レスリーとアニタ、互いを支えあった色褪せることのない友情

先日、13年ぶりにスクリーンに蘇り、再び絶賛の嵐となっている幻の傑作『欲望の翼』のファンの皆さんからの熱い期待にお応えして、渋谷 Ｂｕｎｋａｍｕｒａル・シネマにて、香港を飛び出して、今や世界の巨匠となったウォン・カーウァイ監督作品のツートップである代表作『ブエノスアイレス』と『花様年華』の２本が特別上映されます。

即興的演出を通して、俳優の持ち味を活かしながら、稀有な世界を作り上げるウォン・カーウァイ監督は、「映画は人生から生まれる、だが人生のすべてではない」と『ブエノスアイレス』製作時、彼方の地、アルゼンチンで述べています。

2003年に46歳という若さで自らの手で人生の幕を閉じた俳優レスリー・チャンは、何でも話せる妹のように親しくしていたアニタ・ムイという歌手であり、女優の友人がいました。

疲れ切ったレスリーは、度々、アニタの膝枕で眠っていたといいます。そんな時、きまってアニタは、お兄さんのために動かないようにしていたそうです。

アニタ・ムイは、『欲望の翼』のエンドロールで主題歌「是這様的」で哀愁に満ちた歌声を披露しています。この曲は、本編で使われている”ルンバの王様”の肩書を持つ音楽家ザビア・クガートのインスト曲「ジャングル・ドラム」に歌詞を付けたもので、映画のストーリーと添い寝するような内容となっています。

『欲望の翼』ほど深読みできる映画もなかなかなく、何度か観ると、レスリー演じるヨディとスー・リーチェンやミミとの関係性よりも育ての義理の母と息子ヨディの母子の間柄を越えたわだかまりがとても気になり始めるというなんともやるせのない後味が残ります。

時は正直で
嘘をつかない
惑わすのは　この心
もう輝きも失せた
別れる時
涙をひと粒落とす
その後でまた会えるのか
もうそれっきり　背を向けてしまうのか
　　　　　　　　　『欲望の翼』主題曲『是這様的』

この歌をレスリー・チャンはよほど好きだったのか、『ブエノスアイレス』製作時にも口ずさんでいたそうです。そして、実際にオフィシャルにレスリーも「是這様的」を歌っていました。

レスリーが飛び降り自殺をする15分前に電話をかけた相手とされるアニタ・ムイもまた病魔に苦しんでいました。そして、彼女も同年、他界しました。

こうした映画のかたわらで起こる出来事に触れるにつけ、前述のウォン・カーウァイ監督が述べたことを超えて、映画やショービズ＝虚から葛藤の多きリアルな人生＝無間地獄が生まれることもあるのではないか？と考えてしまいます。

2002年夏に香港でアウトブレイクし、一年以上もの間、SARS＝ウィルス性呼吸器疾患が猛威を振るう中、ウォン・カーウァイ組は、マスクを付けながら遅々として進まない新作『２０４６』の撮影に取り組んでいました。レスリーは、当時、SARSで換気のために唯一、開いていたホテルのトレーニングジムの窓から身投げをしたと云われています。それはまるで、レスリー演じる『欲望の翼』のあの脚のない鳥であるヨディであったかのように……。その後、レスリー・チャンへのオマージュを込めて、『２０４６』の内容は、変更が施されて完成し、公開されました。

『欲望の翼　デジタルリマスター版』公開記念 ＜ウォン・カーウァイ特集＞

ル・シネマにて絶賛上映中！『欲望の翼　デジタルリマスター版』
1990年／香港／95分／原題：阿飛正傳/DAYS OF BEING WILD／配給：ハーク
監督・脚本：ウォン・カーウァイ　製作：ローヴァー・タン　製作総指揮：アラン・タン　撮影：クリストファー・ドイル、美術：ウィリアム・チャン

