20 世紀の世界文学を揺るがした革命的なムーヴメント<ヌーヴォー・ロマン>の旗手として知られる、アラン・ロブ=グリエの映画監督作品を集めた特集上映「アラン・ロブ=グリエ レトロスペクティヴ」が、11 月下旬よりシアター・イメー ジフォーラムほか全国にて開催されます。
53 年に最初の長編小説『消しゴム』でデビュー以来、近代以降常識とされていた既存の枠組みを解体する小説を次々と発表、当時世界文学を席巻していたサルトル、カミ ュらに代表される<実存主義>に引導を渡した<ヌーヴォー・ロマン(新しい文学) >の代表的作家として、その作品群は後世にも絶大なる影響を与え続けています。
1960 年、アラン・レネ監督『去年マリエンバードで』(第 22 回ヴェネツィア国際映画祭 金獅子賞)のオリジナル脚本の執筆を契機に映画製作にも乗り出し、63 年『不滅の女』で映画監督デビュー。
倒錯的なエロティシズムを描き出す諸作で、作品を発表するたび、大きな注目を集め、世界文学・映画の最前線に立つカルチャー・ヒーローとして、圧倒的な人気を誇りました。
1986 年にはヴェネツィア国際映画祭で審査委員長を務め、 さらに 2004 年にはわずか 40 名しか定員のないアカデミー・フランセーズの会員に選出されるなど、ヨーロッパでの圧倒的な知名度にも拘わらず、その過激でスキャンダラスな描写のせいか、それ以外の地域ではほとんど上映の機会に恵まれませんでした。
没後 10 年となる 2018 年、ロブ=グリエの全監督作 9 本の中から代表作 6 本を一挙に上映致します。 ルイ・デュリック賞を受賞した監督デビュー作『不滅の女』(63)、ジャン=ルイ・トランティニヤン演じる麻薬の運び屋のドタバタ劇をメタフィクションとして描き、“最も成功した、理解しやすい実験映画”と評された『ヨーロッパ横断特急』(66)、ベルトルッチ『暗殺のオペラ』(70)と同じくホルヘ・ルイス・ボルヘスの短編集『伝奇集』の“英雄と裏切り者のテーマ”を下敷きに、オーソン・ウェルズの『審判』をパロディにした『嘘をつく男』(67)、カラー作品となり、めくるめくエロティックな幻想を色彩豊かな映像で表現した 『エデン、その後』(70)、アニセ・アルヴィナ演じるひとりの女性の受難劇をサディスティックに描き、その反倫理的な描写によってヨーロッパ各国で上映禁止となった『快楽の漸進的横滑り』(74)、ルネ・マグリットの同名の絵画をモチーフにした、官能的で幻想的なクライムサスペンス『囚われの美女』(83)をラインナップ。
この中で、『囚われの美女』以外の5作品は、未公開・未ソフト化となり、待望の本邦初の正式公開となります。 デヴィッド・リンチら後世の映画作家にも大きな影響を与えた、アラン・ロブ=グリエのアバンギャルドな作品は今なお鮮烈な衝撃をもって受け入れられることでしょう。
【アラン・ロブ=グリエ】
1922年8月18日、フランス、ブレストに生まれる。工場での強制労働、政府発行の経済誌の編集、 人口授精センターなど様々な職業を経て、農業技師として各国のフランスの植民地に滞在。51年、 フランスに帰国する船中で『消しゴム』(※1)を書き始め、53年にエディシオン・ド・ミニュイ社より刊行。
ロラン・バルト、ジョルジュ・バタイユに絶賛され、新たな文学運動<ヌーヴォーロマン>の旗手として一躍人気作家になると、続けざまに『覗く人』(55)、『嫉妬』(56)、『迷路の中で』(59、 ※2)を発表。
60年、アラン・レネ監督の勧めで『去年マリエンバードで』オリジナル脚本を執筆、 前衛映画の金字塔として今なお高い評価を得る。そのとき採用されなかった脚本をもとに、63年『不滅の女』を自ら制作、映画監督としてもデビューする。
同年、過去の小説を痛烈に批判した批評集 『新しい小説のために』を発表、理論的にも<ヌーヴォー・ロマン>の代表格となり、その後も精力的に、執筆・映画製作を行う。
1961年には、大映製作、市川崑監督の日仏合作映画『涙なきフランス人』の脚本のオファーを受け執筆、来日するも製作は頓挫し、幻の映画となった。
2004年、アカデミー・フランセーズの会員に選出される。
2008年2月18日、心臓発作で死去。享年85。
※1)『消しゴム』...光文社古典新訳文庫より発売中。中条省平訳、2013年刊。
※2)『迷路の中で』...講談社文芸文庫より発売中。望月芳郎役、1999年刊。
上映作品
『不滅の女』*劇場初公開
監督・脚本:アラン・ロブ=グリエ
出演:フランソワーズ・ブリオン、ジャック・ドニオル=ヴァルクローズ、カトリーヌ・ロブ= グリエ
1963年/フランス=イタリア=トルコ/モノクロ/スタンダード/101分 原題:L’IMMORTELLE
(c)1963 IMEC
『ヨーロッパ横断特急』*劇場初公開
監督・脚本:アラン・ロブ=グリエ
編集:ボブ・ウェイド
出演:ジャン=ルイ・トランティニャン、マリー=フランス・ピジェ(『アントワーヌとコレッ ト/二十歳の恋』『さよならの微笑』)、クリスチャン・バルビエール(『影の軍隊』)
1966年/フランス=ベルギー/モノクロ/ヴィスタ/95分 原題:TRANS-EUROP-EXPRESS
(c)1966 IMEC
『嘘をつく男』*劇場初公開
監督・脚本:アラン・ロブ=グリエ
編集:ボブ・ウェイド
出演:ジャン=ルイ・トランティニヤン
1968年/フランス=イタリア=チェコスロバキア/モノクロ/スタンダード/95分 原題:L’HOMME QUI MENT
(c)1968 IMEC
『エデン、その後』*劇場初公開
監督・脚本:アラン・ロブ=グリエ
編集:ボブ・ウェイド
出演:カトリーヌ・ジュールダン(『あの胸にもう一度』)、ピエール・ジメール、リシャール・ ルドウィック
1970年/フランス=チェコスロヴァキア=チュニジア/カラー/ヴィスタ/98分 原題:L'EDEN ET APRES
(c)1970 IMEC
『快楽の漸進的横滑り』*劇場初公開
監督・脚本:アラン・ロブ=グリエ
編集:ボブ・ウェイド
出演:アニセ―・アルヴィナ、ジャン=ルイ・トランティニヤン、マイケル・ロンズダール、 イザベル・ユペール
1974年/フランス/カラー/ヴィスタ/106分
原題:GLISSEMENTS PROGRESSIFS DU PLAISIR
(c)1974 IMEC
『囚われの美女』
監督・脚本:アラン・ロブ=グリエ
編集:ボブ・ウェイド
出演:ダニエル・メグイシュ、ガブリエル・ラズール、シリエル・クレール(『婚約者の友人』)、 ダニエル・エミリフォーク
原題:LA BELLE CAPTIVE
1983年/フランス/カラー/ヴィスタ/85分
(c)1983 ARGOS FILMS
配給:ザジフィルムズ