いよいよ公開が始まる内田伸輝監督『ぼくらの亡命』。
三夜を通して、今作をご紹介してきました。
最後は内田伸輝監督自身からの公開にあたってのメッセージがシネフィルに届いております。
ポスターのコピーには
「遠い空に行かなくちゃ。」
「引きこもりのホームレスと美人局の女の楽園探しが始まる。吐きたくなるほど愛されたいんだ。」
と書かれています。
愛をテーマにし、楽園を探しながら、二人の主人公は亡命を目指します。
主人公の二人が、目指した世界は滑稽な虚構の亡命なのかもしれません。
でも、映画の中に出ている二人よりも、今の日本人の多くが、何かを目指す気持ちも、目指す場所も見えてこないのも事実なのではないでしょうか。
映画の公式ページに監督は、以下のような文を寄せています。
『14歳の少女と20歳の男が美人局(つつもたせ)で逮捕――。』この作品の発想は、ネットニュースで見たこんな記事からだった。やりくちは変われど、昔からある古典的な手口。カモとなった男と騙した女が手を組んだらどうなるのだろう?そこから恋愛が生まれるのだろうか?そんな所を探りつつ、物語を作り始めた。と同時に撮影に入る2015年は、太平洋戦争終戦から70年目にあたり、聞こえないくらいの足音で確実に近づいてくる気がする新たな戦争の空気を、描いてみたいと思った。戦争とは何かを考えた時、それに至る理由の一つに、領土、領海、領空の奪い合いが戦いの引き金になっていて、まるでそれは、「この島は我が国のものだ!」と主張する国が、「この女は俺のものだ!」と一人の女性をめぐり奪い合う男達の姿にも僕は思えた。恋愛、戦争、奪い合い・・・。『ぼくらの亡命』は恋愛映画の皮を被った戦争映画にしようと思い、撮影を始めた。ーー内田伸輝
戦後70年の2015年に撮影が始まったという今作。監督が予見した通り、たった2年の間に、その空気は戦後ではなく、戦前と言ってもいいような雰囲気に一気に塗り替えられています。
『ぼくらの亡命』には、現代の日本の暗部の現実を物語のきっかけに、生きるということ、命、愛、そして国家..
様々な、メッセージが込められています。
あとは、劇場でみなさんの目で、耳で、そして心で、この映画を感じ取ってくださいー
今回、内田監督からはシネフィルへ、映画への愛のあるメッセージをいただきました。
短いながらも、俳優のこと、今作に対しての制作への思いが伝わってきます。
以下、監督からのメッセージです。
人間の奥行きを撮りたくて
人はみんな、「オギャー」と産まれてきてから、今のいままで様々な人生を歩んできます。
初の長編映画『えてがみ』は、人と人が激烈にぶつかり合う様子を無我夢中で記録したドキュメンタリー作品で、被写体となる人物がこの世界で確かに生きていて、今までの人生と、これから歩む未来を想像する事が出来ました。
次に監督した『かざあな』や『ふゆの獣』はプロットのみで撮影をしたフィクションで、脚本という枠に捉われず、俳優が演じるキャラクターの背景を何よりも重要視したうえで、自由に演じてもらい、その後の作品『おだやかな日常』や『さまよう獣』でもキャラクターの人間性をよく練り、映画を作るうえでキャラクターを演じる俳優の存在は大きいものへとなっていきました。
俳優は脚本通りに演じていればいいという訳ではなく、演じるうえでの本質は、キャラクターの存在感や人間性、そして、そのキャラクターが持つ人生の奥行きが必要になってくると思います。
