
はい!出ました!杉村春子先生!
あぁ、もう秋刀魚の味で登場させちゃっていいのでしょうか。
でもでも、この方を取り上げられずにはいられないのです!
ダメダメ親父のひょうたんの娘なのですが、たった2シーンしか出てきません。
なのに何という存在感でしょう。
父を見る目線、帽子の置き方!それで全てを表現してしまうあっぱれさ!
「あの可愛いい娘さんどうしました?」の元生徒の質問からもかわいそう感が伝わってきますよね。
あぁ、昔はかわいくて引く手数多だったんだろうな…
なのにひょうたんがこき使うから婚期逃しちゃって、こんな父の面倒見させられて…可哀想…!
笠智衆さん演じる父に大きな影響をあたえます。
ひょうたんだけでなく、娘も登場するというのがトドメですよね。
「あぁはなりたくない」と言っちゃうくらいだから。(おいおい失礼)
でもそれが与えようと思ってやってなくて、あえて言うなら何もしていない。そこがいい。
ただただ、私の今はこうです!どうっすか?文句ありますか?くらいの勢い。
気合い入っちゃう私みたいな役者だったら可哀想に見られなければ!とか思って余計なことやっちゃうんですよね・・・うぅ、反省。
酔っ払った父を横目に見るシーンはもう格別。
帽子の置き方一つで感情がひしひしと伝わり、店の電気を消して一気に劇画チックになります。
悲壮感ハンパない!あの軽蔑した目は脳裏に焼き付いております。
表情一つで今までの人生や父・ひょうたんのことをどう思っているかが伝わるってすんばらしいです。役者の鏡です。あなたのお陰で路子は嫁に行けましたよ。
その2【いじられキャラの女将さん】・・・高橋とよさん
小津作品の女将さんと言ったらこのお方!
なんと「彼岸花」「秋日和」に続いて同じ若松という料理屋さんの女将という役で出演されています。
愛されてるなー。
私はこの方の佇まいがめっちゃ好きです。
ちょっと姿勢が悪くてグデっとした感じ(笑)
あれはやろうと思ってもなかなかできるもんじゃない!
でね、河合がいじりたくのが分かるあのぽけーっとした感じ。
あれ、どうやって出てんだ?
女将としての安定感とぽけーとした感じの愛嬌で観客のここを鷲掴み。
平山と河合が堀江が死んだと言って女将さんに嘘をつくシーンでは、女将さんと一緒になって騙されちゃう。
女将さんの反応がいい具合だからこそ!
あの3人トリオの中学時代を思い出させてくれるかわいい存在です。
その3【鼻の下伸ばしっぱなしの旧友】・・・北竜二さん
平山、河合と中学からの旧友で3人トリオの1人堀江先生。
このお方も妻に先立たれていますが、お若い後妻をもらって日々ルンルンでございます。
終始口が半開きでだらしなーい感が出まくってます。
こんなキャラ作りもあるのね、とこの方を見て思いました。
相当いいんでしょうな、若い奥さんが。
そんな堀江さん、平山さんに「最近のお前は不潔だ」と言われちゃいます。
確かに、謎の薬を使ってまで夫婦の営みを行おうとしているらしい素振りがちらほらあって”エロ親父”的な印象も受けますが、戦争に負けて復興と共にどんどん生活が変わってきている当時。
この映画は時代の変わり目をドンピシャで描いていると思うのです。
そんな中、若い妻(若い世代)に必死に着いていこうとしている堀江がなんとなく惨めというか無様というか、そんな風に見えたんじゃないかしら?と思うのです。
変わっていくのもいいよね、でも、俺らはそれに無理に着いていかなくてもいいんじゃね?みたいな。
娘を嫁にやるというテーマとは違ったもう一つの時代の代わり、世代交代的な映画のテーマがあって、それをやんわりと伝えてくれる存在だと思いました。
これはバーのシーンで出てくる加東大介さんとの連携プレーなんですけどね。あのバーのシーンも最高です。
笠智衆さんの「(戦争に)負けてよかったじゃないか」って台詞は名台詞だなと。
お風呂上がり姿の岸田今日子さんも可愛らしい。
3人トリオの中でも河合の方が色々物語を引っ張っていく存在だとは思うんですが、意外なところで活躍している。
それが飄々としただらし無さが漂うキャラクターで隠されておりました。
してやられた!
娘が家からいなくなってしまう寂しさ、老いというものや時代の移り変わりに抗えない孤独感など登場人物から色んなものを受けていってく周平。
ラストシーンで2階を眺めてから台所の後ろ姿で、それが全部伝わってきてしんみり切なくなる。
背中で語れる笠智衆さんの魅力よ!
あの覗き見ている感じのショットがまた良い。
この映画の面白さは与えて、与えられてっていう関係性の発見。
そして、題材的には切ないし寂しいのにユーモアに溢れている。
ザ・喜劇ではない”ユーモア”という言葉がピッタリの笑い。
それが心地よくて、小津安二郎監督の遺作として最高の作品だと思いました。
「秋刀魚の味」予告編
椿弓里奈(つばきゆりな)
1988年生まれ、京都府出身。大阪芸術大学短期大学部卒業後上京し、役者として活動。
主な出演作に【映画】「64-ロクヨン-」瀬々敬久監督、「PとJK」廣木隆一監督【TV】「でぶせん」日本テレビ・Hulu、「犯罪症候群season1」フジテレビ、「フリンジマン」テレビ東京など。
他に今年7月より同じ年の役者6名で”889FILM”を立ち上げ、様々な映画の既存の脚本を使ったワンシーンをyoutubeにて毎週土曜日に配信している。
所属事務所HP⇒http://www.jfct.co.jp/b_tsubaki.html Twitterアカウント⇒@bakiey