ベトナム戦争に反発してアメリカを去ったパルバース監督にとって、「(戦時に)“戦わない”という裏切り」が生涯の主題となっており、「1945年の戦時中、戦うことを拒否した“卑怯者”の脱走兵である日本兵(満島真之介)と米兵(ブランドン・マクレランド)、そして彼らを見つめる少女(織田梨沙)の物語」である日豪合作映画『STAR SAND ─星砂物語─』は、2016年夏、太平洋戦争の激戦地の一つ、沖縄県・伊江島で撮影されました。
作家・劇作家・演出家であるパルバースは、宮沢賢治や井上ひさしの作品の英語翻訳にも数多く携わり、その功績から、第18回宮沢賢治賞(2008)、第19回野間文芸翻訳賞(2013)、第9回井上靖賞(2015)を受賞し、72歳になった去年、本作で映画監督デビューを果たしました。
パルバース監督と、本作で初主演を飾った織田梨沙(映画『秘密 THE TOP SECRET』ヒロイン)と、戦うことを拒否した“卑怯者”の脱走兵を演じた満島真之介が、2017年4月10日(月)20:55より 、日本外国特派員協会での記者会見に臨みました。
Q. ご挨拶をお願いします。
織田「(全て英語で挨拶。)今回ヒロイン役で出演させて頂いていますが、オファーを受け嬉しくて、この幸運が信じられない気持ちでいました。この役を演じるにあたり、気がかりな点があって、それは、私は演技経験があまりないということと、日本の戦時中のことをあまり知らないということでした。洋海(ひろみ)の感情をどう演じるかと悩み、撮影は簡単な撮影ではなかったのですが、皆さんのご指導のお蔭で、各シーンをヒロインになりきって、演じることが出来ました。本当にこのチャンスを頂けて、嬉しく思っています。」
満島「グッド・イヴニング、エヴリーワン。この作品に参加できて光栄です。・・・ここからは日本語でいかせて頂きます。(会場爆笑)僕は沖縄出身です。沖縄というのは本州からすごく離れているし、方言が強くて、標準語を勉強するだけでも8年もかかりました。なので、イングリッシュはこれからちゃんと勉強します。
僕は小さいころからこの星砂を集めて遊んでいました。皆さんが四つ葉のクローバーを探すように、僕らは海に出て星砂を探しては友達にプレゼントをするということを小さい頃から当たり前のようにやっていました。
ロジャー(・パルバース監督)と初めて会ったときに、1枚の写真を見せてもらいました。その写真は、多分フェリーから撮った島の写真だと思うんですけれど、多分ここにいる皆さんに見せても、どの島かわからないと思うんですけれど、僕は一瞬で伊江島だとわかりました。小さい頃から、沖縄の離島の中でも一番行っていた島だったんです。小さい頃から毎年夏は家族でマラソン大会に出たりしていた島で、とてもゆかりのある島です。
また、僕らは、東京で生まれ育っている同じ世代の方々よりも、戦争の映像や体験談が身近にあり、今でも体の中に弾が埋まっているおじいちゃんおばあちゃん、手足がないおじいちゃんおばあちゃんに当たり前のように会って過ごしていた中で、この話が来た時に、すごく迷ったところもありました。この映画に参加することによって、僕自身のアイデンティティーだったり、今まで生きてきた沖縄での時間、先祖代々続くその想いだったりを全部僕が背負うことができるのかと、すごく悩んだ部分もあったんですけれど、そこにロジャー・パルバースという70歳を超えた新人監督が少年のような目でラブコールをくれて、そこに心打たれまして、この方と一緒に、沖縄とアメリカを結ぶ未来へのメッセージとして、これから僕らが生きていく平成の時代、オリンピックで世界各国から観光客が来る日本に、何を残せるのかというのをちゃんと伝える映画にしたいなと思ったので、一緒に走り切りました。
僕自身のおじいちゃんもアメリカ人です。この戦争がなければ、生まれてこなかった子供なんです。なので、色々な想いがある中で、僕は初めて沖縄で映画の撮影をして、今ここにいれることがすごく幸せです。
Q:作家・劇作家・演出家とあらゆるストーリーテリングのメディアで活躍されてきましたが、映画監督デビューまでなぜこんなに時間がかかったのですか?
