フランスの庭師ジル・クレマンさんの活動を追ったドキュメンタリー映画『動いている庭』が京都の立誠シネマ(6月10日よりすでに公開)、に続いて大阪の第七藝術劇場で公開されます。

画像1: パリの展覧会で30万人を魅了したフランスを代表する庭師ジル・クレマン。彼の庭が語りかけるものを切り取った民俗誌的ドキュメンタリー『動いてる庭』!

この惑星は、庭とみなすことができる― パリで行われた展覧会「惑星という庭」で 30 万人を魅了したフランスの庭師ジル・ クレマン。

彼は、パリのアンドレ・シトロエン公園の庭やケ・ブランリー美術館の庭をつくったことで知られ、同時に、そ の背景にある思想が注目を浴びてきた。

クレマンは、総合地球環境学研究所が主催した連続講演会のために、2015 年の冬に初めて日本を訪れた。計3回開催された講演会は、それぞれ彼の中心的な概念である「動いている庭」「惑星という庭」「第三風景」をめぐるものである。

たとえば、「動いている庭」。そこでは、草や木が自然の遷移の作用として移動し、その移動のダイナミズムの中で庭が構成されていく。それは自然なのか、文化なのか?
自然に寄り添い、かたちづくられ、変化し続ける庭は、従来の自然と文化を截然と切り離す二分法に基づく思考の再構成を促すものである。
日本各地を視察するクレマンの中心となる案内人は、彼の著作『動いている庭』を翻訳した庭師の山内朋樹と日本庭園を研究するエマニュエル・マレスである。このふたりと共に、クレマンは日本の庭を訪れ、日本の庭師と交流を深める。果たして、 彼は日本の自然や文化に何を見出すことになるだろうか。

「動いている庭」、クレマンの自宅の庭には、その原型がある。
クルーズ川に面した広大な庭の中を歩きながら、彼は「谷の庭」や「野原」と名付けられた場所を案内する。多様性に富んだ庭もさることながら、自ら建てた家に太陽光発電を設置し無駄に電気を使用しないことや、自宅の畑で採れた野菜で食事をすることなど、彼の生き方から私たちが学ぶことは多いだろう。 すべては、この場所から始まったのである。

できるだけあわせて、なるべく逆らわない― これは、クレマンの庭師としての基本的な態度である。この言葉にそってつくられた本作は、日本各地を訪問するクレマンと、彼の自宅の庭をロングショットで記録した民族誌的な映像である。
クレマンの行為を長回しで撮影する中で、撮影者がカメラになり、そしてそれを通して撮影者は被写体と呼吸リズムを同調させる、呼応するようにクレマンも何か新しい輝きを持った存在になるだろう。

画像2: パリの展覧会で30万人を魅了したフランスを代表する庭師ジル・クレマン。彼の庭が語りかけるものを切り取った民俗誌的ドキュメンタリー『動いてる庭』!
画像3: パリの展覧会で30万人を魅了したフランスを代表する庭師ジル・クレマン。彼の庭が語りかけるものを切り取った民俗誌的ドキュメンタリー『動いてる庭』!

ジル・クレマンより

日本での短い滞在期間については、強烈な記憶をとどめています。それは揺り動かし、うっとりとさせるものでした。世界中で出会ったさまざまな庭仕事をここで互いに比較しようとしなかったのは、すべてが新しく、奇妙で、完璧に成熟したものに見えたからです。つまり私は、未知の世界に浸りきっていたのです。

書物や映像から見知ったことを、私は慌てて忘れようとしました。それらは世界に流布した、日本について講じるものでしたが、むしろ私は、その瞬間瞬間を生きようとしたのです。そうして、この未知なる世界を愛し、そこに私自身を見いだしたのです。庭師としての私ではなくー日本庭園での実務は体験しませんでしたのでー、自然に直面した人間としての私を。

仏教寺院の庭に神道の祭壇がある。それは私の着想を確信に変えました。人間社会における父祖伝来のアニミズムは、理性の襲来に押しつぶされてしまうことはないだろうということです。このことに私は安堵しました。

遠近の分割にそって計画された風景ーー里山、奥山ーーは、人間の領分と精霊の領分とをつくりだしており、後者はマダガスカルの「ファディ*1」の空間、あるいはバリの「レヤック*2」の空間を想起させます。精霊や囚われていない生き物たちに満たされた自然だけが表現しうる領域。ここには狸や猪が、そして奈良に訪ねたとき青信号で道路を渡っていた鹿たちが住まうのです。

冬の終わりには真っ白だった日本の庭の芝生も、ヨーロッパの庭の芝生が太陽に晒され、色褪せてくる頃には緑になるでしょう。このことも、イギリスの青々とした下草だけが庭に許される唯一のモデルではないと、私を励ましてくれました。

それに庭師たちの風格あるたたずまい、自然な気高さ、その技量、彼らの役割にたいする自信と的確な対応は、日本の庭仕事が地面を「掃除する」ことに特化した職務ではなく、草木がどのように成長するかを知悉した博学者の仕事だということを示しています。

