プロデューサーにとって大事なこと
先日ふと、映画のプロデューサーにとって大事なことは何かを考える機会がありました。
大枠として、①質の高い映画を作ること、②映画製作に関わる関係各位(製作資金の出資者を筆頭に)へ必要十分な経済的利益を還元すること、この2点が主な事項かと思っています。
①に関して、単に”質の高い”と言ってもそこには絶対的な尺度は存在しませんし、個々人の主観による良し悪しがあります。ただ映画をコンテンツとして考えると、質としてある程度多くの人に支持され、ある程度多くの人に視聴してもらうことで、②に該当する必要十分な経済的利益を確保することがゴールになってくると思います。
それを実現する為に必要なスキルとして、皆が驚き興味を惹かせるような創造力も勿論大事ではありますが、それと匹敵する位、”最大公約数的な感覚を持つ”ことが重要だと私は考えています。多くの人に支持されるためには、その多くの人の価値観にその映画が受け入れられなければならない為です。
※ちなみにこのような偉そうな事を書いておりますが、特に前述②の尺度において、私は残念ながら今のところ全く優秀とは言い難いプロデュース歴を歩んでいます。また、映画も作品によって展開規模やジャンルが様々なので、最大公約数と言っても作品に応じて”何を分母として考えるか”という、感覚のシフトチェンジみたいな能力がプロデューサーには必要です。
映画における女優
あまり誇れるスキルも経歴もない私ですが、唯一自信を持っているのは女優を見る目です。
とは言っても何か特出した能力があるということではなく、極めて平均的な感覚を持っているという意味です。女優も映画の質と同様に、多くの人に好かれる普遍性がなければ映画の顔として成り立たないと考えています(勿論男性俳優も)。
前置きが長くなりましたが、連載5回目となる今回は、私が注目する女優を独断的にご紹介させて頂きます。
アメリカに滞在していると日本で公開される予定のない作品にも出会う事がありますが、まだあまり広くは知られていない女優二人が主演の瑞々しい良作を発見しました。
タイトルは「Thoroughbreds」。Olivia Cooke(オリヴィア・クック)とAnya Taylor-Joy(アニャ・テイラー=ジョイ)の二人が主演を務めています。
写真右がオリヴィア・クック。1993年イングランド出身です。
とにかく演技が素晴らしい。様々な役にマッチする能力が備わっています。きっとこれから先も沢山の監督に愛されると思います。
これまで彼女の出演作は「シグナル」や「切り裂き魔ゴーレム」などが日本でも公開されていますが、他はDVDスルーの作品も多く、まだ日本ではそこまで馴染みがないかと思います。いくつか日本でも観られる出演作の予告をご紹介します。
写真左がアニャ・テイラー=ジョイ。1996年アメリカ出身です。
彼女の特徴は高貴さを感じさせる個性的な顔立ち。スカウトされモデルからキャリアをスタートさせますが、すぐに映画「ウィッチ」への出演が決まり何とそれが主演デビュー。チャンスを引き寄せる力を持っているなと感じさせます。M・ナイト・シャマラン監督の「スプリット」にも出演していたので、それで知っている方も多いのではないでしょうか。日本で観られる彼女の出演作のいくつかの予告編をご紹介します。
実は珍しい?ティーンエイジャーの女性バディムービー
映画「Thoroughbreds」は、そんな超有望株女優二人が素晴らしい化学反応を見せる作品。
幼少時代の友人だったアマンダ(オリヴィア・クック)とリリー(アニャ・テイラー=ジョイ)はティーンエイジャーとなって再会。アマンダは機知に富んだ変わった性格、リリーは洗練された上層階級で感受性豊か。そんな二人が、弾圧的なリリーの継父、マーク(Paul Sparks)に対しての憎悪から恐ろしい計画を考え始める、というストーリー。
実は女性二人がメインの映画ってあまり多くないなと思ってまして。
「サニー 永遠の仲間たち」や「ピッチ・パーフェクト」など、女性グループがメインとなる映画はありますが、ティーンエイジャーの女性コンビものって意外と少ない気がします。個人的には「花とアリス」が大好きという事もあり好みの構造。
映画は、このタイミングでこの二人が巡り合って良かったと思わせる出色の出来でした。ビジュアルも音楽もストーリー展開も、かなり個性的な作品です。監督・脚本のCory Finley氏はこれが監督デビュー作。日本での公開が未定の為字幕がないのですが、予告もスタイリッシュな仕上がりになっているので是非ご覧下さい。
ハリウッド大作映画へ
この二人、「Thoroughbreds」含めていわゆるインディペンデント映画への出演が多かったのですが(「スプリット」は大手メジャーですが)、いよいよハリウッド大作映画に進出です。
オリヴィア・クックはスピルバーグ監督作のヒロインへ!「レディ・プレイヤー1」
アニャ・テイラー=ジョイはX-MENシリーズの主役に抜擢!「The New Mutants」
こういう活躍ぶりを見ると、やはり自分の見る目は間違っていなかったなと勝手な優越感に浸っています(笑)もし今後「Thoroughbreds」が日本で観られる機会がきましたら是非鑑賞される事をおススメします!
