この度第75回ヴェネチア国際映画祭に『斬、』の監督・塚本晋也、主演・池松壮亮、ヒロイン・蒼井優、期待の新人・前田隆成が参加しました。今年のコンペティション部門は『ゼロ・グラビティ』アルフォンソ・キュアロン監督、『君の名前で僕を呼んで』ルカ・グァダニーノ監督、カンヌ国際映画祭「パルムドール賞」受賞のジャック・オディアール監督など名だたる世界の巨匠たちの新作21本が出品された。
9月7日(現地時間)に『斬、』のレッド・カーペット、公式上映、記者会見、フォトコールが行われ、映画の都イタリアで日本の時代劇が熱狂的に迎えられた。
前日の9月6日(現地時間)に行われたプレス向けの試写会は1400人規模の会場で行われ、世界中の評論家、ジャーナリストからも喝采を浴びた。塚本監督が会場であるリド島を歩けば、道端で様々なジャーナリストから絶賛のコメントを投げかけられたり、多くの映画ファンから握手やサインを求められたりするなど、現地での高い人気が伺い知れた。
9月7日(金)(現地時間)
■13:00記者会見Press Conference
場所:Palasso・デル・カジノ-3Fのプレスカンファレンスルーム
参加者:塚本晋也監督、池松壮亮、蒼井優
【記者会見】
Q:この映画の魅力、暴力に懐疑心がテーマだと思うのですが、一方で暴力描写が魅力的にも描かれているようにも思いました。その両義性がこの映画の面白いところだと思いますが、監督はどのようにお考えですか?
監督:『野火』はひたすら戦争の恐ろしさ、暴力を見せてうんざりだと思わせる作品でした。今度の映画はそうゆうわけではありませんが、僕の演じた役は今までの時代劇では、むしろ拍手喝采を送りたくなるような人物です。でもこの映画では、いい人として見終えるかどうかはかなり疑問があります。そうではないと思っています。そこは大事なところで、今までの時代劇とかヒロインには懐疑的な疑問を皮肉的に投げかけています。相手をやっつけて立ち上がるシーンは、自分で編集していても「ヨッシャー!」という気持ちになるんですが、多分お客さんもそういう気持ちになると思います。そういう気持ちで見てる人に段々と刃が突き刺さってくるような、そんな映画にできればと思っています。
Q:キャストの2人にお聞きします。これまで塚本監督の作品をご覧になって、どんな監督だと思っていましたか?実際にお仕事をしてどんな印象をお持ちになりましたか?
池松:僕が10代で役者を志した時に、監督はもう日本の最前線で映画を撮っていましたし、時代感覚や自分のスタイルを持って撮っている方という印象でした。こちらからお願いして仕事できる監督ではないと思っていたので、いつかどこかで想い続けて俳優をしていれば、お会いできるんじゃないかと思っていました。監督は本当にすごい才能をお持ちです。監督から出てくる言葉や動きの一つ一つを、見逃すまいと現場では夢中になっていました。
蒼井:役者を志す前に、すでに芸能事務所には所属していたのですが、私の家では映画を全く観ずに、クラシックバレエやクラシックコンサートなどにしか関わることができなかったので、お金がないのにお小遣いをためて、近所のレンタルビデオ屋さんでかたっぱしから映画を観ていました。『双生児』がその中の1本で、岩井俊二監督の『ピクニック』、坂本順治監督の『顔』、そして塚本監督『双生児』、この三本で私は自分が知らないこんにも面白い世界があったんだと、心が震えました。映画の世界に憧れを抱くことができました。塚本監督とお仕事ができるとは思いもしなかったです。音楽室に飾られているバッハの絵と変わらないくらい遠い存在で、日本映画界にいても、ものすごく遠い存在だったので、今回お話いただいてすごく怯みました。
■13:30フォトコールPhoto Call
場所:Palasso・デル・カジノ-3Fのプレスカンファレンスルーム
参加者:塚本晋也監督、池松壮亮、蒼井優、前田隆成
■レッド・カーペットRed Carpet
■17:00より 公式上映 Official Screening
場所:SALA GRANDE
参加者:塚本晋也監督、池松壮亮、蒼井優、前田隆成
公式上映
5分間のスタンディングオベーション
朝から降っていた雨が奇跡的にあがり、公式上映前のレッド・カーペットがスタートした。まずヴェネチア国際映画祭初参加となった池松壮亮が車から降りると待ち構えていた観客たちから歓声がわき、続く車両でヒロイン・蒼井優がピンクベージュ色の柔らかいドレスで華やかに登場、その後塚本晋也監督と新人俳優前田隆成が到着すると喝采がより大きくなった。会場前に詰めかけた多くの塚本ファンたちから「ツカモトー」と声をかけられると監督はサインや写真撮影に丁寧に答え、蒼井優の写真を持参しサインをお願いする外国人のファンも見られた。
