現在大ヒット上映中の名匠エドワード・ヤン 監督の傑作『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』。
1991年に発表された 本作は、ヤン監督の生誕70年、没後10年となる節目の今年、25年ぶりに 4Kレストア・デジタルリマスター版として日本のスクリーンに蘇った。
公開されるやいなや初日から満席が続出。公開を待ち望んでいた映画ファンのみならず、本作を初めて観る若い観客からも
「これぞ“映画”だと思った。衝撃で席から立てなかった」
「どのカットをとっても素晴らしい。観終えてから一日中映画について考えてしまう作品」
「10代でこの作品を観ることができて本当に良かった」
などと支持され、SNSを中心に話題 が話題を呼び、エドワード・ヤン監督についての関心も再燃しています!
そんな本作の大ヒットを記念して、5月6日(土)『牯嶺街少年殺人事件』に加え、カルト的人気を博す同監督の『恐怖分子』を35mmプリントにて上映するオールナイト上映を実施。
当日は、『牯嶺街少年殺人事件』を観て衝撃を受けたという塚本晋也監督と、映画秘宝をはじめ様々な雑誌で本作を絶賛、ご紹介頂いた映画評論家の柳下毅一郎氏を迎えてのスペシャルトークイベントを行いました!
『野火』『鉄男』など映画監督として高い評価を受け、また俳優としても公開中の話題作『沈黙-サイレンス-』(マーティン・スコセッシ監督)へ出演するなど、第一線で活躍されている塚本晋也監督。
監督として、俳優として、作り手の視点で感じた『牯嶺街少年殺人事件』の魅力について語っています!
【イベント概要】
『牯嶺街少年殺人事件』大ヒット記念!エドワード・ヤン監督オールナイト
◆日時:5月6日(土) 開映 23:00~終映予定 翌 5:36 (トークイベント 23:00~23:30)
◆劇場:シネマート新宿 ・スクリーン 1(新宿区新宿 3 丁目 13 番 3 号 新宿文化ビル 6F・7F)
◆トークゲスト:塚本晋也(映画監督)、柳下毅一郎(映画評論家・翻訳家)
『牯嶺街少年殺人事件』との出会い
塚本監督:25年前に『牯嶺街少年殺人事件』を観て、度肝を抜かれたというか、本当に印象に残った。実は、印象に残った映画をノートに細かく書いているんです。雄叫びのようなことを書いているノートなんですけど。最近、断捨離をしていたら当時のノートが出てきて、読んでみるとやっぱり『牯嶺街少年殺人事件』が書いてあった。
「こういうすごい原型のような映画を作りたい!」なんて書いていて。
筆圧と文字の大きさが強い印象を受けたことを物語っていましたね(笑)
でもそれから、今回のデジタルリマスター版を観るまでずいぶん観ていなくて。
今回イベントに登壇するということで、『恐怖分子』を2度観て、『ヤンヤンの夏の想い出』も観て面白くて。今日は、『台北ストーリー』も観てきた。すごい勉強してきました(笑)
柳下氏:『牯嶺街少年殺人事件』は、25年前ほど前、東京国際映画祭で観ているんです。
それが、日本初上映だったはず。 当時、すでに台湾映画界の有名監督だったエドワード・ヤン。
当時台湾映画をたくさん上映している劇場が池袋にあって、そこで 『恐怖分子』も観てすごいなと思いましたね。『牯嶺街少年殺人事件』は満を持して超大作を撮ったという印象でした。
エドワード・ヤン監督作品の緻密な画面構成について
柳下氏:ヤン監督作品の魅力は、『牯嶺街少年殺人事件』はもちろん、『恐怖分子』はより強烈だと思いますが、構図が完璧。このカットだけが凄いというのがなくて、逆にいうと、すべてのカットが凄い。どこを切り取っても完璧ですよね。特に、『牯嶺街少年殺人事件』はズームや切り返しがない。個々のカットが分かりやすい切り返しじゃないのに、観てるとやめられなくなる。本当に4時間あっという間に終わってしまいますよね。こういう作品は、“静的”な映画になりがちだけれど、それともまた違う。休憩がないので厳しいんじゃ...と思っていたけど、気が付いたら時間が経っていて、本当に不思議な鑑賞体験でしたね。