そのあいだ賢一は、カメラをまわし続けていました。さりげなく、にこやかに、どんな振る舞いをも尊重しながら、日本の行く先々で私が驚いて目をとめたもの、フランスの「谷の庭」で私の両手が扱ったもの、そのすべてをとらえようとするかのようでした。

そんな彼の存在は温かな思い出となっています。彼は映像を撮って、サイバースペースの気まぐれに委ねるためにやってきたのではありません。そうではなく、彼は伝えるためにそこにいたのです。地に足のついた、詩的な物語の芸術を。

2016年5月20日
ジル・クレマン (邦訳 山内朋樹)

1 マダガスカルのタブー。
2 バリ島に伝わる悪霊、魔女。

画像: ジル・クレマン

ジル・クレマン

ジル・クレマン
1943 年生まれ。庭師、修景家、小説家など、数多くの肩書きをもつ。植物にと
どまらず生物についての造詣も深く、カメルーン北部で蛾の新種 (Bunaeopsis clementi)を発見している。庭に植物の動きをとり入れ、その
変化と多様性を重視する手法はきわめて特異なもの。代表的な庭、公園に、 アンドレ・シトロエン公園(パリ、1986-98 年)、アンリ・マティス公園(リー ル、1990-95 年)、レイヨルの園(レイヨル=カナデル=シュル=メール、 1989-1994 年)、ケ・ブランリ美術館の庭(パリ、2005 年)などがある。おもな 著作として、庭園論に『動いている庭』(1991 年)、『惑星という庭』(1999 年)、『第三風景宣言』(2004 年)。小説に『トマと旅人』(1997 年)ほか。

画像: ジル・クレマンより

スタッフ紹介

澤崎 賢一監督
1978 年生まれ。アーティスト/映像作家。知性化され、ステレオタイプ化された関係から解き放って、世界とのより直接的な相互関係に誘う映像作品の制作を行っている。近年、研究者や専門家に密着しながら世界各地の多様な自然文化を記録し、映像作品を制作。初めて制作した長編ドキュメンタリー映画《動いている庭》が「第8回恵比寿映像祭」にて初公開。主な展覧会に個展『Linguistic Montage』 (MAXXX - Project Space、シエール、スイス、2015 年 )、二 人 展『Domestic Archaeology』(GALLERYTERRA TOKYO、東京、2013 年 ) など。

エマニュエル・マレス
1978 年生まれ。工学博士、奈良文化財研究所客員研究員。専門は日本建築史・日本庭園史。2015 年 2 月に開催された「ジル・クレマン連続講演会」を企画するなど、日本庭園の研究を通して 日仏の文化の交流に尽力している。主な著書に『縁側から庭へ』(あいり出版)、編集に和英のシリーズ『京の庭の巨匠たち』(京都通信)など。

山内 朋樹
1978 年生まれ。京都教育大学講師(美術科)。現代ヨーロッパの庭や修景をかたちづくる思想と
実践を考察しつつ、その源泉を近現代の庭園史に探っている。また、在学中に庭師をはじめ、研究の傍ら独立。おもな仕事に「鹿と子の庭」(大津市、2013-14 年)、「八草の庭」(京都市、 2012-2016 年)。庭に焦点をあてた芸術活動に「地衣類の庭」(第8回恵比寿映像祭、2016年)など。 翻訳にジル・クレマン『動いている庭』(みすず書房、2015 年)。

スケジュールの詳細は以下になります。
詳細は以下になります。
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立誠シネマ
2017年6月10日(土)-30日(金)
6/10(土) - 6/16(金) 13:00~
6/17(土) - 6/23(金) 11:45~
6/24(土) - 6/30(金) 13:00~

第七藝術劇場
2017年6月24日(土)-7月7日(金)
6/24(土) - 6/30(金) 10:00~
7/1(土) - 7/7(金) 18:40~

【特別トークイベント】
■立誠シネマ 6月17日(土) 
■第七藝術劇場 7月1日(土)
両日ともに上映後、澤崎賢一(監督)、エマニュエル・マレス(奈良文化財研究所客員研究員)、
山内朋樹(京都教育大学美術科講師)でトークイベント開催。

画像1: 「動いている庭」予告編 vimeo.com

「動いている庭」予告編

vimeo.com

監督・撮影・編集・製作:澤崎 賢一
出演:ジル・クレマン、エマニュエル・マレス、山内 朋樹 ほか
企画/製作・字幕翻訳:エマニュエル・マレス
カラリスト:苅谷 昌江
撮影協力:矢野原 佑史
音響調整:倉貫 雅矢
アドバイザー:山内 朋樹
フライヤー/カタログ デザイン:和出 伸一
企画協力:総合地球環境学研究所、みすず書房
謝辞:
岩村 伸一、小川 純子、篠原 徹、シルヴィ・ブロッソ、武島 幸代 田瀬 理夫、寺田 匡宏、ナデージュ・セリエ、古川町子 古川三盛、村松 伸、吉岡 正樹 アンスティチュ・フランセ関西-京都、日仏会館フランス事務所 南禅寺 金地院、名勝 無鄰菴

上映時間:85 分
制作年:2016 年
日仏合作

公式サイト
http://garden-in-movement.com/

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