すべての俳優・女優に学びとチャンスを mirroRliar (ミラーライアー)
女優の話からの流れで加えてご紹介させて頂きたいのが、過去に映画でご一緒した会社が新しく始めたサービスのmirroRliar(ミラーライアー)です。俳優や女優・役者を目指す方を応援するサービスで、映画のオーディションやワークショップ動画の配信、監督や脚本家のコラム、役者と映画関係者が交流できる場を提供しています。
このサービスに3月から、ACTORZ(アクターズ)という機能が追加されました。
“365日、毎日がオーディション”をテーマに、女優・俳優がオンラインでポートフォリオを作成しそれらを映画プロデューサーや監督、キャスティング、マネジメント事務所関係者などがチェックする機能です。そこからスカウトや面会アポイントなども行えるようシステムが組まれています。
とかく閉鎖的になりがちなエンターテインメントの領域において、こういうオンラインを使って情報をまとめて業務効率化を図る試みは、これから日本でもっと広がるべきだと考えています。
ハリウッドでは主には大手オーディション情報サイトが2つ程あるだけで、各マネジメント事務所もそこから情報をピックアップして所属俳優へのオーディション機会を提供しているのだとか。
勿論全ての役がオーディションによって決まる訳ではないのはアメリカも日本も同じですが、オンラインで多数の映像制作案件のオーディション情報が手に入るのはハリウッド特有の文化で、実力主義で平等にチャンスを与えている事と業務効率化を図っている事の2点が垣間見えます。日本はまだまだ、オンラインで映像制作案件のオーディション情報を開示する文化は浸透していません。
mirroRliar(ミラーライアー)のような試みによって、これからより広く多くの女優・俳優が発掘され、業界の活性化につながっていく事を期待しています。
次回予告
次回は日本のアニメや実写映画をアメリカで配給するEleven Arts(イレブンアーツ)さんにお話を聞きに行ってきます!アメリカでの映画配給事情など、色々聞いてきますのでお楽しみに!
和田有啓
1983年神奈川県横浜市生まれ。
スポーツ取材の会社からキャリアをスタートさせ、芸能プロダクション、広告会社、コンテンツ製作会社を経て現在フリーでアメリカ・カリフォルニア州ロサンゼルスに滞在中。
プロデューサーとして参加した⾃主制作映画「くらげくん」の第32回ぴあフィルムフェスティバル準グランプリ受賞をきっかけに、2010年にUNIJAPAN HUMAN RESOURSES DEVELOPMENT PROJECT、2011年に JAPAN国際コンテンツフェスティバル/コ・フェスタPAOにプロデューサーとして参加して各プロジェクトの短編映画を制作。
近年は映画「たまこちゃんとコックボー」「天才バカヴォン〜蘇るフランダースの⽝〜」「⼥⼦⾼」「サブイボマスク」「古都」「はらはらなのか。」「笑う招き猫」などの作品で製作委員会の組成やプロデュース、配給、宣伝などを行い、インディペンデント映画業界でのキャリアを築く。