cinefil連載【「つくる」ひとたち】インタビュー vol.3
「つくる」ひとたち連載第3回目は、高杉真宙さん主演で現在公開中の映画『世界でいちばん長い写真』の監督、草野翔吾さんと、音楽担当の作曲家の加藤久貴さんの対談インタビュー。
高校時代の同級生というお二人が、『世界でいちばん長い写真』という作品でタッグを組んだことへの想い。「音楽で一緒に青春をしようと思ったんです」と語る、ひとつひとつの音づくりに込めた気持ちや映画音楽との向き合い方などをお話いただきました。
ーーまずはじめに、監督・作曲家を志した切っ掛けを教えてください。
草野:久貴とは高校の同級生なんですけど、高校3年のとある昼休みに教室で久貴が、楽譜を広げていたんです。「何それ?」って聞いたら「映画音楽を作りたい」ってハッキリ言ってたんですよね。その時にノリで、「じゃあ、早稲田は映画が有名らしいから、もし受かったら俺が映画撮るわ!」って言ったんです。その時のことを久貴は覚えてないみたいなんですけど(笑)。その後、無事に受かって、新歓の時期に久貴との会話をふと思い出し、映画サークルの上映会に行ったんです。そこで、先輩が撮った作品を見て「俺も撮ってみたい!」と思い、映画研究会に入りました。それが映画を作り始めた切っ掛けですね。
ーーすごく素敵なエピソードですが、加藤さんは覚えていないと(笑)。
加藤:あの頃は音大に行く決意をして、「映画音楽をやるぞ!」ってことに必死すぎたので覚えていなかったんだと思います(笑)。
ーー卒業した後も、連絡は取りあっていたんですか?
草野:成人式とか同窓会とかで1~2回は会っていたかもしれないですけど、まともに連絡を取ったのは、初めて自分の映画に曲を作ってもらおうと思った(大学3年の)時ですね。
加藤:「今、やってるの?(監督・映画音楽を)」っていう確認をお互いしあいましたね。
草野:そもそも久貴はエレクトーンを続けて行く中で、なんで「映画音楽」だったの?
加藤:父が文学部出身なこともあって、収集した書籍や映画のビデオテープが自宅の書棚に色々と並んでいて。高校の頃、何気なくそのビデオを観ていく中でいろんな素晴らしい作品に出会ったことが大きかったです。『セブン・イヤーズ・イン・チベット』とかを観ていて特に音楽に感動したのが切っ掛けでしたね。それ以来、気になった映画は監督や作曲家が何歳の時に作った作品なのかを調べるようになって、こんな若い時にこれを撮ってたんだ・・・!って衝撃を受けてのめりこんでいきました。
ーー監督をしたいとか、出演してみたいとは思わなかったのでしょうか?
加藤:映画監督をやってみたいなとは少し思ったことはあったんです。でも、草野くんの作品を観て僕には無理だなって思ったんですよね(笑)。彼のスキルや仕事の幅の広さだったり、周りをまとめる統率力とか。大きな渦の中に自身のクリエイティブな思考を落とし込んでいって、ひとつの作品を作っている姿を見て、自分にそれは出来ないってその時感じちゃったんですよね。僕はそんなに器用な方でもないから、ひたすらひとつのものを横道逸れずにいかないと、逆に周りの天才と勝負できないってその時思ったんです。
ーーそもそも映画音楽って、どうやって作っていくんですか?
加藤:今回の話で言うと、まずは音楽が何にもついてない状態の映像を草野くんと一緒に観て、大体どの辺りに音楽を入れるか簡易的なメモを取りました。その後、映画に関しての理解を深めようと思って飲みながら色々話しましたね。『世界でいちばん長い写真』からは、生き生きとした本物の空気感を感じたので、僕も音楽で一緒に青春をしようって思ったんです。
ーー草野さんは、加藤さんからのはじめの提案を受けて、どう感じましたか?
草野:凄く良いな、と思いました。一緒にやりはじめてからもう13~14年くらい経ってるんですけど、最初の頃は、僕が「ここにこういう曲を!」とか、既存の曲を渡して「この曲をピアノで!」という感じでお願いしていたんです。今思うと、失礼なんですけど(笑)。でも、今回は久貴が一緒にやってなかった期間、培ってきたものをまずは知って、それを生かしたいという気持ちがありました。だから「どこに音楽を付けたいと思った?」って、まず聞かせてもらって。やっぱり曲の付けどころって、作品をすごく左右するので。
ーー今作の音楽からは、軽やかでのびやかな印象を受けました。
加藤:なるべく宏伸たちと一緒に音楽も進んでいきたかったので、あんまり身近に無いような楽器は使わないようにしようって思ったんですよね。今回は木管・金管・弦楽器、ピアノ、アコースティックギター、とか。皆さんが知っているような楽器を中心に、知多半島の雰囲気が出せたらいいなと思って。
草野:一緒にやる時は、大体いつも僕からコンセプトとか禁止事項を伝えているんです。『ボクが修学旅行に行けなかった理由』の時は、音楽室にありそうな楽器以外禁止とか(笑)。だから今回は久貴の方から「身近な楽器で」とか「親しみ易い感じで」とか決めてくれたから、安心できました。音楽も一本筋が通っている方が好きなので。
加藤:今回はコンセプトも軸もハッキリしている映画だと思ったので、楽器のコンセプトも決めておこうと思っていました。
ーー宏伸が初めてリサイクルショップでパノラマカメラに触れる時の音が、高杉さんの表情とすごくマッチしていて印象深かったのを覚えています。
加藤:あのシーンの曲で鳴っているパーカッションっぽい「カッチャカッチャ」って音は、実際のマミヤカメラの音なんです。
ーーえっ!そうなんですね、すごい!
加藤:レンズの開け閉めとか、フィルムの出し入れとかの音の素材を録音部さんから全部頂いて、僕の方でリズムを組みました。マミヤのカメラも宏伸たちと一緒に旅させたいなって思ったんです。作るのにものすごい時間かかりました(笑)。
草野:最初に打ち合わせした時からアイディアとして出してたよね。その時僕は「何言ってんだろうなー?」って思ってたんですけど(笑)。
ーー曲に関して、どんな話し合いをされましたか?
草野:久貴の曲はあたたかみがあって、素朴ながらも広がりのあるみたいな、久貴の人間性が出てるんですよね。そして、シンプルに聞こえるんだけど、実はものすごく複雑で、一筋縄ではいかないところも魅力的なんです。今回もたくさん意見は言ったけど、今までよりは久貴の曲との接し方がわかった気がしましたね。
加藤:すごく嬉しい(笑)。
草野:あと『からっぽ』や『ボクが修学旅行に行けなかった理由』に引き続き、今回もミュージシャンを呼んでほとんど生音でレコーディングをしているんです。そうすることで、メロディだけでなく、音の質感みたいなものがちゃんと表現されると感じます。土の匂いであるとか、風の雰囲気とか、僕も映像の質感を大事にしているので。
加藤:音の質感みたいなところは、僕は結構草野くんから影響を受けているんです。スクリーンは平ですけど、登場人物たちはみんなで情熱を持ったまま、奥に進んで行く感じがしたんですよね。その奥行きっていうのを、音楽でも一緒に出していきたいなと思ったんです。
ーー『世界でいちばん長い写真』は、サントラも発売されているんですよね。
草野:自分の映画のサントラがCDになるのは初めてなので、めちゃくちゃ嬉しいです。サントラを聞きたくなる映画が好きなんですよね。学生のときからずっと、聴くとシーンを思い出すみたいな映画音楽が好きで。
