今作は、世界3大映画祭であるベルリンで監督賞(‘04)。ヴェネツィアで監督賞(’04)、最高賞(‘12)を受賞したキム・ギドク監督が、日本に来て監督、撮影、照明、録音を全て一人で行った執念の作品です。
各国映画祭でもその衝撃の内容に物議を醸し、日本での上映は不可とされていましたがようやく日本での解禁となります。
園子温監督からのコメント!!
キムギドク監督が、日本の福島原発事故を映画にした!
これはなんて哀しくも素晴らしい大傑作なんだ!
決して見逃すわけにいかない今年一番の作品だ!
映画監督 園子温
STOP キム・ギドク監督 インタビュー
翻訳:安藤大佑
質問1 福島の放射能を題材にした映画を制作することになった理由は?
私はこの世界に生きる上での危険要素について優先順位を持っており、その第1位が核問題です。
核問題の危険には2種類あり、1つは戦争における核兵器、もう1つは原発です。
2011年の福島原発事故による放射能漏れで、今でも周辺地域の土壌の除染は続いており、周辺の動植物にも大きな影響を与えました。
福島の事故以降、私は恐怖心を持つようになりました。そして、放射能事故に関する映画を製作することで、原発政策に対して問題提起をしようと考えました。
原発は、絶対に安価な電気ではありません。
もう1つの危険要素は戦争と言いましたが、もし今戦争が起これば核兵器を使用する可能性は高く、同じ危険であると考えます。
質問2 原発が高価な電気であるというのはなぜですか?
全世界的に原発の建設は続いており、今後約1000基が建設される予定だといいます。
特に中国では約180基が建設予定で、その大部分は中国の東海岸に建てられる計画です。
もし事故が起これば、韓国に黄砂が飛んでくるのと同じように被害を及ぼすことが予想されます。
チェルノブイリ原発事故も多大な費用を投入しながら未だに収束しておらず、立ち入り禁止区域がある状態ですし、福島の廃炉費用は少なくとも約20兆円に及ぶといいます。
原発は、老朽化や管理トラブル、自然災害によって想定外の災害を引き起こす可能性があり、その危険を避けることはできません。
人間の安全のために、危険なものは作らないということが最善の策だと考えます。
質問3 では、原発の運転を停止した場合、現在必要な電気をどう賄えばよいでしょうか
原発以前の電力を使用し、節約もしなければなりません。
そして、既に開発されている代替エネルギーの使用に加え、更なる安全な代替エネルギーの開発が求められます。
日本は福島原発事故後、すべての原発の運転を停止した後、大飯原発、川内原発、伊方原発、高浜原発が再稼動しました。
経済的萎縮はややあったものの、それに耐えた現在東京の夜は、以前のように明るいです。
福島事故後、日本はエネルギー政策を転換し、多くの民間の太陽光発電施設も生まれました。
現在の太陽光エネルギーと蓄電の技術は進歩しています。電気を節約しながら、代替エネルギー施設を増設していくことは可能だと思います。今、「エネルギーデザイン」への注目が高まっています。
工場用電気など経済活動に必要なものを除き、個人個人としては最小限の電気を使用しながら、自分で動き発電機となることで、原発がない世界を実現できると思います。
質問4「エネルギーデザイン」とは? 個人個人が発電機になるとはどういうことか?
現代社会とは、誇示の文化です。家や建物に人がいなくても、常に照明が明々と灯り、ネオンサインも大きくて数も多い。それらは、電気を著しく浪費しています。
交通安全や保安の目的以外では、街頭の電気は節約しなければなりません。
個人発電機とは、例えば最近の運動器具には発電機が内臓され、1時間運動すればスマホが充電できる、といったものです。
また、室内の暖房の温度を抑え、その分自分が動いたり運動することで体温を高めることで電気を節約するということも、一種の個人発電だといえます。
また、最近の住宅はリビングや寝室が広いですが、寝室を狭くすれば冷暖房の費用も抑えることができます。
私も、3年前に木材で狭い部屋を作り、書斎や寝室として使っていますが、弱い冷暖房で夏も冬も快適に過ごしています。
それ以外にも多様な方法があると思います。
質問5 「それはとても原始的な生活に思えますが、すでに最先端の文明社会に暮らす状態からそこに戻ることは可能でしょうか」
それはとても難しいことです。
周囲に尋ねると、なぜそんな生活をするのかと反論されます。
しかし、想定外の災害で命を落としたり、障害を持ったりという状況に陥るとすればどうでしょう。
すべてのものには代償があると考えます。
皆がスマートフォンを持つ最先端の時代において、私たち幸せとは何かを改めて考えなければなりません。本来、人間の生活とは、自分で食料を確保し、生活する家を作り、修理するとい
うことが基本でした。
それが現代、各分野の専門家に役割が分割されました。しかし私は、ある程度は過去の原始的な生活に戻ることも悪くないと考えています。
過去に戻るとは、頭を使うことではなく、体を動かすという意味です。
労働は体と心を健康にしますし、それによって幸せも感じることができます。
質問6 (韓国で)同時に上映された原発を描いた映画『パンドラ』に対してはどう思いますか。
今、必要な映画だと思います。
ハリウッドは、未来に起こりうる多様な災難を映画にしてきました。これらの映画は事故を防いだり克服する方法をある程度は提示していたと思います。
しかし一個人の英雄的な犠牲で、災難の危機を克服することはできません。福島原発事故を見ると、他の事故と違って、爆発の瞬間、あらゆる方法を失いました。
一瞬のうちに自然と人間が汚染され、それはいつまでも続きます。
『パンドラ』はヒットするでしょうが、私の映画は、熱心な私のファンに届くだけのものになるでしょう。『パンドラ』も『STOP』も、関係者が見て原発政策を再考してくれることを願います。
質問7 (韓国での)小規模公開の理由は?
