本作『修道士は沈黙する』のロベルト・アンドー監督と、『映画に耳を聴覚からはじめる新しい映画の話』の著者である早稲田大学文学学術院教授の小沼純一氏が登壇し、トークイベントが行われました。
【日 程】 1 月 27 日(土)15:00~16:00
【会 場】 イタリア文化会館 アニェッリホール(千代田区九段南 2-1-30)
【登壇者】
ロベルト・アンドー監督 ゲスト:小沼純一さん(早稲田大学文学学術院教授)
アンドー監督は小沼氏と本作を初めて観た日本の観客に対し「一緒に映画についてお話しすることができてとても嬉しいです。」と挨拶。
まず映画に含まれたサスペンスの要素についての話から対談がスタート。
アンドー監督は、 「政治や権力の世界に関わっている人たちがどのような人なのかを描きたかったのです。 この映画の中にはかなりアイロニカルな場面が色々あると思うが、ほとんどの場面で動物が演じています。色々な意味で捉えられると思いますが、自由を選んだと捉えられると思います。 この映画では希望の場面が多くないので、希望の光を作品に入れたかったのです。修道士はものを壊していく、邪魔していく人間として出てきます。大臣たちを含めた心を失っている人間たちに対して、心を持っているものとして動物が出てくるのです。」と解説した。
また、小沼氏から音楽の力について問われると、「ニコラ・ピオヴァーニが書いてくれた曲はサスペンスの要素を掻き立てるし、修道士の宙に浮いた存在、精神性というものも表してくれており、非常に気に入っています。シューベルトの『冬の旅』という曲は今の政治経済状況の中で自分たちが“冬の旅”をしていて、そこから出られないという風に捉えることができるのではないかと思っています。」と劇中使用曲の意図について述べた。
小沼氏は「今回の映画ではヨーロッパの個人を大事にする、個人主義的なことがよく感じ取れて、それがなにか告解、 告白をするということと重なってくるのではないでしょうか?」と自身の見解を述べると、アンドー 監督は、「この映画は非常に内面的なことを描いており、それは個から生まれるものになってほしい。修道士が受けた告解は個人の領域であり、誰も知るべきところでないとこです。現代ではすべて透明で誰でも知っているという状況にあるけれども、かたや映画の中では権力が
秘密を持っています。G8 が生まれた経緯は民主主義的なことがあるけれども、それにも関わらず実際にあの場で行われていることは彼らの孤独をも感じさせます。この映画は実際にG8 が行われた場所で撮っていますが、非常に孤独を感じられる場所です。」と答えた。
本作で重要な要素の一つである数式について問われると、「この映画のヒントになったのは、ヒッチコックの『私は告白する』という映画です。数式というのは幻想という意味で経済のシンボルだと思いますが、この映画の中で国際通貨基金のダニエル・ロシェ専務理事は修道士にこの数式は何の意味もないと説明します。彼のやっていることは実際にはトリックがあるが見えないわけです。そういう意味では数式というのは空っぽの抜け殻みたいなことですが、トリックのシンボルだと思います。映画に出てくる数式は知り合いの数学者に作ってもらいました。公開後に 新聞記事である記事が掲載され、数学的な価値があると知り、とても嬉しかったです。」と語り、最後に監督は今回の来日で“安藤”とい う判子を買ったと、会場を沸かせイベントを締めくくった。
異色の社会派ミステリー『修道士は沈黙する』予告
ストーリー
バルト海に面した高級リゾート地ハイリゲンダムで開催される G8財務相会議の前夜、国際通貨基金専務理事のダニエル・ロシェは各国の財務相に加えて、異色の3人のゲストを招いて自身の誕生祝いを開催する。会食後にロシェはゲストの一人、イタリア人修道士ロベルト・サルスを自室に呼び、告解をしたいと告げるがその翌朝、ビニール袋を被ったロシェの死体が発見さ れる。
自殺か他殺か?告解を受けたサルスは口を噤む中、警察の極秘捜査が続けられていく。
発展途上国の経済に大きな影響を与えかねない重要な決定を発表する記者会見の時間が迫ってくる。各国財務相の政治的駆け引きに巻き込まれたサルスは、ロシェの葬儀で自らの思いを語り始めるのだった。
監督・原案・脚本:ロベルト・アンドー
出演:トニ・セルヴィッロ/ダニエル・オートゥイユ/コニー・ニールセン/モーリッツ・ブライプトロイ/マリ=ジョゼ・クローズ 2016 年/イタリア=フランス/イタリア語・仏語・英語/カラー/108 分/シネスコ/ドルビーデジタル
原題:Le confessioni /字幕:寺尾次郎
©2015 BiBi Film-Barbary Films
配給:ミモザフィルムズ
後援:イタリア大使館/在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
特別協力:イタリア文化会館
協力:ユニフランス