キャスト：レスリー・チャン、マギー・チャン、カリーナ・ラウ、トニー・レオン、アンディ・ラウ、ジャッキー・チュン

脚のない鳥がいるそうだ。飛び続けて疲れたら風の中で眠り、一生に一度だけ地上に降りる。それが脚のない鳥の最期の時だ。

「1960年4月16日3時1分前、君は僕といた。この1分を忘れない。君とは“1分の友達”だ。」ヨディ(レスリー・チャン)はサッカー場の売り子スー(マギー・チャン)にそう話しかける。ふたりは恋仲となるも、ある日ヨディはスーのもとを去る。ヨディは実の母親を知らず、そのことが彼の心に影を落としていた。ナイトクラブのダンサー、ミミ(カリーナ・ラウ)と一夜を過ごすヨディ。部屋を出たミミはヨディの親友サブ(ジャッキー・チュン)と出くわし、サブはひと目で彼女に恋をする。スーはヨディのことが忘れられず夜ごと彼の部屋へと足を向け、夜間巡回中の警官タイド(アンディ・ラウ)はそんな彼女に想いを寄せる。60年代の香港を舞台に、ヨディを中心に交錯する若者たちのそれぞれの運命と恋──やがて彼らの醒めない夢は、目にもとまらぬスピードで加速する。

『ブエノスアイレス』2/17(土)～2/23(金)19:40～ & 2/24(土)～3/2(金) 10:30～
/ Bunkamura ル・シネマ

1997年/香港/96分/Blu-ray　監督・脚本・製作：ウォン・カーウァイ
撮影：クリストファー・ドイル　美術・編集：ウィリアム・チャン
出演：レスリー・チャン／トニー・レオン／チャン・チェン

激しく愛し合いながら、荒野のハイウェイで突然の別離を迎える恋人たち。その痛みを振り切るように仕事に熱中する男の元に、傷付いた恋人が帰ってくる。閉ざされていた心が通い合う瞬間、柔らかな光が至福の時を包む。しかしやがて二人を襲う癒しがたい渇き。愛するほどに傷つき、傷つくほどに求め合う魂の彷徨の中で、男はひとりの青年に出会い、再生への道を歩き始める。『欲望の翼』では邂逅することのなかったレスリー・チャン、トニー・レオンふたりが感情迸る名演を魅せる。本作は第50回カンヌ国際映画祭の最優秀監督賞を受賞。昨年のアカデミー賞®作品賞に輝いた『ムーンライト』の監督も本作からの影響を語る傑作。フランク・ザッパ、アストル・ピアソラ、カエターノ・ヴェローゾら天才たちの音楽も映画を彩る。アルゼンチンを舞台に、ウォン・カーウァイの新たな航海が時空を超えてたどり着いた、至福と絶望と再生の絶対温度！

『花様年華』2/24(土)～3/2(金) 19:00～ / Bunkamura ル・シネマ

2000年/香港/98分/Blu-ray　監督・脚本・製作：ウォン・カーウァイ
撮影：クリストファー・ドイル／リー・ピンビン　美術・編集・衣裳：ウィリアム・チャン
出演：トニー・レオン／マギー・チャン

1962年、香港。新聞社の編集者であるチャウと、商社で秘書として働くチャン。二人は同じアパートに同じ日に引越してきて、隣人になる。やがて二人は、互いの伴侶が不倫関係にあることに気づき、次第に時間を共有するように。誰にも気づかれないよう、慎重に会っていた二人。家庭を持つ貞淑な男と女は戸惑いつつも、強く惹かれ合っていくのだった。誰にも言えない秘密を包み込む紫煙、ナット・キング・コールのバラッド、そしてなんといってもチャイナドレスの美しさ──今作でトニー・レオンが第53回カンヌ国際映画祭最優秀男優賞を、そして撮影と美術／衣裳が評価され高等技術院賞を受賞。本作の一部設定や世界観は『欲望の翼』から引き継がれており、さらに後年の『2046』へと醒めない夢は続く。英BBCが昨年発表した「21世紀の名作映画トップ100」リストで、あらゆる名作を差し置いてなんと第2位に輝いた、永遠の愛の物語。

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