ロカルノ映画祭のロゴの前での二ノ宮隆太郎監督
映画『枝葉のこと』を語るインタビュー
ロカルノ国際映画祭2017の新鋭監督部門にノミネートされた二ノ宮隆太郎監督の『枝葉のこと』は、でき上がったばかりのワールドプレミア。賞は逃したものの、10日の上映後には割れるような拍手に包まれた。「ロカルノの町を歩いていると、見たよ、良かったよ、とたくさんの人に声をかけられた。本当に嬉しかったです」と語る監督にインタビューした。
話しは、小さい頃母親を亡くした主人公・隆太郎を自分の子どものように世話してくれた友人の母親・龍子の病気が悪化し、死に至るまでの日々を中心に監督自らが演じる隆太郎の内面・心情を描く。
歩く姿。 洗面所で手を洗いながらフッとため息をつく姿。同僚の質問に返事を返さないときの顔。こうした日常での動作や顔の表情で内面を強く表現できる役者は、いるようでそんなにいないのではないか?そんなことを感じさせるのが、役者の二ノ宮監督だ。
2012年にぴあで準グランプリを取り、ロッテルダムやバンクーバー国際映画祭にも招待された前作『魅力の人間』でも、監督は自ら役を演じている。脚本を書き撮影の指示を出す監督と役者としての監督の「距離」などを中心に聞いた。
Q: 歩く姿や顔や表情だけで主人公の内面を表現するような映画だと思いましたが、それが監督の「映画の文体」と考えていいでしょうか?
主人公は、何を考えているか分からないようなところがあって、はっきりとしていないが何か微妙なラインで主人公の内面・心情を描こうとしたところがあります。
言い換えれば、主人公の心情をどう描くかということで思考錯誤しながら作ったということです。
Q: 伝えたいメッセージは何でしょうか?
一つは「後悔している人間が、どのように行動していくか」を、描きたかったのです。
実際には、主人公を含め主人公の父親や同僚など、後悔していてもその後の行動ができない人間ばかりなんですけれども。それでも、後悔の思いと行動がどのくらいまで一致しているかを描こうとしました。
こうした人たちを描くことによって、観客の心に少しでも触れ、何か感じていただければいいなという思いで作りました。
Q: 演技がまるで演じていないように自然です。「演じる監督」と「脚本を書く監督」との関係は?
実はあれは、実際にあったできごとを基に作ったのです。僕の母親が早く亡くなった後、友達のお母さんが親身になって世話をしてくださって、その方が病気で亡くなるという僕の過去の話しなのです。そのおばちゃんの家も僕の実家もそのまま使っています。
で、脚本を書きながら「今回、主人公は絶対自分がやる」と思っていましたね。主人公の父親も僕の本当の父親ですが、父親にやってもらうということは初めから決めていた。現実にあった話しなので、自分の父親がやるのが絶対に間違いないと思いました。
Q: 例えば主人公がシャワーを浴びるとき、音だけがしてカメラは風呂のドアを写しているだけです。 細かい指示を脚本に書かれているのですか?
いえ、脚本はそんなに細かくないです。恐らく他の方に比べてもかなりシンプルだと思います。自分の頭の中では、かなり細かくなっていますけれど。
Q: 脚本がシンプルで、本来指示を出す監督が主人公を演じる場合、カメラマンはどう動くのでしょうか?まるでカメラマンと監督が一体化しているような感じがします…。
カメラマンは、ここロカルノで昨年ノミネートされた塩田監督の『風に濡れた女』を撮られた四宮秀俊さんです。大尊敬するカメラマンさんなので、一度脚本を理解していただいたら、僕が「いや、これは違う」っていうのは一切なかったですね。素晴らしかったです。
細かく言うと、全カット、一応「どうしますか?」と聞かれて、僕が話した後に構図を切ってくれるという感じで進みました。
Q: 役者さんとしてもすごい演技力ですね。ため息を出すところとか、とても自然。演じているのでしょうか?
演じているかと聞かれれば、もちろん演じているのですが、この話の場合、過去を頭の中で思い出してやっているときもありますし、感覚で演じているときもありますし…。
Q: 「後悔」をテーマに、 結婚しないとか低賃金労働といった現代の若者の大変さや高齢化社会などの「日本社会の現実」も描こうとしましたか?
意識して社会性を入れようとしたわけではないですが、現実の社会としての「今」を描きたかったというのはありますね。
Q: 女性との関係も自然な感じでいいですね。
僕の方が反対に感想を聞きたいのですが、女性に対し「可愛いとか、綺麗とか、そんなことしか言わないお前はバカなのではないか?」と言う場面がありますが、あれはヤバくないですか?どう感じましたか?
(記者)いえ、いいと思いました。主人公は女性だけでなく誰に対しても「自分と向き合い、行動に移せ」みたいなメッセージをはっきり言うので、特に女性蔑視みたいな感じはなかったです。それに、女性が後で怒って主人公を殴るし。
あっ、それなら良かったです。安心しました。あの場面はかなり引っかかっていたので。
Q: 全体の感じですが、少し小津安二郎の映画を感じさせるような、会話が少なく音がないような映像の中に、淡々と人間の真実を描くような映画で心に響きました。
それは嬉しいです。小津安二郎の作品はいいなと思ってたくさん見ているし、尊敬しているんですが、どちらかというと好きなのは成瀬巳喜男さんでしょうか。ま、どちらも憧れています。
音がない感じというのは、今回音楽は一切ないですし、取れた音をそのまま立てていくというドキュメンタリーと同じような持ち上げ方をしています。普通の映画と印象が違うのは、そういうところかもしれないです。とにかく、今回は現実的に映そうということを意識しました。
Q: 最後に、今後第3作目を作るとしたらどのような作品にしようと思っていますか?
物語性はあるけれども、あまり「作らず」、シンプルに人間を描くような作品で、今回と同じように見る人の心に少しでも触れるような映画を作りたいと思っています。
取材・記事 里信邦子 (ロカルノにて)