満席となったメイン会場「SALA GRANDE」に、4人が入場すると大きな拍手が湧き起こり、監督・キャストの名前が読み上げられ、その後約1000人の観客と一緒に『斬、』を鑑賞。上映後、エンドロールが始まると大きな拍手が湧き起こり、約5分間にも及ぶスタンディングオベーションで熱烈に歓迎され、退場するまで拍手が鳴り止まないほどの盛り上がりをみせた。
興奮冷めやらぬ公式上映直後、塚本監督は「撮影の時の俳優の演技が本当に素晴らしかったので、胸を張って堂々ときました。やっと初めてのお客様に観ていただけて晴れ晴れしくホッとした気持ちです。その場にいたお客様があたたかい雰囲気だったので、僕自身も楽しめました。すごく大きな反応を頂けた。」と語った。
主演の池松は「あっという間の出来事でまだ咀嚼できてないですが、上映後に観客の顔を見たときに撮影のことを思い出しました。今はただただ光栄です。この4人でヴェネチアに来れたことは、とても幸せです。いま噛み締めています。」ヒロインを務めた蒼井は「(撮影現場の)山道を歩いていた私たちが、レッド・カーペットの上を歩いているなんて不思議な気分です。塚本監督の作品に参加できるだけで幸せなのに、こんな素敵な島に連れて来て頂けて、観客の反応を見た今もまだ夢みたいです。エンドロールが始まった瞬間からスタンディングオベーションが始まるなんて想像もしていなかった。この場にいれることに、監督に感謝しかないです」。
期待の新人俳優の前田は「生まれて初めてサインしました(笑)。素晴らしい場所に立たせて頂いて夢みたいです。映画に出演したのも初めてで、貴重な体験をさせてもらい本当に感謝しかないです。」と涙ぐんだ。
公式サイトの動画
【映画祭概要・塚本晋也監督ヴェネチア履歴】
●ヴェネチア国際映画祭:イタリアのヴェネチアで開催されるカンヌ国際映画祭、ベルリン国際映画祭と並ぶ世界三大映画祭の一つで、世界最古の歴史を持つ。最高賞には金獅子賞が与えられ、昨年『シェイプ・オブ・ウォーター』で同賞を受賞したギレルモ・デル・トロ監督が今年の審査員長に任命されている。9月8日夜(現地時間)に受賞式が開催される。
●塚本晋也監督のヴェネチア国際映画祭履歴:1997年北野武監督が『HANA-BI』で金獅子賞を受賞した年にメインコンペティション部門の審査員を務める。その後、『バレット・バレエ』(98)プレミア上映、『双生児』(00)プレミア上映、『六月の蛇』(02)コントロコレンテ部門(のちのオリゾンティ部門)審査員特別大賞 受賞、『ヴィタール』(04)プレミア上映2005年はオリゾンティ部門審査員。『鉄男THE BULLET MAN』(09)コンペティション部門出品、『KOTOKO』(11)オリゾンティ部門 最高賞のオリゾンティ賞を受賞、『野火』(14)をコンペティション部門出品、『斬、』で4年ぶり3度目のコンペティション部門出品を果たした。
塚本晋也監督 主演:池松壮亮×ヒロイン:蒼井優の時代劇『斬、』特報
世界中に多くのファンを持つ塚本晋也が、戦争の恐怖をあぶり出した『野火』を経て、さらに時代を遡り初の時代劇に挑んだ。監督、出演、脚本、撮影、編集、製作を務めた完全オリジナル作品。物語の舞台は、250年にわたり平和が続いてきた国内が、開国するか否かで大きく揺れ動いていた江戸時代末期。江戸近郊の農村を舞台に、時代の波に翻弄されるひとりの浪人と彼に関わる人々を通して、生と死の問題に迫る衝撃作。
塚本の熱い想いに応えるべく、文武両道で才気あふれる浪人を、渾身の力で演じたのは池松壮亮。昨年に主演した『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』は高い評価を受け、今年も『万引き家族』、『君が君で君だ』、『散り椿』など話題作への出演が続いている。浪人の隣人である農家の娘を演じるのは『彼女がその名を知らない鳥たち』や山田洋次作品で活躍し、日本アカデミー賞に4度輝いた演技派女優の蒼井優。
不穏な時代に精一杯生きる農家の娘を凛とした美しさで体現している。共に本作で初めて塚本作品への参加を果たした池松と蒼井のぶつかり合うような演技合戦も圧巻だ。
監督、脚本、撮影、編集、製作:塚本晋也
出演:池松壮亮、蒼井優、中村達也、前田隆成、塚本晋也
2018年/日本/80分/アメリカンビスタ/5.1ch/カラー 製作:海獣シアター
配給:新日本映画社
(C)SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER