「明日にかける橋」という題名から連想されるのは、サイモン&ガーファンクルの同名ソングだろうが、本作はそれとは無関係。
橋が時間のポータルになっていて、三人の時間旅行者が過去にもどって人々と接触し、行動することで、未来が変わっていくというタイム・トラヴェルSF映画だ。
バブル景気で湧く1989年、静岡県の地方都市。高校生の吉行みゆきが弟の健太にむかっ腹を立てて、「あんたなんか、死ねばいい」と毒づいたその日に弟はトラックにはねられて死亡。
以来、母は心を病んで病院暮らし、独立して自動車整備工場を始めた父も経営がうまくいかず、会社は倒産して酒浸りになっていた。
2010年、地元の中小企業のお局OLになっているみゆきが家計を支えていた。同僚のアヤカ、達也と酒を飲んだ帰り、明日橋に来てしまった。かなり大きいけれど、てすりもない、ただ橋幅の狭い木造の橋だが、この橋には全力で走れば願いが叶うという言い伝えがあった。弟の死をずっと引きずっていたみゆきが走ったら、過去に戻っていた。みゆきはなんとかして弟をたすけ、父母をみじめな状態から救おうとし、一緒に走ったアヤカ、達也も協力することに。
なにゆえ、時間をさかのぼれたのか、といった理由はどうでもよく、とにかく過去に未来の人間が投入されたことで起きる珍騒動が笑いを招き、意外な真実が明らかになるという仕組みの作品だ。
家に戻ると、弟はまだ死んではおらず、高校生のみゆきも暴言を吐かなかった。やれやれと安堵したものの、歴史は三人の干渉を許さず、なんとか元の時間列にもどそうとして、今度は健太が誘拐されてしまう。
過去にもどったことを確認する場面、突然出現した三人組が誘拐犯だとあやしまれるところが面白い。
ただし、三人組を追いつめた町民が、それぞれ傘、バット、箒といった得物を手に彼らに対峙する場面では、それらで襲いかかるのかと思ったら、ただつったっているばかり。誘拐犯だって身代金を受け取る時は細心の注意を払うべきなのにただ取りに出てくるだけ。細かな描写に甘いところが散見されるのが残念。かといって、箸にも棒にもかからぬ作品ではなく、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」(85)大好きな里美先生とか、太っ腹で親切な尾形社長といった脇のキャラが面白く、娘を思う父の大いなる親心が明らかになるメロドラマ部分も泣かせる。
1989年当時のヒット曲、ヒット映画がストーリーに織り込まれ、ノスタルジーを感じさせた。「銀行はつぶれない」と考えていた89年の人に「つぶれるよ」と教えて呆れられるギャグは、同じタイム・トラヴェル映画「バブルへGO!! タイムマシンはドラム式](07)にもあったっけ。
過去にもどって歴史に干渉するなかれというタイム・トラヴェルの不文律など一切顧みず、みゆきは家族の幸せを追求する。彼女が現在にもどったとき、一家の運命はどう変わっているだろうか。
高校時代のみゆきに越後はる香(本作で映画デビュー)、21年後のみゆきに鈴木杏(うーん、あんまり似てない)が扮している。両親を板尾創路と田中美里、里見先生を藤田朋子、尾形社長を宝田明が演じている。
監督・脚本は「朝日のあたる家」(13),「向日葵の丘 1983年夏」(14)を手掛けた太田隆文。
北島明弘
長崎県佐世保市生まれ。大学ではジャーナリズムを専攻し、1974年から十五年間、映画雑誌「キネマ旬報」や映画書籍の編集に携わる。以後、さまざまな雑誌や書籍に執筆。著書に「世界SF映画全史」(愛育社)、「世界ミステリー映画大全」(愛育社)、「アメリカ映画100年帝国」(近代映画社)、訳書に「フレッド・ジンネマン自伝」(キネマ旬報社)などがある。
[STORY]
主人公のみゆき(鈴木杏)は30代のOL。とある田舎町で暮らしている。 弟・健太(田崎伶弥)が交通事故で死んでから家族は崩壊。母(田中美里)は病気で入院。 父(板尾創路)は会社が倒産、酒に溺れる。みゆきが両親を支え働く日々。
そんな2010年の夏のある日、夢がかなうという明日橋を渡ったことでなんとタイムスリッ プ!
弟が死んだ1989年に戻ってしまう。バブル全盛の時代。 そこで出会う若き日の両親と元気な弟と若き日の自分(越後はる香)。 みゆきは、もし、この時代で健太を救うことができれば、家族を救うことができるかもしれ ないと希望を見出すが、その先には、様々な困難が待ち構えていた。
鈴木杏 板尾創路 田中美里 越後はる香 藤田朋子 宝田明
草刈麻有 冨田佳輔 田崎伶弥 長澤凛 弥尋 山下慶 山本淳平 天玲美音 大石千世 栩野幸知 宮本弘佑 岡村洋一 嵯峨崇史 増田将也 本間ひとし 真木恵未 遠藤かおる
●監督・脚本・編集・プロデューサー:太田隆文
●アソシエイトプロデューサー:小林良二
●撮影:三本木久城 ●照明:いしかわよしお ●録音:植田中 ●美術:竹内悦子(A.P.D.J) ●衣裳:丸山江里子
●ヘアメイク:大久保恵美子 ●制作担当:酒井識人 ●助監督:富澤昭文 ●題字:大石千世
●音楽:遠藤浩二 ●音響・効果:丹雄二
●制作:青空映画舎
●配給:渋谷プロダクション
©「明日にかける橋」フィルムパートナーズ
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