監督:さあ。(笑)子供の頃から映画が作りたくて、90年に一度お金が集まったのですが、バブルがはじけて、できなかったんです。
Q:なぜ、星砂なんですか?
監督:1977年に1か月間鳩間島に滞在しました。そこに星砂があったけれど、最初は何だかわからなかった。ほとんど戦争が来なかったと聞き、そういう島があるのかと思った。そして1980年代に『戦場のメリークリスマス』の撮影でラロトンガ島に行ったけれど、その島も戦争をしなかった島でした。
昔からぜひ「脱走兵を英雄にしたい」と思っていたんです。悪い戦争で戦わない方が英雄的ではないかと。そして、2003年、某国がある中近東の某国を攻撃したんです。それで腹が立って、『星砂物語』を本として考え始め、日本語と英語で出版しました。気が向いたらAmazonで3冊ずつ買ってください。(笑)そして、映画化となったのです。
梨沙じゃなきゃこの映画成り立たないと最初から思ったし、満島君にアピールするチャンスは1回しかないと思い、何も言わないで1枚の写真を見せ、写真1枚で唾を付けました。1枚の写真だけで役者さんに映画に出てもらった監督は他にいないんじゃないでしょうか。
Q:役作りでしたことは?
織田:“役作り”という言葉はかっこつけているようで嫌なんですけれど、最初はとにかく英語の発音を監督と一緒に頑張りました。
満島:僕の場合は、ロジャー監督から見た日本人の葛藤、強さ、家族への愛情だったりが詰まりすぎていたので、一人では体づくりはしますけれど、中身は監督と沢山お話をしました。僕は平成に生まれですが、監督は僕らの2倍以上もここで時間を過ごし、日本の歴史を知っているので、見てきた日本人像だったりとか、世界からみた日本人像が集約されているなと思っています。その中で隆康はフラストレーションをどこにもぶつけようがないというとても難しい役どころだったので、まず頭で考えるのはやめました。戦争が起きていてもどうしてあの洞窟(ガマ)の中にいると呼吸ができるんだろう、波の音が反響してなんでこんなに落ち着く空間になるんだろう、というのを、撮影の時も感じていて、それをしっかり体感して毛穴のすみずみまで入れていくというのをしっかりとやらなければいけないなと思っていました。戦争の時に何百人もの人が隠れていたという洞窟(ニィヤティヤ洞)で撮影したので、いいも悪いも、目に見えないパワーが全部詰まっていて、撮影で毎日入る度に鳥肌が立ちました。なので、三浦(貴大)君とブランドン(・マクレランド)と3人で毎朝線香を立てて、手を合わせ、「今日もお邪魔します」と言い、その時代を生きてきた人たちとちゃんと繋がるということを一番大事にしてやっていたことが大きかったです。
あとは、監督とのリハーサルが楽しかったです。
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●あらすじ
1945年の沖縄。戦火から遠く離れた小島に渡り暮らし始めた16歳の少女・洋海(ひろみ)は、洞窟で日本軍とアメリカ軍からの脱走兵、隆康とボブに出会う。
隆康とボブ、そして彼らの世話を焼く洋海の間には、不思議な関係が築かれてゆく。
ある日、戦いで脚を負傷し、除隊を余儀なくされた隆康の兄・一(はじめ)が、養生のために洞窟にやって来るが、それは悲劇の幕開けだった──
2016年、東京。大学生の志保は、卒業論文のために教授から一冊の日記を手渡される。それは、戦時中に沖縄の小島で暮らしていた少女のものだった。志保は日記を読み、そこに封印されていた過去の出来事にわれ知らず迫ってゆく……。
出演:織田梨沙 満島真之介 ブランドン・マクレランド
三浦貴大 / 吉岡里帆
寺島しのぶ / 渡辺真起子
石橋蓮司 緑魔子
ダンカン・ハミルトン 近谷浩二 沼田康弘
監督・脚本: ロジャー・パルバース
原作:ロジャー・パルバース『星砂物語』講談社刊
主題曲:坂本龍一
エグゼクティブ・プロデューサー:前田紘孝、大川勝
プロデューサー:小西順子、吉岡裕美
後援:オーストラリア大使館
製作:Hara Office / Soul Age
配給:The STAR SAND Team
2017年 / 日本=オーストラリア / 日本語・英語 / 110分 / カラー / アメリカンビスタ / 5.1ch
© 2017 The STAR SAND Team