塚本監督:画に対するフェティッシュなまでの執着というのが感じられる。全カットの画を緻密に計算しているのが良く分かりま す。『牯嶺街少年殺人事件』はその結晶。
『恐怖分子』を観直してみると、全部が『牯嶺街少年殺人事件』や『ヤンヤン夏の想い 出』に向かうためのものというか。編集や画のカットへの執着が既に始まっているという、息詰まるほどの完成度だなと。
『牯嶺街少年殺人事件』は、その世界に放り込まれて、目撃してしまったかのような感覚
柳下氏:『牯嶺街少年殺人事件』も『恐怖分子』もどちらも、普通の映画にあるような登場人物の説明がない。誰が主人公かも、はじめはパッとすぐに分からない。最初の30分くらいは、もしかしたら何が起こっているのか分からないという感じになるかもしれない。でも、特に『牯嶺街少年殺人事件』は、観客がまるでその世界に放り込まれて、それを目撃してしまったかのような感覚になりますよね。
塚本監督:『牯嶺街少年殺人事件』は、歴史的背景を説明している訳ではないが、歴史を下敷きにドラマが展開していることは分かる。悲惨さはあって、トーンが明るいわけではないのに、どこか華々しく、少年少女の十代の若い息吹が画面から溢れていている。そういうものが感じられるから共感が生まれるのかなと。あと、ヤン監督の作品は、すごくたくさんの人が出てきて、非常に痛烈で暴力的なことが突発的に起こるイメージ。『恐怖分子』は、緻密でドキドキするけど、悲惨だなと。
対照的に『牯嶺街少年 殺人事件』は、緑の草の匂いが溢れてきている。そこで非常に大きな違いを感じる。クーリンチェまでの5年間で一体何があったんだろうなと。その差異を『牯嶺街少年殺人事件』『恐怖分子』の2本を観ることで、感じて頂けるんじゃないかなと思う。
デジタルリマスターで蘇る『牯嶺街少年殺人事件』で描かれる闇
塚本監督:今回スコセッシ監督の協力でデジタルリマスターされて、フィルムだと時間がたって色が落ちたりしてしまうけれど、色も鮮明に観ることができますよね。懐中電灯の光だけで照らされるシーンは、普通は見える基盤を作るために補助のライトつけるけど、それを全くしていない。完璧に闇というのが本当にすごいですよね。闇の中に何かあるという気配も感じられる。
柳下氏:本当に、夜を真っ暗に撮ってますよね。フィルムでもこの暗さでああいう照明の当て方でなかなか撮ることができないと思います。あと、『恐怖分子』はしっかりとしたスタ ーを使っているけど、『牯嶺街少年殺人事件』はスタッフもキャストも半分以上が素人。 素直に芝居をしっかりしている。それが、この映画の良さに繋がっていると思います。
塚本監督:本当に1回観ても2回目観てもドキドキすることができるのは、画が本当にしっかりしているからだと思います。奇跡のようにすごい塊ができたような映画。
柳下氏:計算され尽くしているのに、そう見えない凄さがある。どうやったら、これが作れるのかなと思っちゃいますよね。
と、話題が尽きない大盛り上がりのイベントになりました。
そのほかに、塚本監督出演作の『沈黙』では、アン・リー監督の「台北はスタジオがあるし、台北界隈の自然は日本の風景に似ているので撮影するといい」との勧めでスコセッシ監督が台湾で撮影したことを明かし、劇中、十字架に貼り付けられているシーンは、台中にあるプールだったなどのこぼれ話も飛び出しました!
監督:エドワード・ヤン
出演:チャン・チェン、リサ・ヤン、ワン・チーザン、クー・ユールン、エレイン・ジン
1991年/台湾/3時間56分
配給:ビターズ・エンド
©1991 Kailidoscope