この映画は私ひとりで日本へ行き、俳優たちと交渉して作った映画です。
日本のいろいろな場所をロケハンして撮影場所を決め、午前に小道具をつくり午後から撮影し、夜に編集して作った映画です。
本当に辛く、肉体的にも精神的にも、自分自身を虐待する自分に嫌悪しました。
しかし一方で、放射能についての恐怖と、俳優たちの献身的な協力があったため、諦めることはできませんでした。
特に、この映画は合アレンさんの協力がなければ完成はしていませんでした。
合アレンさんは、素晴らしい女優でありプロデューサーでした。
質問8 なぜいつもそのように苦労して撮影して、完成度で指摘を受けるのですか。
そうですね。『The Net 網に囚われた男』という作品でもやはり寒い冬に約10日間の撮影で約1,500万円の予算で撮ったのですが、とても大変でした。映画を見た観客が映画の完成度に不満を表したことに頭を抱え、苦痛を味わいました。
このように苦労して作り続けなければならないのだろうかと深刻に悩みもしました。
大手で撮る方法がないことはないのですが、シナリオの改定、有名俳優のキャスティング、版権譲渡など、受け入れがたい点が多いのです。
そのため、完成度で批判されても、「結局、作りたいストーリーが一番重要だ」と自分自身に言い聞かせながら、また新たな作りたいストーリーを生み出そうとするのだと思います。
質問9 『STOP』の日本公開について
2017年、小規模公開とDVD化の予定です。
出演者の同意も得た上で、少しでも収益があれば、福島と熊本の被災者のために
寄付することにしました。
日本公開の準備は、合アレンさんが進めており、彼女の努力で劇場も賛同してく
れました。
上映していただく日本の劇場に心から感謝しています。
この映画は日本の原発事故についての恨みや、非難を描くものではありません。
いまだに福島の水産物の輸入を禁止している国は多いです。
原発の事故は、世界の災害です。
世界に約500基の原発があります。
それは、核爆弾500個が常に爆発を待機していることを意味します。
今後、それが更に1000個増えるのです。
とても、恐ろしいことだと思いませんか。
私は、あまりの恐怖から、この映画を作りました。
安全な地球のために、この映画を作りました。
日本で『STOP』をご覧になる観客のみなさんに、感謝します。
以上
世界各国の映画祭で物議を醸し、あまりの衝撃に上映困難とされた問題作が遂にベールを脱ぐ。
監督・脚本・撮影 キム・ギドク 録音・編集・配給
第26回ゆうばり国際ファンタスティック映画祭
第20回プサン国際映画祭
第52回カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭
第20回ケララ国際映画祭
ストーリー
2011年3月11日、東日本大震災。そして福島第一原発のメルトダウン。5
km圏内に住んでいた若い夫婦は東京への移住を決意した。妊娠中の妻は放射能
の赤ん坊への影響に不安を抱え、だんだん正気ではいられなくなる。そんな中、
謎の政府の役人が現れ中絶を強引に促す。写真家である夫は、かつてのままの美
しい自然や動物の写真を撮り、妻を安心させようと単身福島に戻ったのであった
が、彼がそこで見たものは・・・。
監督からのメッセージ
私は、日本に友達がすごく多いのですが、みなさんとても良い方で優秀です。で
も、日本と韓国は、過去の不幸な歴史の為に、あまり仲が良くない状況です。そ
んな中で作った、今回の「STOP」ですが、これは韓国人だとか日本人だとか、そ
ういったことは関係なくて、人類の安全の問題だと思っています。そして、6年
前の3月11日にはたくさんの方が亡くなりました。亡くなった方のご家族のこと
を考えると、非常に心が痛みます。そして、原発の問題は、終わっていません。
終わっていないどころか、これからも、どんどん深刻なことになっていくかもし
れません。世界中の技術者を集めてでも、早く自然な状態が戻ってくるようなこ
とになればいいなと思っています。
行定勲監督コメント
キム・ギドクが丸腰で日本で撮らなければならなかった「ストップ」は、彼が抱
いている社会への危機感が怒りとなって牙をむいた力作である。
作品収益の一部を福島、そして昨年地震の被害にあった行定勲監督の故郷、熊本に寄付いたします。
監督:キム・ギドク
出演:中江翼 堀夏子 武田裕光 田代大悟 藤野大輝 合アレン
プロデューサー:キム・ギドク 合アレン
スタッフ:安藤大佑 合アレン
配給:Kim Kiduk Film/Allen Ai Film
宣伝協力:岡田真 高木悠衣
撮影協力:
株式会社スカイコーポレーション 有限会社レトル 株式会社ウォーターブルー
株式会社よしもとクリエイティブ・エージェンシー マルパソ事務所 麻布塾
初日18時~の上映後、舞台挨拶決定!!
登壇予定者: 中江翼 堀夏子 田代大悟 諸星敦 三ノ輪健太郎 合アレン
※登壇者は変更になる場合がございます。