加藤:あと、知多半島の高校の和太鼓部さんが演奏した楽曲(和太鼓集団「志多ら」の大脇聡さん作曲)も入れているんですよね。
草野:全国1位の和太鼓部なんだよね。はじめて生で聞いた時、泣いたもん。
ーー和太鼓とても記憶に残りますよね。そして、「写真」を映画で表現している終盤のシーンはとても感動しました。
草野:あの方法思い付いた時「わあーーーー!!!!」ってなりました(笑)。あのシーンは編集の時に思い付いたんですよ。撮影の相馬さんと「ニューストップモーション」と勝手に名付けました(笑)。
加藤:そこに和太鼓もついて、ものすごく印象的で忘れられないシーンになりましたよね。
草野翔吾
1984年生まれ。群馬県出身。早稲田大学社会科学部卒業。在学中より、監督作が一般劇場で上映される。
2012年、公開の長編映画『からっぽ』が国内外の映画祭で上映。2016年には人気漫画を原作とした『にがくてあまい』を監督した。
映画以外の映像作品も多数手掛け、THE BAWDIES「NO WAY」のミュージックビデオは、「SPACE SHOWER MUSIC VIDEO AWARDS」の「BEST VIDEOS」 に選出された。
加藤久貴
作曲家。1984年、群馬県出身。国立音楽大学作曲専攻卒業。様々な映画作品に影響を受け、高校の頃より作曲家を志す。
多くのCM音楽を手掛けており、主な作品に、日清カップヌードル SURVIVE!、大和ハウス「太陽を集めた男」篇、HOME’S「ホームズ登場」篇、スカパー!「堺さん 宣言」篇、等。
その他、WOWOWドラマW『稲垣家の喪主』の音楽や、映画音楽では、『スマグラー』(11)、『流れ星が消えないうちに』(15)、『スプリング、ハズ、カム』(17)、『四月の永い夢』(18)などを手掛けている。
©2018 「世界でいちばん長い写真」製作委員会
映画『世界でいちばん長い写真』
6月26日より全国公開中
http://sekachou.com/
STORY
高校写真部の内藤宏伸(高杉真宙)は引っ込み思案がたたり、部長の三好奈々恵(松本穂香)に怒られるばかり。人物写真をテーマにした写真品評会も人を撮るのが苦手な宏伸にとっては苦痛でしかなかった。しかし、高校最後の夏休みのある日、宏伸は従姉の温子(武田梨奈)が店長をしているリサイクルショップで今まで見たことがない大きなカメラを見つける。カメラの使い方がわからない宏伸は温子の勧めで近所の写真館の店主・宮本(吉沢 悠)を訪ね、このカメラは360度長い写真が撮れるよう改造された世にも珍しいパノラマカメラだということが判明する。宮本に使い方を教えてもらい、宏伸はパノラマカメラで最初の360度写真を撮影する。現像した写真を見て、いままでにない感動を感じた宏伸は次の日から360度撮影したい景色を探して街を自転車で駆け巡る。ようやく辿り着いたのは温子の旧友、智也(水野 勝)が育てるひまわり畑だった。
===
cinefil連載【「つくる」ひとたち】
「1つの作品には、こんなにもたくさんの人が関わっているのか」と、映画のエンドロールを見る度に感動しています。映画づくりに関わる人たちに、作品のこと、仕事への想い、記憶に残るエピソードなど、さまざまなお話を聞いていきます。時々、「つくる」ひとたち対談も。
矢部紗耶香(Yabe Sayaka)
1986年生まれ、山梨県出身。
雑貨屋、WEB広告、音楽会社、映画会社を経て、現在は編集・企画・宣伝・取材など。TAMA映画祭やDo it Theaterをはじめ、様々な映画祭、野外映画イベント、上映会などの宣伝・パブリシティ・ブランディングなども行っている。また、「観る音楽、聴く映画」という音楽好きと映画好きが同じ空間で楽しめるイベントも主催している。