映画『ぼくらの亡命』の撮影現場ではキャラクターの奥行きを出すために、昇を演じた須森隆文さんと樹冬を演じた櫻井亜衣さんに、一ヶ月間ただ街を歩いてもらい、その姿を撮影していきました。街は全てゲリラ撮影で、初めのうちは二人ともこのドキュメンタリー的な手法に戸惑いもありましたが、彼らはやがて、人ゴミや喧騒、湿気と汗、臭いに慣れ、昇として樹冬として自由に歩き、存在しだしました。そして、一ヶ月を過ぎたあたりから、僕は、彼等が持つ演技の癖を、時に活かし、時に修正し、少しずつ物語の中へと導いていき、他の登場人物も加わり、脚本部分を少しずつ撮影していきました。
とにかく本作では台詞を極力なくし、映像で映画を観せていく。と決めた僕は、俳優の目の表現にこだわり、身体の動きだけでなく、顔の表情で見せるような演出をし、俳優が映画の中で、どんなに泣いても、どんなに怒っても、どんなに笑っても、目の表現に奥行きを感じなければ、僕は納得する事が出来なかったのです。
僕の演出や演技指導のスタンスは、良い演技をした場合は「良かった」とシッカリ伝え、良くない演技をした時は、良くなるまで繰り返すようにしています。
しかしながら、「徹底的に納得いくまで繰り返す!」と、僕一人だけ思っていても、それだけでは成立せず、スタッフ、キャストが同じ思いを共有していないと、成立することが出来ないと思っています。その点でこの撮影現場は、スタッフ、キャスト共に、自由に伸び伸びと撮影をしながらも、真剣に映画を作る事を楽しんでいました。
映画は出資者や監督ひとりのものではなく、ひとつの映画に関わる全員が、作品作りの思いを共有する事で成立する商品でもあります。
撮影現場で好評だった鍋に例えるなら、スタッフ、キャストと共に、ジックリコトコト煮込んだ濃厚寄せ鍋『ぼくらの亡命』を、観客の皆様につつきながら語らってもらい、残った汁にご飯を入れて、よく解いた生卵を円を描くようにかけて、アツアツ雑炊として味わってもらいのです。
そして、さらに付け加えるのなら、この鍋を自分達でも作ってみたいと思ってもらえたら、とても嬉しいのです。
内田伸輝 『ぼくらの亡命』監督・脚本ほか
内田伸輝監督『ぼくらの亡命』予告
物語
東京近郊の森でテント暮らしをする昇(ノボル)は、気に入らない人々への恨みを半紙に筆書し、テントに貼りつける日々を送っている。樹冬(キフユ)と重久(シゲヒサ)らの修羅場を偶然目撃した昇は、樹冬に興味を持ち、彼女の後をつけまわす。重久は樹冬を使って美人局をしていた。騙されている!と思った昇は、樹冬を助けようと誘拐を計画し、身代金を重久に要求するが「バーカ、勝手に殺せ」と重久に一蹴され失敗。捨てられまいと、樹冬は重久に擦りよるが、重久はすでに別の女に美人局をやらせていた。用済みにされた樹冬は重久をナイフで刺した。それを目撃した昇は、樹冬の後を追い「重久は死んだ」と嘘をつき、一緒に日本から脱出しようと持ちかける…。内田が撮り続けてきた「他者への依存」というテーマを掘り下げた。
須森隆文 櫻井亜衣 松永大輔 入江庸仁 志戸晴一 松本高士 鈴木ひかり 椎名香織 森谷勇太 高木公佑
脚本・監督・美術・録音・音響効果・整音・編集:内田伸輝
撮影監督・スチール・美術・衣装・メイク:斎藤文
録音:新谷寛行
音楽:Yamikurae[Jacopo Bortolussi, Matteo Polato]
制作:斎藤文・内田伸輝
共同プロデューサー:日下部圭子
プロデューサー:斎藤文 内田伸輝
製作:映像工房NOBU
配給:マコトヤ ©映像工房NOBU
2017年/DCP・Blu-ray/カラー/ステレオ/16:9/115分/製作:映像工房NOBU/
配給:マコトヤ
MATERIALS:©2017 Makotoya Co Ltd.,/©2016 NOBU Production